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2024.04.03

栄養ケア・マネジメントの実際 ~周産期・新生児の栄養管理~

カバー画像:栄養ケア・マネジメントの実際 ~周産期・新生児の栄養管理~

新たな命をお腹に宿す母体は、妊娠と同時に様々な体の変化と体調不良に見舞われることも少なくありません。また、妊娠中ならではの病気にならないように、栄養管理も不可欠です。

生まれてくる子どものために、お母さんの良きパートナーとなれるよう、管理栄養士・栄養士としてしっかり知識を身につけていきましょう。

周産期の栄養管理について

出産前後の期間を「周産期」といいます。 具体的には、妊娠22週から出生後7日未満までの期間です。

妊娠・出産は、生理的な現象であり、母体は徐々に順応していきます。しかし、妊娠すると、心も体も今まで経験したことのない不安や喜びが押し寄せてきます。

そのような中で、落ち着いてゆっくりと食事をとることは、何より心の安定を保つために大切なことです。妊娠の経過に沿って、母体と生まれてくる赤ちゃんの栄養について正しい知識を持ち指導していくことが大切です。

妊娠前の体格や妊娠中の体重増加量について

産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2020(日本産科婦人科学会)より

1.「妊娠前の体格と妊娠予後」について

1)やせ女性は切迫早産、早産、貧血および低出生体重児分娩のリスクが高まります。
2)肥満女性は妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開分娩、巨大児などのリスクが高まります。

2.「妊娠中の体重増加量」について

1)妊娠前の体格によって推奨体重増加量が異なります。
2)妊娠期に体重増加量が著しく少ない場合には、低出生体重児分娩や早産のリスクが高まり、体重増加量が著しく多い場合には、巨大児分娩、帝王切開分娩のリスクが高まります。

3.妊娠中の栄養指導

1)バランスのとれた栄養素の摂取を勧めます。
2)妊娠前の体格(自己申告妊娠前体重を用いた BMI 値)に応じて指導します。
3)増加量を厳格に指導する根拠は必ずしも十分ではないと認識し、個人差を考慮したゆるやかな指導を心がけます。
4)授乳期間中の必要エネルギー量については「妊娠前より増加する」ことを指導します。

妊娠期の栄養アセスメントの留意点

1.臨床診査(問診と診察によって)

1)既往・現病歴
過去の疾病歴や現在治療中の疾患の有無を問診します。
特に、糖尿病、高血圧、心疾患、腎疾患、呼吸器疾患、内分泌疾患には注視しましょう。

2)生活習慣
喫煙、飲酒、服薬、カフェインなどの摂取状況、身体活動量、労働環境などを聞き取ります。

2.身体計測

体重の測定
非妊娠時BMIが18.5(BMI:体重(kg)/身長(m)²)未満のやせ体型の場合には低出生体重児出産の可能性が高くなります。

妊娠時BMIが25以上の肥満体型の場合には、妊娠高血圧症候群、異常分娩などのリスクが高くなります。(※1 体重の管理については後述)

3.臨床検査

1)尿検査
尿糖(糖尿病早期発見のため)、尿たんぱく(妊娠高血圧症候群の早期発見のため)

2)血液検査
貧血の検査(貧血の早期発見のため)

4.食生活・食習慣調査

1)食生活
食事摂取量について記録法か質問票等によって把握し、食事摂取に栄養素等の摂取量の偏りがないか確認します。同時に、メチル水銀を含有する魚介類の摂取状況(※2 後述)、リステリア菌(※3 後述)等も把握し、摂取方法の指導をします。

2)食習慣
食事時間、飲酒習慣、間食習慣、その他食環境を把握します。「つわり」により食事がとれない場合の指導をします。

※1 - 体重の管理

参照:「妊産婦のための食生活指針」改定の概要(2021年3月)

○ 妊娠、出産、授乳等に当たっては、妊娠前からの健康なからだづくりや適切な食習慣の形成が重要です。このため、改定後の指針の対象には妊娠前の女性も含むこととし、名称を「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」としました。

○ 改定後の指針は、妊娠前からの健康づくりや妊産婦に必要とされる食事内容とともに、妊産婦の生活全般、からだや心の健康にも配慮した、10項目から構成されています。
○ 妊娠期における望ましい体重増加量については、「妊娠中の体重増加指導の目安」(2021年6月1日日本産科婦人科学会)を参考として提示しています。(表1,2)

これらはあくまでも目安ですので、妊婦さん一人ひとりにあった指導をしましょう。

※2 - メチル水銀を含有する魚介類の摂取について

参照:厚生労働省 魚介類に含まれる水銀について

魚介類には、良質なたんぱく質や血管障害の予防やアレルギーを抑制するDHAやEPAを多く含み、妊婦および出産のための食事においてとても欠かせない食材ですが、食物連鎖によって自然界中の水銀が取り込まれています。

妊娠期に偏った食生活などで魚介類を取りすぎると胎児の健康に影響を及ぼすことがあると報告されています。

水銀は、食物連鎖によって取り込まれているため体が大きい魚ほど水銀の量は多くなります。水銀の多い魚介類を偏って食べるのではなく、水銀摂取量を意識しながら魚食のメリットを活かすことが望ましいです。

