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2023.11.06

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<食道、胃、腸>

カバー画像:疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<食道、胃、腸>

栄養ケア・マネジメントの基本、プロセスに続き、疾患別の特徴とポイントを見ていきましょう。

今回は<食道・胃・腸>にフォーカスし、胃食道逆流症、胃・十二指腸潰瘍、腸疾患(過敏性腸症候群・炎症性腸疾患)に分けて解説していきます。

1.胃食道逆流症

胃酸を多く含む胃の内容物が食道内に逆流して起こる病態を、胃食道逆流症(Gastro Esophageal Reflux Disease : GERD)といいます。この胃食道逆流症(GERD)は、症状や食道の粘膜の状態によって、逆流性食道炎と非びらん性胃食道逆流症(Non-Erosive Reflux Disease : NERD)とに分けられます。

主な自覚症状は、胸やけと呑酸(どんさん)で特に、空腹時や夜間の胸やけが特徴的です。胸やけ、呑酸(どんさん)などの症状があり内視鏡検査で、食道粘膜にびらん潰瘍などの病変が見られるものが逆流性食道炎とされます。

また、胸やけ、呑酸などの症状があるのに、内視鏡検査で食道粘膜に病変が見られないものが、非びらん性胃食道逆流症(NERD)となります。
胃食道逆流症(GERD)の治療はどちらであっても、胃酸分泌を抑える薬物療法が基本ですが、同時に生活習慣の改善も行います。

また、胃食道逆流症(GERD)を放置すると「食道がん」の一因とも言われており、原因を取り除く治療や工夫も必要となります。

栄養ケアのポイント

1)肥満を解消する。
2)胃酸の分泌を促進する油っぽいもの、甘いもの、刺激性の強いもの、高繊維食品は控える。
3)アルコール類は制限する。
4)禁煙とする。
5)飲食後はすぐ横にならない。寝たきりの人は体位(上半身)を少しでも挙上する。
6)ベルトやコルセットなど腹囲を強く締めない。

など、生活習慣の改善を目的とします。近年は胃逆流症の症状を訴える人も増加傾向にあり、特に働き盛りの男性に多く発症しています。

2.胃・十二指腸潰瘍

疾患別栄養ケア・マネジメントの消化管疾患を基本とします。経口摂取した食物は胃・十二指腸を経由して、腸管で生命維持に必要な栄養素を消化して、体内に吸収されます。
消化器疾患における慢性胃炎、消化性潰瘍、胃 MALTリンパ腫、胃癌など、多くはグラム陰性菌である Helicobacter pylori (H. pylori)の関与が報告されています 。

特に胃・十二指腸潰瘍患者に対する H. pylori除菌療法は、日本消化器病学会が推薦する 「EBM に基づく胃潰瘍診療ガイドライン」 を踏まえた主要な診療であります。

この治療の流れから、上部消化管内視鏡検査と、第一に胃潰瘍の出血の有無、次にH. pylori感染診断と、NSAID 内服の有無を目安にして治療を行うことになります。

胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)の臨床的重症の場合は、消化性潰瘍の合併症出血や穿孔が緊急入院の適応となり、早急な治療法の選択が必要となります。

そのほか、狭窄や難治性潰瘍、巨大潰瘍による疼痛、悪心・嘔吐などの症状が激しい時や、食事摂取不能時は入院適応で加療されます。

また、これら消化性潰瘍の症状は上腹部痛、吐血、下血、悪心、嘔吐、背部放散痛など多様な症状があり、これらの症状を有する他の疾患との鑑別が必要となるでしょう。
それぞれ胃・十二指腸潰瘍の症状には特徴が診られます。

胃潰瘍の症状
一定パターンに添わない場合が多いとされます(例:摂食は時に痛みを激しくする)。閉塞に関連した(例:鼓腸,悪心,嘔吐)症状を示す場合もあります。

十二指腸潰瘍の症状
痛みのパターンは一貫しているようです。食事によって痛みは和らぎますが、食事の2~3時間後には再発します。痛みが夜に起こるのは、よくみられる症状で十二指腸潰瘍の可能性を高く示すとされます。

これらの投薬治療は胃酸を中和もしくは減少させますが、近年は胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)発症予防に向けた治療としてH. ピロリの除菌治療に移っています。同時にH2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬、スクラルファート、制酸薬などで投薬治療されます。

このように投薬治療やピロリ菌除去によって、手術を必要とするケースは減少しています。しかし穿通、閉塞、再発した出血、悪性と疑われる消化性潰瘍、内科治療に反応しない症状の場合は、手術が適応されます。

そして、他の理由(悪性腫瘍)などで胃切除の手術が施行された場合の栄養ケアは、胃酸と粘液のバランスを回復させる(①ストレス、②不規則な食事、③胃へ刺激物)を除く必要があります。

