業界ニュース
ALSの進行に関わる脂質を発見
2026.08.14
名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、臨床研究教育学の伊藤大輔特任助教らの研究グループは、愛知医科大学加齢医科学研究所神経iPS細胞研究部門の岡田洋平教授、順天堂大学大学院医学研究科生化学・細胞機能制御学の横溝岳彦教授、李賢哲准教授との共同研究により、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行に関連する新たな脂質代謝異常を発見するとともに、その代謝経路を標的とした治療薬候補の同定に成功したと発表した。
患者の代謝異常から治療法開発へ
名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、臨床研究教育学の伊藤大輔特任助教らの研究グループは、愛知医科大学加齢医科学研究所神経iPS細胞研究部門の岡田洋平教授、順天堂大学大学院医学研究科生化学・細胞機能制御学の横溝岳彦教授、李賢哲准教授との共同研究により、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行に関連する新たな脂質代謝異常を発見するとともに、その代謝経路を標的とした治療薬候補の同定に成功したと発表した。
名古屋大学、愛知医科大学、順天堂大学より10日、発表された。なおこの研究成果は8月10日付で米国医学雑誌「JCI Insight」に掲載されている。
名古屋大学、愛知医科大学、順天堂大学より10日、発表された。なおこの研究成果は8月10日付で米国医学雑誌「JCI Insight」に掲載されている。
ALSは脳や脊髄の運動ニューロンが進行性に変性、脱落する神経難病で、手足の筋力低下や筋萎縮、嚥下障害、呼吸障害などを引き起こす。現在承認されている治療薬は病気の進行を一部遅らせる効果にとどまるため、新たな治療法開発が強く求められている疾患でもある。
ALS患者の場合、神経変性だけでなく体重減少や脂質代謝異常など全身の代謝変化を伴うことが特徴として知られる。近年、エンドカンナビノイド系が神経保護や神経炎症の制御に関与することも報告されるようになった。だが、ALSにおいてどういった代謝異常が病態進行に関与しているのか、またそれらを標的とした治療法が有効であるかについては十分に解明されていなかった。
そこで研究グループでは、ALS患者の体内で実際に生じている代謝変化を出発点とするリバーストランスレーショナル研究を実施、患者血液の網羅的メタボローム解析と脂質メディエーター解析を行って病態に関連する代謝異常を探索するとともに、ALS患者由来のiPS細胞、ALSモデルマウスを用いてその代謝変化のALS進行における意義を検証し、代謝異常を標的とした新規治療法の開発に取り組んだ。
ALS患者の場合、神経変性だけでなく体重減少や脂質代謝異常など全身の代謝変化を伴うことが特徴として知られる。近年、エンドカンナビノイド系が神経保護や神経炎症の制御に関与することも報告されるようになった。だが、ALSにおいてどういった代謝異常が病態進行に関与しているのか、またそれらを標的とした治療法が有効であるかについては十分に解明されていなかった。
そこで研究グループでは、ALS患者の体内で実際に生じている代謝変化を出発点とするリバーストランスレーショナル研究を実施、患者血液の網羅的メタボローム解析と脂質メディエーター解析を行って病態に関連する代謝異常を探索するとともに、ALS患者由来のiPS細胞、ALSモデルマウスを用いてその代謝変化のALS進行における意義を検証し、代謝異常を標的とした新規治療法の開発に取り組んだ。
ALSの病態評価や治療効果判定、新規治療薬開発など応用に期待
まず実施されたALS患者の血液による網羅的メタボローム解析では、病気の進行速度と関連する代謝変化の探索が行われた。その結果、進行の速いALS患者群では、拡張エンドカンナビノイド系に属するN-アシルタウリン(NAT)と呼ばれる脂質代謝物が同定された。
さらに脂質メディエーター解析によって結果検証を行ったところ、NAT濃度は進行の速いALS患者で高値を示し、ALS機能評価尺度の低下速度や生存期間と有意に関連することが明らかとなった。
さらに脂質メディエーター解析によって結果検証を行ったところ、NAT濃度は進行の速いALS患者で高値を示し、ALS機能評価尺度の低下速度や生存期間と有意に関連することが明らかとなった。