厚生労働省の作成した表では、一週間に●(黒丸印:水銀量)1個までが目安となっています。妊婦が特に注意したほうが良い魚介類とその量についてを表3、妊婦が特に注意が必要ない魚介類を表4にまとめました。

注意しなければならない魚を、食べる量の目安よりもとても多く食べ続けた場合に限りますが、水銀がお腹の中の赤ちゃんに取り込まれたとき、音を聞いた場合の反応が、1/1000秒以下のレベルで遅れる可能性があることが分かっています。

※3 - リステリア菌について

参照:厚生労働省 リステリアによる食中毒

リステリア菌は、河川水や動物の腸管内など環境中に広く分布する細菌です。妊婦は免疫機能が低下しているため、少量のリステリア菌でも感染し、重症化することがあります。

感染初期には、倦怠感と軽い発熱を伴うインフルエンザと似た症状が出ます。重症になると髄膜炎や敗血症となり、最悪の場合死に至る場合がありますので注意しましょう。

また、妊婦が感染すると、リステリア菌が胎盤や胎児へ感染し、流産や生まれた新生児に影響を及ぼすことがあります。

このリステリア菌は、4℃以下の低温や12%食塩濃度下でも増殖する特徴があります。冷蔵庫に長期保存され加熱せずにそのまま食べられる食品は、原因となり得るので注意が必要です。

妊婦が特に注意したほうが良い食品について表5にまとめました。

リステリア菌感染予防対策

1)買い物の際に気をつけること
・食品を購入する際には、消費期限などの表示をチェックする。
・食品購入後は、すぐ帰宅し、冷蔵庫に入れる。

2)家庭内で気をつけること
・冷蔵庫は10℃以下に維持、冷凍庫は−15℃以下に維持する。
・ゴミはこまめに捨てる。
・タオルや布巾などは清潔なものを使用する。

3)調理の際に気をつけること
・調理中はこまめに手を洗い清潔を保つ。
・生肉や魚を切った後はまな板や包丁などは洗って熱湯をかけて消毒する。
・生野菜などは、水でよく洗う。
・十分に加熱する(目安は中心部分の温度が75℃で1分以上)。

4)食事の際に気をつけること
・食事の前には手をよく洗う。
・出来上がった食事は長時間室温で放置しない。
・残った食事は、清潔な容器で保存する。早く冷えるように小分けにすると良い。
・温め直すときは、十分に加熱する。

妊娠期に発症する病態・疾患とその栄養管理

1. 低体重

女性のスリム志向によるやせ体型、妊娠後体重増加が少ないなどにより、胎児の成長不全、流産・早産の危険性を高めることが近年は問題になっています。

2. 過体重・肥満症

妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などの合併症を引き起こすリスクが高くなります。

【低体重・過体重・肥満症の栄養管理】
妊娠期間中に適切な体重管理ができるように、現状を踏まえて付加量を設定します。基準は上記の表1、2を参考)

指導の際は
妊産婦のための食生活指針
「妊婦の食事摂取基準(日本人の食事摂取基準2020年版)」(※表6参考)
「妊産婦のための食事バランスガイド」(※表7参考) を活用します。

3.妊娠貧血

ヘモグロビン(Hb)値 11.0 g/dL 未満、またはヘマトクリット(Ht)値33 %未満のとき診断されます。

妊婦貧血は全妊婦の20 %に発症し、その大部分は妊娠に起因する鉄欠乏性貧血、葉酸欠乏性貧血または両者を合併したものとなります。

妊娠すると循環血液量に、赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット値の増加が追いつかず、相対的に薄まり、貧血の状態になるのです。

【妊婦貧血の栄養管理】
食生活の改善を行い、それでも症状が改善しない場合は、主治医の処方のもと鉄剤の経口服用となります。

鉄を多く含む食品や動物性たんぱく質、ビタミンCなどの鉄の吸収を促進する栄養素を含む食品を摂取します。

お茶やコーヒーに含まれるタンニンやほうれん草などの野菜に含まれるシュウ酸、穀類や豆類に含まれるフィチン酸、食物繊維は鉄の吸収を阻害する成分であるため、摂取過剰にならないように注意します。

鉄の吸収環境を整えるため、特定の食品に偏らない摂取を指導します。

4.葉酸欠乏

妊娠前から妊娠初期にかけて、葉酸をしっかりとることで、赤ちゃんの神経管閉鎖障害の予防につながります。妊娠を希望する女性の食生活についての指導が必要になります。

【葉酸欠乏の栄養管理】
妊産婦のための食事バランスガイドに記載の通り、神経管閉鎖障害とは、胎児の神経管ができる時(受胎後およそ28日)に起こる先天異常で、脳瘤・ 二分脊椎・無脳症等があります。

妊娠を知るのは神経管ができる時期よりも遅いため、妊娠を希望する女性は緑黄色野菜を積極的に摂取し、サプリメントも上手に活用しながら、しっかり葉酸を摂取するように指導します。

