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2025.02.06

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<脂質異常症>

カバー画像:疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<脂質異常症>

脂質異常症とは、血中のコレステロールやトリグリセリドの異常値により動脈硬化のリスクが高まる疾患です。本記事では、管理栄養士や栄養士の皆様に向け、脂質異常症の原因、診断基準、治療法、予防法についてエビデンスに基づいた専門的な知識をお伝えします。

1.はじめに

血漿中の脂質には、トリグリセリド・コレステロール・リン脂質・遊離脂肪酸などがあり、遊離脂肪酸以外は、血液中でタンパク質(アポたんぱく)と結合して血液中に運搬され、それぞれの役割を担っています。

脂質異常症とは
・高LDLコレステロール(高LDL-C血症)
・高トリグリセリド:高中性脂肪(高TG血症)
・低HDLコレステロール(低HDL-C血症)

のうち、診断基準のどれか1つ異常値を呈している疾患です。治療は動脈硬化疾患の発症予防、進展予防などの治療を目的としています。

さらに脂質異常症のLDL-C値で判断できない場合、二次的判断基準としてnon-HDL-Cの管理目標値が導入されました。

2. 脂質異常症の病態 

脂質異常症とは、LDL-C、HDL-C、TGなどの血清脂質が異常値を示した病態です。動脈硬化のリスクとなるため、脂質異常症を放置すると動脈硬化が進展し、心筋梗塞や脳卒中の発症となる恐れがあります。そのため、脂質異常症の原因別の治療継続により、これら動脈硬化の進展を防ぐ必要があります。

脂質異常症の概要として、以下のような病態があります。

・原発性(一次性)・・・家族的な遺伝素因などが原因とされます。
家族性高コレステロール血症や、家族性複合型高脂血症で血中総コレステロール(TC)と中性脂肪(TG)の両方が高値の場合は、若年での心筋梗塞の高率発症が報告されています。

・続発性(二次性)・・・以下の疾患や病態が発症原因となります。
糖尿病・肥満・慢性腎不全・ネフローゼ・SLE、骨髄腫・ステロイド剤投与や、過食・高脂肪食・飲酒・運動不足など、生活習慣がリスクとなり動脈硬化の発症に繋がります。

1)脂質の分類

1-コレステロール
副腎皮質ホルモンや性ホルモンを合成する原料であり、細胞膜の成分でもあるため、人間が身体を維持するのに不可欠です。一方、コレステロールは多くても少なくても問題であり、適正なコレステロール値を保つ必要があります。
さらに血管壁に入ったLDL-Cは“酸化”を受けやすくなり、LDLと性質が異なる「酸化LDL」と呼ばれる“真の悪玉”となるため、抗酸化対策も重要となります。

2-中性脂肪(トリグリセライド)
炭水化物や脂質などを原料として「肝臓」で作られます。人間が活動するうえで重要なエネルギー源となる中性脂肪ですが、過剰になると皮下脂肪として蓄積され、肥満や高トリグリセリド(中性脂肪)血症に繋がってしまうのです。この中性脂肪が増加することでHDL-Cが減少します。

3-HDLを構成するアポAI
小腸と肝臓で合成されるたんぱく質です。HDL-C低値の一次的要因として、アポAIの合成低下などの因子に関与する遺伝的変異が招くとされています。

一方、二次的要因は、①運動不足②肥満③メタボリックシンドローム④高TG血症⑤高炭水化物食⑥トランス脂肪酸の摂取⑥薬物(プロトコール)投与などが挙げられます。

そのため脂質の“量”とともに“質”の選択が(図2)必要です。

3.脂質異常症の管理目標

脂質異常症のLDL-C値で判断できない場合、二次的判断基準としてnon-HDL-Cの管理目標値(LDL-C管理目標値+30mg/dL)が導入されました。

1)とくに高トリグリセライド血症患者の診断にはnon-HDL-C値が有用であると報告されています。
2) また低HDL-C血症患者の、LDL-C値に加えてHDL-C値も評価することにより、リスク予測能が高まることが分かっています。
3)LDL-C測定法について「直接法も可」とされてきましたが、直接法はFriedewald式(F式)を上回る精度が認められないことから、原則としてFriedewald式のLDL-C値を用いることが推奨されています。

4.脂質異常症の治療

続発性(二次性)の場合は原疾患の治療する必要があります。一方、原発性(一次性)の場合は大きく分けて、以下の3つが重要となります。
①服薬など治療を継続する
②食生活に注意する(減塩+適正エネルギー量+脂肪の種類)
③自己による生活管理をする
さらに動脈硬化の予防・治療にはコレステロール量の低下とともに、酸化から守ることがポイントです。栄養管理として食生活による発症予防、治療はリスク別脂質管理の目標値(表4)を目指します。 
予防においてLDL-Cが180mg/dL以上を持続する場合は薬物療法を考慮します。とくに閉経によってLDL-C値が上昇した女性に対して、薬物治療がすぐに開始されるケースが多くありました。近年は薬物療法を開始する前に、個々の患者のリスクを見極め、非薬物療法も積極的に導入が検討されています。

家族性高コレステロール血症(FH)に対して、FH診断法に併せ,家族調査や小児FHの診断基準について注視していきます。

また、慢性腎臓病(CKD)についても病態概念が確立し、糖尿病と同じリスク病態であることから高リスク病態としています。

5.脂質異常症の食生活・栄養管理

予防的治療法としての食事療法は、
1)過食に注意した適正なエネルギー量
2)動物性食品の多量摂取を控える
3)魚の摂取量を増やし多価不飽和脂肪酸を多く摂取する
4)未精製穀類などで食物繊維は1日あたり25gを目標にする
5)糖質の少ない果物を適量接収する
6)アルコールを過剰摂取しない

などが、動脈硬化性疾患予防の食事療法で示されれています。
それぞれのポイントは以下の通りです。

1-エネルギー
標準体重を維持します。労作別に軽:25~30kcal、普通:30~35kcal、重:35kcal~を目指しましょう。

2-たんぱく質
飽和脂肪酸を含む肉の脂身や加工肉、鶏卵など動物性食品の多量摂取を控え、多価不飽和脂肪酸の魚摂取や、低脂肪牛乳を活用し、脂質エネルギー比20~25%を目指します。

3-コレステロール
200mg/日未満とし、トランス脂肪酸に注意しましょう。

4-ビタミン・ミネラル、食物繊維
未精製穀類の利用や、果糖の少ない果物、緑黄食野菜、海藻などの摂取量を増やし、食物繊維摂取量25g/日を目指します。

5-食事療法
脂質異常症のタイプ別食事療法を考慮して食生活・栄養管理を施行しましょう。
脂質異常症のLDL-Cや中性脂肪値改善のための、1日献立と一品料理が盛り込まれた、著者監修の「コレステロールと中性脂肪が気になる人の食事(女子栄養大学出版部)」などの参考資料を提示しながら、継続した食事療法が実践できるよう支援しましょう。
なお、詳細については「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」などを参照し、栄養ケア・マネジメント実践することをお勧めします。
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科 学科長
役職:教授
白石 弘美 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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