業界ニュース
魚にDHAが多いのはなぜ?食物連鎖未解明ルート判明
2026.11.04
甲南大学は10月27日、同大学理工学部生物学科本多大輔教授、甲南大学大学院自然科学研究科森本冬海博士後期課程学生、大阪府立環境農林水産総合研究所、水産研究・教育機構、北海道大学、産業技術総合研究所、理化学研究所の研究グループが、三陸沖海域での年間を通したモニタリングにより、環境DNAから推定された原生生物ラビリンチュラ綱のアプラノキトリウム類の現存量や、魚類の主要な餌となる動物プランクトンのカイアシ類の食性などから、DHAの上位捕食者への供給において、アプラノキトリウム類の影響力が最も大きいことを明らかにしたと発表した。
魚類らはほぼ生合成できない!供給源の謎に前進
甲南大学は10月27日、同大学理工学部生物学科本多大輔教授、甲南大学大学院自然科学研究科森本冬海博士後期課程学生、大阪府立環境農林水産総合研究所、水産研究・教育機構、北海道大学、産業技術総合研究所、理化学研究所の研究グループが、三陸沖海域での年間を通したモニタリングにより、環境DNAから推定された原生生物ラビリンチュラ綱のアプラノキトリウム類の現存量や、魚類の主要な餌となる動物プランクトンのカイアシ類の食性などから、DHAの上位捕食者への供給において、アプラノキトリウム類の影響力が最も大きいことを明らかにしたと発表した。
この研究成果は、微生物生態学に関する国際科学誌「ISME Communications」に掲載されている。
この研究成果は、微生物生態学に関する国際科学誌「ISME Communications」に掲載されている。
多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)は、ヒトに必要不可欠な栄養素として知られ、とくに脳や神経細胞の発達、機能維持に重要な役割を果たすことが分かっている。
一方でヒトはDHAを体内で十分に合成できないため、DHAを含む食物を摂取することで補う必要がある。中でも魚類がDHAを豊富に含んでおり、ヒトにとっての主要な供給源とされてきた。
しかし魚類や動物プランクトンなどの捕食者もまた、DHAをほぼ生合成できないため、その供給源は一次生産者の植物プランクトンとされてきたが、捕食者と生産者の脂質組成が大きく異なる「DHAパラドックス」が知られ、長く謎となっていた。今回の研究は、この謎の解明に大きな一歩を踏み出すものとなる。
海洋の消費者である魚類やその餌となる動物プランクトンは、DHAをほとんど生合成できず、植物プランクトンが食物連鎖を介して供給しているというのが一般的な考え方として定着している。
しかし生産量の約半分を担う珪藻類はDHAを生合成するものの、その組成はEPAに大きく偏る組成となっており、一次生産者全体でもDHA:EPAがおよそ1:6となるため、魚類がそれらをほぼ等量ずつ蓄積していることとは矛盾する「DHAパラドックス」があった。
単細胞従属栄養性の真核生物であるラビリンチュラ類は、DHAを生合成して高濃度に蓄積する能力をもち、褐藻類(昆布やひじきなどを含む)や珪藻類と系統的に近縁であるため、DHAを工業的に生産する藻類としても注目されている。
また、ラビリンチュラ類のうちアプラノキトリウム類が、珪藻類などの植物プランクトンを捕食する能力を有することについて、本多教授と甲南大学大学院自然科学研究科浜本洋子博士後期課程学生が培養実験によって発見し、2019年に論文発表していた。
さらに、魚類は動物プランクトンのカイアシ類を主要な餌としていることが分かっているが、このカイアシ類の消化管内容物に含まれるDNAを18Sメタバーコーディングによって網羅的に解読したところ、アプラノキトリウム類は生息する海水中よりも高い割合で検出され、濃縮するようにしてカイアシ類に捕食されると、東京大学大気海洋研究所平井惇也講師、水産研究・教育機構、本多教授、浜本洋子氏が2018年に論文報告している。