しかし、神経管閉鎖障害の発症リスクは多因子によるものであり、葉酸摂取不足のみが発症要因ではないことも伝えましょう。

5.妊娠高血圧症候群

妊娠時に高血圧を発症した場合、妊娠高血圧症候群といいます。妊娠前から高血圧を認める場合、もしくは妊娠20週までに高血圧を認める場合を高血圧合併妊娠と呼びます。

妊娠20週以降に高血圧のみ発症する場合は妊娠高血圧症、高血圧と蛋白尿を認める場合は妊娠高血圧腎症と分類されます。

【妊娠高血圧症候群の栄養管理】
妊娠前のBMIに基づいて妊娠中の体重増加量を適切なエネルギー量摂取により管理します。

エネルギー、たんぱく質、食塩相当量、水分の摂取は妊娠高血圧症候群の栄養管理指針(日本産科婦人科学会、1998)に基づき行います。極端な制限にならないように配慮し、ビタミン・ミネラルはできるだけ多く摂取するよう指導します。

この指針の食塩相当量は、7~8g/日になっていますが、「日本人の食事摂取基準2020年版」における女性の目標量は6.5g未満/日になっていますので、食塩摂取には留意します。

6.妊娠糖尿病

妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常を言います。妊娠前からの糖尿病は含めません。

【妊娠糖尿病の栄養管理】
妊娠中に発症する糖代謝異常には、妊娠糖尿病、妊娠前からの糖尿病で、糖尿病合併妊娠があります。

妊娠糖尿病の摂取エネルギー管理(糖代謝異常妊婦におけるエネルギー管理:糖尿病診療ガイドライン2019)に従い、「糖尿病食事療法のための食品交換表(編著:日本糖尿病学会)」を用いて、各食事の摂取食品群とエネルギー配分を行います。

また、「妊産婦のための食事バランスガイド」を基に妊娠中期、後期の付加量を指導します。(※上記の表7参考

7.つわり、悪阻

月経の遅れなどによって妊娠したことに気付きはじめる頃に、胃部不快感、吐き気、嘔吐などの症状が出現します。これらの不快症状を「つわり」といいます。

つわりの原因については、現在はっきりと解明されていませんが、妊婦の50~80%が体験し、妊娠5~6週ごろから12~16週ごろまで続きます。その症状には個人差が大きく、妊娠中全く感じない人や最後まで持続する人など様々です。

このつわりが生理的な範囲を超えて、病的になったものを「妊娠悪阻」といいます。妊婦の0.5%ほどの発症率です。

【つわり、悪阻の栄養管理】
つわりがひどい場合、胎児への栄養を心配する妊婦も多いですが、この時期の胎児はまだ小さく、栄養分も母体よりも胎児に優先されるためあまり心配しすぎないように指導します。

嗜好の変化があり、食欲がないことが多いため、栄養分を考えすぎず、食べられる物を食べられるときに食べるように指導します。無理に食べようとするとそれがプレッシャーにつながり症状を助長することもありますので、リラックスした状態で過ごすように促します。

つわりは、空腹時に強く感じるため、空腹にならないように手軽に食べられる物を準備しておくのも良いでしょう。

においや食べ物の湯気に対して敏感になるため、同じ食品でも熱いものよりは冷めたものの方が食べやすくなることを伝えましょう。嗜好的には、酸味やさっぱりしたものが好まれます。

また、便秘はつわりをひどくするため、食物繊維を積極的にとるように指導しましょう。

極端な栄養障害がある場合では輸液等で栄養補給を行います。

8.授乳期

母乳による授乳が適切に行われるように健康管理が必要になります。

乳汁分泌不全は、乳腺機能が正常に働かず、乳汁分泌が著しく不良の場合を言います。

【授乳期の栄養管理】
母親の食生活は母子の健康状態や乳汁分泌に関連があるため、食事のバランスや禁煙等の生活全般に対する配慮事項を示した「妊産婦のための食生活指針」(既述の ※1 - 体重の管理 参照)を踏まえた支援を行います。

栄養学的には、母体の体重増加分の減少と母乳分泌に伴う消費量を考慮した管理が必要です。

乳汁分泌不全は、食事量不足、水分摂取不足、栄養不良あるいは栄養過多、肥満、貧血などと関係があります。乳児の発育状態と分泌量との相対的関係を観察することで判断しましょう。

新生児期・乳児期の栄養管理について

乳児期は、主に乳汁を栄養源とする乳汁期と、乳汁以外の食物からも栄養をとるようになる離乳期に分けられます。
乳汁期の栄養は、母乳栄養、人工栄養、混合栄養の3種類があります。

授乳・離乳の支援ガイド」では、離乳の定義を「離乳とは、成長に伴い、母乳または育児用ミルク等の乳汁だけでは不足してくるエネルギーや栄養素を補完するために、乳汁から幼児食に移行する過程をいう」としています。

離乳食の開始の目安は「生後5、6ヶ月頃」です。 生後6ヶ月頃になると、母乳だけでは不足する栄養素があるため、遅くとも生後6ヶ月までには始められるとよいと言われています。「授乳・離乳の支援ガイド」を参考に支援していきましょう。

以上
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科
役職:講師
中沢 麻理 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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