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2023.11.06

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<IBS、IBD>

カバー画像:疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<IBS、IBD>

<食道・胃・腸>の代表的な疾患と言えば、胃食道逆流症、胃・十二指腸潰瘍、腸疾患(過敏性腸症候群・炎症性腸疾患)が挙げられますね。

今回は、IBS(過敏性腸症候群)とIBD(炎症性腸疾患)に注力して解説していきます。

胃食道逆流症、胃・十二指腸潰瘍については下記の記事で詳しく解説していますので、ご参考ください。

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<食道、胃、腸>

1.過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)

過敏性腸症候群(IBS)とは、腹痛やお腹の不快感があり、それと関連して便秘や下痢などの異常(排便回数や便の形の異常)が、数ヵ月以上続く状態のときに考えられる病気であり、診察の結果、大腸に腫瘍や炎症などの病気がないことが前提になります。

我が国のおよそ10%程度の人がこの病気であるといわれ、近年、患者さんが増加しています。診断は血液検査、便・尿検査で異常なしとされたら、ローマⅢ基準でIBS診断します。
IBS患者さんは便秘や下痢を起こしやすく、さまざまなタイプがあります。これらはブリストル便形状尺度という評価スケールを用いて、便の形状図1)と頻度から「便秘型」、「下痢型」、「混合型」、「分類不能型」の4つの型に分けられます。

IBS栄養ケアでは生活習慣の改善が重要です

IBSの栄養ケアでは、3食を規則的にとり、暴飲暴食、夜間の大食を避け、食事バランスに注意したうえで、ストレスを溜めず、睡眠、休養を十分にとるように心がけてください。生活習慣を改善しても症状がよくならない場合は、次に薬による治療を行います。

処方される薬は下痢症状、便秘症状に併せて用いられ、下痢型の方には腸の運動異常を改善させるセロトニン3受容体拮抗薬(5-HT3拮抗薬)、便秘型の方には便を柔らかくする粘膜上皮機能変容薬も用いられます。また下痢に対しては止痢薬、お腹の痛みには抗コリン薬、便秘に対しては下剤も補助的・頓服的に使用されます。

IBS発症には器質的な疾患を除外した、ストレスや消化管運動の変化など心理的要因が大きいとされ、欧米で腸疾患患者の30~50%とも報告される疾患です。

IBS栄養ケアのポイント

1)刺激物、アルコールは控える
2)炭水化物あるいは脂質を多く含む食事量に配慮
3)コーヒー、アルコール、香辛料に注意する


このような食品をとることで腹痛・下痢・便秘など便通異常が生じやすくなることがあります。症状を誘発しやすい食品がある場合は(個人差がある)、それらの食品をできるだけ控えるようにしましょう。

次の食品は症状の改善に役立つのでお勧めしています。
1)ヨーグルトなどの発酵食品は症状の軽減に有効です。
2)便秘型の患者さんは食物繊維を多く含む食品が効果的です。
3)適度な運動、朝食の摂り方によっても症状の軽減効果が期待できます。


薬物療法でもIBS症状が軽快しにくい患者さんは、心理療法が有効なことがあります。その心理療法には、ストレスマネージメントに加え、リラクセーション(弛緩法)など施行されるようです。

またIBS患者の多い米国ではFDDMAP食事療法が提唱されています。FPDMAP食の詳細については、米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所による情報を参照して下さい。

2.炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)

炎症性腸疾(IBD)とは潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病(CD)を指し、発症として遺伝素因・環境要因、食事、感染から、ストレスなどによる腸管免疫の異常が原因とされています。しかし腸管免疫異常の起きる本質は現在(2022年)でも不明です。よってUC・CDとも厚労生省による特定疾患難治性炎症性腸疾患に指定されています。

また、この疾患は寛解・再燃を繰り返すため、治療は大きく以下の2つ
①寛解維持療法:炎症が治まっている状態を維持する
②寛解導入療法:炎症が強くなり再燃・活動した状態から炎症を抑えていく治療
となります。

潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)

主に大腸粘膜に潰瘍やびらんが(病変が大腸全体の広範囲に)できる原因不明の非特異性炎症性疾患で厚生労働省特定疾患に指定されています。

診断は細菌性、ウイルス性の感染性腸炎などで無いことを確認してから、潰瘍性大腸炎を疑い検査が行われ、診断は臨床検査(内視鏡)で確定診断されます。病変部は主に直腸から連続して全大腸に広がって、これら病変の範囲から全大腸炎型、左側大腸炎型、直腸炎型に分類されます。

発症は比較的若い世代で、罹患患者数は増加しており、寛解維持して長期間の療養が必要となります。
症状は持続性や反復する腹痛、下痢、血便および粘液便(粘液と血液が混じった便)などお腹症状が主となります。これらの継続により発熱、体重減少、貧血なども同時に出現します。このような症状が厳しく出ている時期を「活動期」、症状が鎮静化している「寛解期」とされます。

治療は活動期の炎症を抑える投薬治療であり、寛解期導入して再燃予防の継続治療が行われます。しかし内科的(投薬)治療で効果がない場合では、手術適応される症例もあります。日常の診療では、UC重症度分類スコアで自覚症状も含めて症状確認して治療が行われます。

UC栄養ケアのポイント

栄養食事療法は補助的な治療として、症状・病期に伴う栄養補給が行われます。活動期においては、腸管安静の処置として静脈栄養管理が施行され、経腸栄養を経て食事は低脂肪、低残渣食で腸管安静を導入します。

