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2023.11.08

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<透析食>

カバー画像:疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<透析食>

糖尿病性腎症や腎硬化症などを患い透析を必要とする場合、併せて食事管理が極めて重要なポイントとなり、管理栄養士の介入が不可欠です。

透析治療の理解を深めながら、透析食の注意点を見ていきましょう。

1.はじめに

CKD診断ガイドライン2023の改訂に伴い、第66回日本腎臓学会学術総会(2023年6月)で改訂ポイントの解説がありました。この改訂の臨床的意義として、医療現場ではeGFR 5mL/分/1.73m²程度で透析療法が導入されていることを踏まえて、CKD(慢性腎臓病)ステージG5の定義が変更され、「末期腎不全(ESKD)」から「高度低下~末期腎不全」となりました。
そしてCKDの血圧投薬において、ACE阻害薬/ARBの投与は糖尿病合併の有無ではなく、蛋白尿があるかどうかを参考にすることとなっています。さらに糖尿病性腎臓病(DKD:Diabetic Kidney Disease)についても、アルブミン尿の進行抑制が期待されることから集約的な治療が勧められています。

このように高齢化が進むわが国において、慢性透析患者数は増加傾向にあること、CKDが心血管疾患発症や死亡のリスクとなることを考慮し、新規薬剤に関する新たなエビデンスを追加するため改訂されました。

また、腎不全の治療手段として2020年に『腎不全 治療選択とその実際』が日本腎臓病学会、日本透析医学会、他学会合同で紹介されています。その中で末期腎不全に対する治療手段には図1.最初は腹膜透析(PD)を開始し、その後に血液透析(HD)に移行するなど、その逆も選択され、どちらの透析からも腎移植を行うこともできます。もちろん移植後に腎機能低下を認めれば、両透析形態への移行もできると明示されています。
この透析には、血液透析腹膜透析の2種類があり、どちらの透析治療にするかは、ライフスタイルなどから自分に合った透析方法を選択します。いずれの透析も腎臓を回復させる治療法でなく、生涯継続していく治療法です。これら腎代替療法の予後改善には、保存期腎不全期の治療(食事療法も含めた)を十分に行う必要があります。特に長期透析患者は栄養障害を発症しやすく、栄養ケア・マネジメントが不可欠であり、社会復帰、ADL維持、QOLや生命予後に影響します。

2.透析治療

腎臓の障害は、糖尿病や高血圧といった生活習慣病、高齢化が原因となって腎臓の機能が低下して尿毒症(末期腎不全)に至ると透析療法が必要となります。近年、透析患者が増加して、透析治療を必要とするケースは珍しいことではなくなっています。

高度低下~末期腎不全(CKDステージG5)に至った場合は、透析療法、腎移植により低下した腎機能を代行させます。その際の透析療法の適応基準(厚生省科学研究腎不全医療研究班1991)が示されています。
長期透析治療の適応による透析療法には血液透析腹膜透析(腹膜還流)という二つの方法があります。その透析導入のため血液透析では内シャントという、主に上肢で動脈と静脈を吻合する手術が必要です。腹膜透析では腹腔内に還流用のカテーテルを挿入する手術をする必要があります。そして、血液透析のための内シャントは透析導入の1か月以上前に血清クレアチニンが8以上に上昇またはeGFRが10以下になる前から内シャント作成の準備をすることが望ましいとされます。

1)血液透析(HD:hemo dialysis)

血液透析(HD:hemo dialysis)は、治療場所は医療機関で、1回4~5時間、週 3回と時間が制約されます。そして自覚症状や合併症として感染・出血・針刺痛や頭痛・嘔気・血圧低下・筋けいれん・不整脈などが出現します。この透析操作は医療スタッフが施行するため感染や合併症の対応が速やかであり、患者さんが安心できます。

2)腹膜透析(PD:peritoneal dialysis)

腹膜透析(PD:peritoneal dialysis)は、治療場所が自宅であり、患者自身の腹膜を介する透析方法で透析液は自分(または家族)が1日4~5回交換します。透析交換時間に30分ほど要しますが通院する必要なく社会生活が行えます。しかし腹膜透析では血糖値上昇や脂質異常が出現しやすく、カテーテル感染にも十分な管理の注意が必要となります。