また胃の構造から塩酸やペプシンが出る潰瘍のできにくい「胃底腺領域」と、「幽門腺領域」との境目の幽門腺領域側に、潰瘍ができやすいともされます。

このような発症部位から「胃腸にやさしい食生活」など考慮した栄養ケア・マネジメントが必要と考えます。

消化管術後の栄養ケアポイント

1)体重の減少は、術前からの食欲不振や、胃切除した際の食欲低下などで出現します。
2)術後患者は残った胃袋が小さいので,すぐに満腹になり一度に多く摂食できません(小胃症状)。そのため、少ない量の食事を頻回にとることが奨められます。
3)ダンピング症候群とその他の食後の症候群を防ぐために、食事の摂り方に注意します。
早期ダンピング
脱力感,めまい,発汗,悪心,嘔吐,動悸が,食後すぐに20~30分後に発症します。特に高浸透圧性の食事(アルコール、濃い味付け、ハチミツなど)摂取後におきるので注意しましょう。食事はより少量、頻回に炭水化物の摂取を減らすことが効果的です。

後期ダンピング
胃から炭水化物が急激流失することに起因しています。血中グルコースが早くピークに達すると過剰のインスリンの放出を刺激し、食事の2~3時間後に低血糖の症状を呈します。高蛋白と低炭水化物食、適切なエネルギー摂取が(頻繁で少量の食事では)奨められます。そしてこの様な症状を呈した場合は、糖質を補給して様子をみます。(低血糖対策)

4)貧血は一般的に術後発症します。(通常は鉄欠乏性、しかし場合によってはB12欠乏が原因です。)原因に応じた栄養ケアが大切です。
5)骨軟化症が起こる患者もいます。特に胃全摘の術後患者には月に1回,ビタミンB12の補給が、全員に予防として奨められています。
6)逆流性食道炎は、食道や胃の摘出や再建術による機能的変化により、食物が逆流する症状として発現します。先述の1、胃食道逆流症の栄養ケアを参照して下さい。

以上の栄養ケアの特徴があります。

胃・十二指腸、消化管術後の具体的な食事療法は
①高脂肪・高繊維の食品は控える。
②刺激物(香辛料など)、高温、冷たい物を避ける。
③良質なたんぱく質を摂る。
④少量を頻回に食べる。
など心がけます。下記の表3、4を参考にして下さい。

3.腸疾患

消化機能が十分でない腸疾患として潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患(IBD)と、過敏性大腸炎(IBS)があります。

この2つの疾患は自覚症状として下痢、腹痛、便秘、下部出血や発熱など、非常に生活QOLを損ないます。そして現代社会で増加している腸疾患でもあります。

1)過敏性腸症候群(IBS:Irritabie Bowel Syndrome)

IBS患者さんでは便秘がちや下痢がちなどさまざまなタイプがあり、これらはブリストル便形状尺度という評価スケールを用いて、便の形状と頻度から「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」の4つの型に分けられます。

このIBSの発症には心理的要因が大きく、器質的疾患でないことを確認して、ライフスタイルの改善・心理的軽減を計るようにします。

2)炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)

IBDとは潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative colitis)とクローン病(CD:Crohn‘s disease)の2疾患を指します。

この疾患は大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍を引き起こす原因不明の疾患です。発症は比較的若い世代で、長期間の療養が必要となります。

栄養ケアのポイント

消化管疾患の「食道・胃十二指腸潰瘍」とは、違った視点での栄養ケアが必要となります。特徴として炎症性腸疾患は、原因不明の難治性腸疾患障害で「特定疾患難治性炎症性腸疾患」に指定され、再燃・寛解期での栄養管理が必要となります。

日本消化器病学会ガイドラインにおいて、潰瘍性大腸炎は食事制限を強いるべきではないと示されていますが、炎症性腸疾患の患者で多いのは潰瘍性大腸炎であり、症状や訴えが同じため、活動期の治療法はCD・UC同様に施行されます。

下記の記事で、IBS・IBDにおいて厳しい食事制限ではなく“正しい食生活”にシフトすることについてお伝えしています。栄養管理・食事指導の詳細についても記載していますので、ご参考くださいね。

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<IBS、IBD>

4.食道・胃・腸疾患の栄養ケア・マネジメントの特徴

退院後の食事・生活で大切な支援・アドバイスとして「無理しないで、好きなものをゆっくり食べる」などを心がけます。そして症状や病態に併せた栄養補給と、療養ストレスによる負担をかけないことも重要となります。

消化管疾患の栄養ケア・マネジメントは、粘膜を保護して発症予防します。さらに内科的な治療から外科的治療後の易消化術後食など栄養管理も必要となります。

術後の副作用など考慮した栄養ケアと同時に、退院後の食事・生活習慣など表7.など参考にして、栄養ケアから患者QOL向上を目指しましょう。

そして喫煙は潰瘍とその合併症を発症する危険因子とされ再発率を増やします。タバコ喫煙習慣も見逃せません。

以上
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科 学科長
役職:教授
白石 弘美 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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