1)寛解期には、栄養バランスを考慮した、それぞれの症状に適した全身の栄養改善を図るようにします。
2)病期により対応して、基本的に禁止する食品はありません。しかし患者の訴えによる体調悪化する食品を禁止した場合の、代替栄養補給を提案する必要があります。
3)寛解期の維持には治療ガイドラインでも厳しい食事制限は必要ないとしていますが、UC発症をきっかけに食事生活の偏りや栄養バランスなど、食生活状況を見直す機会として捉えると良いでしょう。

クローン病(Crohns disease:CD)

主に口腔から肛門までの全消化管に、非連続性の慢性肉芽腫性炎症を生じる原因不明の炎症性疾患で、厚生労働省特定疾患に指定されています。 診断は細菌性、ウイルス性の感染性腸炎などで無いことを確認してから、厚生労働省研究班によるCDAI活動分類による診断や(表4)、臨床検査(内視鏡)で確定診断されます。
初発症は10~30歳に多く、日本での罹患者数は増えており、中高年での発症は少ない疾患です。しかし潰瘍性大腸炎より罹患者数は少ないですが、発病から寛解~再燃を繰り返す長期間の加療が必要となります。

CD病変の多くは小腸・回盲部・肛門周囲に好発して、自覚症状の多くは腹痛(約80%)、下痢(約80%)が主な症状となります。また症状は病変部位によって下痢、腹痛、発熱、体重減少を4つの主訴ですが、その他に肛門病変、上部消化管病変、口腔アフタ、栄養障害、貧血や関節炎、虹彩炎など多彩な合併を示し、CDの診断は活動性分類(CDAI)、合併症、炎症反応などにより、軽症・中等度・重度に分類し病勢評価され治療の参考にします。(表5)
また潰瘍性大腸炎と同じように症状が厳しく出ている時期を「活動期」、症状が鎮静化している「寛解期」と呼ばれます。治療は活動期の炎症を抑える投薬治療であり、寛解期導入して再燃予防の継続治療が行われます。しかし内科的(投薬)治療で効果ない場合では、手術適応となります。

そして日常診療ではIOIBDアセスメントスコア(表6)で確認し、自覚症状も含めて継続診療で活動・寛解の病勢を評価します。

CD栄養ケアのポイント

投薬と栄養療法が治療の基本となり、長期間で再発・再燃を繰り返すので病勢コントロールの内服加療となり、栄養管理は、寛解維持療法として低脂肪・低残渣食や腸管刺激の少ない食事と、経腸栄養の摂取が行われます。また病期・病勢(活動期、軽症~中等度、寛解期)による栄養管理で、食事と経腸栄養の摂取割合を替えていきます。

1)重症(活動期)の場合
主に入院加療で絶食とし、中心静脈栄養(TPN)から経腸栄養(EN:成分栄養剤あるいは消化態栄養剤)で必要栄養量が投与される。

2)中等度~重度の場合
第一選択として経腸栄養法(EN)80%程度で栄養補給される。その際、成分栄養剤のみで長期経腸栄養におよぶ場合は、必須脂肪、亜鉛・銅・セレンなどのミネラルやビタミンB12の欠乏に注意する。

3)軽度~中等度の場合
投薬治療とともに患者の受容性あれば栄養療法(経腸栄養法)も有用で、普通900kcal/日程度(必要量の50%程度)が使用される。

4)寛解維持期の場合
薬物による治療とともに、在宅経腸栄養法が用いられる。患者のQOLを考慮してENで必要栄養量30~50%、残りを食事から低脂肪・低残渣食事として十分な栄養確保とビタミン、ミネラル欠乏に留意していく。

以上にように病勢コントロールのため、栄養療法は有用ですが在宅における患者QOL、嗜好性など考えて、スライド方式(表7)による寛解維持期から再燃までの栄養管理が参考となります。

CDの低脂肪・低残渣食事療法の調整

患者は若年者が多く、多脂食品や洋風料理を好む傾向にあり、低脂肪料理で嗜好を満足させる調理工夫が重要となります。IBD患者で必要となる栄養量の目安を表8.に示しました。参考にして下さい。

1)必要エネルギ‐量は、全体に35kcal/㎏以上と多くなりますが、消化吸収の点から穀類は白米、うどん、パスタ類、食パンをお勧めします。
2)たんぱく質も栄養価(アミノ酸価)の高い、魚類、獣鳥肉類、鶏卵、豆腐類などをしっかり摂取します。
3)油脂は摂取量について注意します。脂質量の制限中ですが、N-3系油脂(えごま油、イワシ・さんま・さばなど)の多い食品を献立に工夫して取り入れましょう。
4)野菜や果物は特に制限する必要はありませんが、高繊維質や消化の悪い食品(山菜、ゴボウ、こんにゃく、えのき茸、海藻類)は、体調の悪い時は控えます。
5)牛乳・乳製品については、特に制限しませんが腸内細菌や低脂肪のためヨーグルトが推奨されます。
以上のような栄養ケアのポイントを示しましたが、特に禁止すべき食品はありません。しかし患者によっては「摂取すると調子が悪くなる食品」があるので、患者と連携した観察が必要です。 

また、クローン病の栄養管理は、活動期(再燃時)に腹痛・下痢・発熱などで食欲が低下している場合、栄養状態、貧血などの栄養アセスメントが欠かせません。さらに経腸栄養の嗜好性から摂取不能や、微量ミネラルの欠乏などもあり低栄養状態をアセスメントすることは、社会生活を継続させるためにも重要となります。

以上
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科 学科長
役職:教授
白石 弘美 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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