次に患者解析で見出された代謝異常を標的とする治療法開発を目指し、ALS患者由来のiPS細胞から作製した運動ニューロンを用い、薬剤評価を実施した。その結果、NATを分解する酵素である脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)を阻害するPF-04457845が運動ニューロン変性を抑制し、神経突起の保持や細胞障害の軽減をもたらすことを見出せた。
続いてALSモデルマウスにこのPF-04457845を投与したところ、生存期間の延長に加え、握力試験やロータロッド試験で評価した運動機能の進行抑制が認められた。また、脊髄組織の解析で運動ニューロンの脱落が抑制されることも分かり、病理学的にも神経保護効果が確認できたとしている。
薬剤の作用機序を明らかにするため、モデルマウス脊髄のリピドミクス解析を実施したところ、PF-04457845の投与群では、NATと関連脂質の増加が認められた。一方、未治療のALSモデルマウスでもNAT濃度は上昇し、ALS患者で認められた変化と共通した代謝異常が再現されていた。
これらの結果から、NATの上昇が病態進行に対する生体の代償・防御反応であり、FAAH阻害によってその経路をさらに活性化すると治療効果が得られる可能性が示唆された。
さらに脊髄組織を用いたRNAシークエンス解析及び単一核レベルのRNAシークエンス解析を実施したところ、PF-04457845の投与によって神経炎症に関わるグリア細胞の状態が変化し、神経保護的な表現型への移行が促進されることが判明した。
また運動ニューロンではシナプス可塑性や神経発達に関連する遺伝子群が活性化しており、この薬剤が神経細胞とグリア細胞の双方に作用して病態改善をもたらすことが明らかになっている。
今回の研究では、ALS患者で認められる代謝異常を起点とし、病態進行に関与する新たな治療標的の同定、その標的を制御する薬剤の有効性実証がなされた。患者データから治療法開発へと展開するリバーストランスレーショナル研究の有効性を示す成果で、ALSに対する新しい疾患修飾療法の開発につながることが期待されている。
研究グループでは今後、より大規模な患者集団を対象とした検証研究を進めることにより、NATがALSの病勢評価や治療効果判定に利用できるバイオマーカーとして実用化できるか検討したいとした。
またこの研究により、NATを中心とした代謝経路がALSの新規治療標的となる可能性が示されたため、今後、NATの病態生理学的役割をさらに解明するとともに、NAT代謝経路を標的とした新規治療薬開発や臨床応用に向けた研究を進めていくともしている。
(画像はプレスリリースより)
これらの結果から、NATの上昇が病態進行に対する生体の代償・防御反応であり、FAAH阻害によってその経路をさらに活性化すると治療効果が得られる可能性が示唆された。
さらに脊髄組織を用いたRNAシークエンス解析及び単一核レベルのRNAシークエンス解析を実施したところ、PF-04457845の投与によって神経炎症に関わるグリア細胞の状態が変化し、神経保護的な表現型への移行が促進されることが判明した。
また運動ニューロンではシナプス可塑性や神経発達に関連する遺伝子群が活性化しており、この薬剤が神経細胞とグリア細胞の双方に作用して病態改善をもたらすことが明らかになっている。
今回の研究では、ALS患者で認められる代謝異常を起点とし、病態進行に関与する新たな治療標的の同定、その標的を制御する薬剤の有効性実証がなされた。患者データから治療法開発へと展開するリバーストランスレーショナル研究の有効性を示す成果で、ALSに対する新しい疾患修飾療法の開発につながることが期待されている。
研究グループでは今後、より大規模な患者集団を対象とした検証研究を進めることにより、NATがALSの病勢評価や治療効果判定に利用できるバイオマーカーとして実用化できるか検討したいとした。
またこの研究により、NATを中心とした代謝経路がALSの新規治療標的となる可能性が示されたため、今後、NATの病態生理学的役割をさらに解明するとともに、NAT代謝経路を標的とした新規治療薬開発や臨床応用に向けた研究を進めていくともしている。
(画像はプレスリリースより)
参考文献・サイト
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