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2024.09.17

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<心不全(うっ血性心不全)>

カバー画像:疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<心不全(うっ血性心不全)>

「心不全(うっ血性心不全)」は、心臓機能の低下によって引き起こされる複数の症状を持つ臨床症候群です。心不全患者が増加する中、管理栄養士として適切な栄養ケア・マネジメントを行うためには、心不全の病態や原因、症状を深く理解することが不可欠です。本記事では、心不全の特徴と栄養管理のポイントを解説し、実践的なアプローチを提供します。

1.はじめに

急性・慢性心不全診療ガイドライン2021年フォーカスアップデート版によると、心不全とは、「何らかの心臓機能障害で心臓に器質的あるいは機能的異常が生じて、心臓ポンプ機能が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感・浮腫が出現し、それに伴い運動耐容が低下する臨床症候群」と定義されています。

しかし、循環器専門でない場合の私たちは、心臓の機能が低下した状態と漠然と捉えていることも多いと思います。その理由としては、心臓機能障害を起こす原因疾患が多岐であり、心不全(うっ血性心不全)は複数の症状があらわれる症候群であるためです。

2.心不全の病態・原因・症状

心不全は、「心不全の病態は循環不全であり、心臓から全身に必要な血液を送り出せない低心拍出と、血液が送り出せないために血液が停滞するうっ血により心不全の症状が引き起こされる」ということを理解することが重要となります。(表1)

引用元: 一般社団法人 日本循環器学科/一般社団法人 日本心不全学会 合同ガイドライン 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)を参照し編集部が作成

心不全は心臓の筋肉を養っている血管(冠動脈)が詰まる心筋梗塞や狭心症、動脈硬化や塩分の過剰摂取などが原因の高血圧、心臓の部屋を分けている逆流防止弁が障害される弁膜症、心臓の筋肉が正常に機能しない心筋症、拍動のリズムに異常が起こる不整脈(表2)先天的な心臓の病気など様々な疾患が発生原因となります。

また心不全は、心筋梗塞などで急速に悪化する「急性心不全」と、高血圧や心臓弁膜症により徐々に起こる「うっ血性心不全」に区別されます。

引用元: 医歯薬出版株式会社 発刊/本田佳子 編集 新臨床栄養学 第5版 栄養ケアマネジメント P340 心不全(うっ血性心不全) より引用作成

我が国では、平均寿命の延伸による高齢人口の増加、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病に伴う冠動脈疾患の増加、急性期治療の治療向上などにより、心不全患者は増加している状況です。

特に団塊の世代が後期高齢者に突入する2025年以降は、心不全患者が増加すると予測されています。日本全体における心不全患者の総数に関する正確な統計はないのですが、推計では2030年には心不全患者が130万人を超えるとされています。
心不全の症状としての「息切れ」は、低心拍出により全身に送り出される血液が十分でないために、酸素不足あるいはうっ血が生じることで起きる症状であり、「むくみ」は、血液がスムーズに流れず渋滞が起こることで圧が上がり、うっ血の状態になることで生じる症状です。

さらに「だんだんと悪くなり、生命を縮める」というのは、心不全を発症するとその後の経過で、増悪を繰り返しやすくなり生命予後が悪い疾患であります。

3.心不全の重症度分類(NYHA心機能分類)

NYHA心機能分類とは、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)が作成したものであり、身体活動による自覚症状がどの程度かを基準に重症度を分類したものです。

引用元: ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)作成を引用し編集部が作成

このNYHA心機能分類では、治療により改善が可能(可逆的)であり、1つ前の段階に戻れることもあり、次に述べる心不全の治療継続が勧められます。いずれにしても無症状、軽症の時期からリスクを抑制すること、早期からきちんと服薬することが重要とされています。

4.心不全の診断

身体所見:不整脈、浮腫、頸静脈怒張、食欲不振、腹部膨満など

血液生化学検査:脳症ナトリウム利尿ぺプチド(BNP)の上昇、炎症指標(白血球数、CRP)、クレアチニンなどに加えて心電図、胸部X線検査、心機能検査(心エコー)、心臓カテーテル検査などから診断されます。
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)では、日本における心不全の罹患率は米国に比較して多少低い可能性がありますが、これからは、わが国でも高齢化にともない心不全患者数が増加していくものとされています。

また入院した心不全患者の原因疾患として、日本におけるデータで多いものは1)虚血性心疾患、2)高血圧、3)弁膜症であり、なかでも虚血性心疾患の割合が近年上昇しています。

5.心不全の治療

心不全は良くなったり悪くなったりを繰り返す経過をたどる病気であり、上手に付き合っていく必要があります。そのためには大きく分けて
①服薬を継続する
②食生活に注意する(減塩+α)
③自己管理をする

この3つが大切です。

1)心不全の治療で気をつける3つの事

①内服の注意
調子が良くなると内服を忘れたり、止めてしまったりしがちです。治療中の内服中断は、心不全悪化の最も多い原因の一つとされ注意が必要です。

②食生活に関して
減塩の食習慣が最も重要であり、食塩摂取量は1日6g未満となります。その他にも食事量や水分量なども注視します。

③自己管理とは
風邪などの疾患と異なり、心不全は治療で完治する病気ではありません。長く付き合っていく病気であるため、内服の継続、食塩制限、日々の状態を自分自身で管理することが重要です。血圧や体重を毎日記録し、体重増加などの心不全の症状のチェックや、血圧の高すぎ・低すぎのチェックなど、日々の自己管理が大切です。

2)食生活・栄養管理

減塩の食事については、先述した高血圧学会治療ガイドラインで示されている生活習慣の修正項目が参考になるでしょう。(表4)

6.予防的治療法

予防的治療法として、心筋梗塞や不安定狭心症など急性期治療と同じように、心不全でも薬物療法や食事療法、禁煙、栄養指導、運動療法を組み入れた心臓リハビリテーションが行われます。詳細は「虚血性心不全」の項に記載してありますので参照して下さい。

7.心不全の食生活・栄養管理のポイント

基本となるのは減塩食(ナトリウム制限)ですが、胃腸障害食欲不振も伴いますので食事の工夫が重要なります。

減塩調理のポイントは
①塩味は1品へ重点的に付加する
②旨味だしや酸味、香辛料、香り野菜など利用する
③加工品や練製品は避ける

などを意識して行いますが、患者が実践できる実務教育が大切です。

その他のポイントとして、
1)エネルギーは、標準体重を維持する。特に安定期には必要エネルギー量が高まる。

2)たんぱく質は、低たんぱく血症・低アルブミン血症から浮腫など招くので、体重当たり1.0~1.5g/kg/日と不足させない。

3)ナトリウムは、血圧コントロールと密接な関係があり、心臓の負担軽減のためにも重要で、ナトリウム(食塩3~6g/日)制限を栄養ケアで最優先とする。

4)ビタミン・ミネラルは、推奨量より不足させない。特に病態からカリウム値は「低カリウム血症」を起こしやすいので注視する。

引用元: 医歯薬出版株式会社 発刊/本田佳子 編集 新臨床栄養学 第5版 栄養ケアマネジメント P339~344 心不全(うっ血性心不全) より引用、改変作成

急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)では、心不全について一般向けの説明を示していますが、このガイドラインは心不全の病態とそれに伴う症状、経過について非常に良く説明されています。私たちも栄養ケア・マネジメントで参照することをお勧めします。
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科 学科長
役職:教授
白石 弘美 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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