3.透析治療のターゲット

1)投薬療法

- 水・ナトリウム排泄障害に対して
・水・ナトリウムの蓄積を予防する⇒ 尿排泄がある場合ループ利尿薬の使用
・体液過剰による高血圧⇒ 降圧薬の投与

- 溶質の蓄積改善
・尿毒症の物質が蓄積⇒ 適正な透析の施行
・リン・カルシウムの代謝異常⇒ リン吸着剤、ビタミンD剤の投与

- 内分泌の機能障害
エリスロポエチン投与、鉄剤投与
エリスロポエチン

腎臓はエリスロポエチンというホルモンを分泌しています。 このエリスロポエチンは骨髄の造血幹細胞に働いて、赤血球の数を調整するため、 腎臓の機能が低下してエリスロポエチンの分泌が少なくなると赤血球も減少して腎性貧血となります。

2)食事療法

- 低栄養
十分なエネルギー投与、たんぱく質摂取量(血液透析0.9 ~1. 2g/kg/日、腹膜透析0.9~1.2g/kg/日)を勧める。

- 溶質排泄不全による合併症の予防
ナトリウム制限、リン制限、カリウムのコントロールをする。
溶質排泄不全

尿への溶質排泄量は摂取したNa, K, Clなど電解質, 蛋白や核酸の代謝産物などで、尿生成機能は腎機能の中で最も重要です。

4.透析食

透析治療のターゲットで述べた食事療法は、透析療法に入る前のCKD保存期は水分・塩分制限、カリウム制限、タンパク制限などについて厳しい食事制限がされてきました。そして、透析導入後は食事制限が緩くなりますが、透析導入された後も注意が必要なポイントがあります。

1)血清リン、カルシウムの管理について

日本透析医学会によると、疾患に伴う骨ミネラル代謝異常対策のためには、血液透析患者における血清リン、カルシウムの管理について

血清リンの下限は3.5mg/dL、上限は現状の6.0mg/dLよりも少し厳しく管理することが望ましい。
血清カルシウムも下限は現状の8.4mg/dLは必要であり、上限については10.0mg/dLのままでよいか、より厳しくしていく必要があるか、さらなる検討が必要。

と提言されています。

2)食塩、水分、カリウムの制限

透析の食事療法では、合併症予防のため食塩、水分、カリウムの制限が重要となります。特に血液透析患者は、透析治療の前後の間で透析間体重増加=体内貯留としドライウェイトが設定され、水分許容量が透析前後の体重5%以内に抑制し、心不全を予防する必要があります。
ドライウェイト(DW)

血液透析後の不必要な水分を取り除いた目標とする体重です。これは透析中の過度な血圧低下を生ずることなく、心血管の負担が少ない体重と定義されています。
一方、腹膜透析では、持続的治療のためドライウェイトの設定はありませんが、元々の腎機能(残腎機能)が低下している場合のナトリウム負荷は、高血圧や心臓機能の負荷増の原因となるため塩分・水分の制限が重要となります。

3)透析食の栄養基準

①エネルギー量は不足するとたんぱく質が利用され、その結果、筋肉量の減少、尿毒症物資の産生亢進の原因となります。そのため、たんぱく質の異化亢進を抑制するためにも十分な30~35kcal/標準体重kg/日のエネルギー摂取が必要です。

②透析患者では、低栄養の場合が多く透析前のたんぱく質制限をする必要が無くなることから、たんぱく質量は0.9~1.2g/標準体重kg/日となります。

③ナトリウム、水分の制限について血液透析(HD)はドライウェイト、腹膜透析(PD)は除水量・尿量により制限量が決められます。特に十分なナトリウム(食塩)制限が優先され、食塩制限を伴わない水分制限は不可能です。

④カリウムの制限は高カリウム血症をきたしやすい血液透析(HD)では2000mg/日以下の制限ですが、腹膜透析(PD)では特に制限の必要がありません。(PDでも高カリウム血症の場合は制限)そしてカリウムは、水にさらす、茹でこぼすなどの調理法で含有量を減らす工夫をしましょう。

⑤リンについては、食事中のたんぱく質食品に多く含まれています。リン基準量は摂取たんぱく質1gにつき15mg以下に制限します。特に表5.に示したリン含有量の多い食品を参考に注意して下さい。
以上のように透析患者(腎代替療法)のHD、PDの栄養ケア・マネジメントについて述べてきました。これら透析療法の早期導入が導入後の予後改善につながるとされており、療法選択の情報提供とともに、保存期腎不全(CKDステージ4)に対する食事療法も大切となります。さらに長期透析維持のためにADL改善、社会生活復帰、生命予後に影響がある栄養ケア・マネジメントの意義と役割があると考えます。
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科 学科長
役職:教授
白石 弘美 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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