そして、より多様な動物プランクトンを対象とした補食と被食の関係に関して調査した同様の結果が、鹿児島大学水産学部小針統教授らにより2021年に報告されてもいる。
一方でヒトはDHAを体内で十分に合成できないため、DHAを含む食物を摂取することで補う必要がある。中でも魚類がDHAを豊富に含んでおり、ヒトにとっての主要な供給源とされてきた。
しかし魚類や動物プランクトンなどの捕食者もまた、DHAをほぼ生合成できないため、その供給源は一次生産者の植物プランクトンとされてきたが、捕食者と生産者の脂質組成が大きく異なる「DHAパラドックス」が知られ、長く謎となっていた。今回の研究は、この謎の解明に大きな一歩を踏み出すものとなる。
海洋の消費者である魚類やその餌となる動物プランクトンは、DHAをほとんど生合成できず、植物プランクトンが食物連鎖を介して供給しているというのが一般的な考え方として定着している。
しかし生産量の約半分を担う珪藻類はDHAを生合成するものの、その組成はEPAに大きく偏る組成となっており、一次生産者全体でもDHA:EPAがおよそ1:6となるため、魚類がそれらをほぼ等量ずつ蓄積していることとは矛盾する「DHAパラドックス」があった。
単細胞従属栄養性の真核生物であるラビリンチュラ類は、DHAを生合成して高濃度に蓄積する能力をもち、褐藻類(昆布やひじきなどを含む)や珪藻類と系統的に近縁であるため、DHAを工業的に生産する藻類としても注目されている。
また、ラビリンチュラ類のうちアプラノキトリウム類が、珪藻類などの植物プランクトンを捕食する能力を有することについて、本多教授と甲南大学大学院自然科学研究科浜本洋子博士後期課程学生が培養実験によって発見し、2019年に論文発表していた。
さらに、魚類は動物プランクトンのカイアシ類を主要な餌としていることが分かっているが、このカイアシ類の消化管内容物に含まれるDNAを18Sメタバーコーディングによって網羅的に解読したところ、アプラノキトリウム類は生息する海水中よりも高い割合で検出され、濃縮するようにしてカイアシ類に捕食されると、東京大学大気海洋研究所平井惇也講師、水産研究・教育機構、本多教授、浜本洋子氏が2018年に論文報告している。
そして、より多様な動物プランクトンを対象とした補食と被食の関係に関して調査した同様の結果が、鹿児島大学水産学部小針統教授らにより2021年に報告されてもいる。
漁獲量予測や保全のための基礎情報など結果を活かせる方面は多数
今回の研究では、水産研究・教育機構が年に5回実施している、三陸沖から北海道南岸の親潮が流入する海域の調査において、沿岸から沖合約600kmの6定点で表層から深層約3,000メートルにかけての5層に観測点を設け、1年を通したモニタリングを行った。
そして海水から採取した環境DNAを対象に、定量PCRでラビリンチュラ類、とくにアプラノキトリウム類の細胞数とそこからの炭素量に換算した現存量推定を行った。
すると、栄養塩の豊富な親潮が流入した表層付近の観測点で、1リットルあたり数千から約5万細胞のアプラノキトリウム類が検出された。アプラノキトリウム類が豊富に存在する観測点が、親潮によって植物プランクトン由来のクロロフィル濃度が大きい観測点と一致したことは、アプラノキトリウム類が環境中でも植物プランクトンを捕食していることを示唆するものだ。
そして海水から採取した環境DNAを対象に、定量PCRでラビリンチュラ類、とくにアプラノキトリウム類の細胞数とそこからの炭素量に換算した現存量推定を行った。
すると、栄養塩の豊富な親潮が流入した表層付近の観測点で、1リットルあたり数千から約5万細胞のアプラノキトリウム類が検出された。アプラノキトリウム類が豊富に存在する観測点が、親潮によって植物プランクトン由来のクロロフィル濃度が大きい観測点と一致したことは、アプラノキトリウム類が環境中でも植物プランクトンを捕食していることを示唆するものだ。
しかし、現存量比では多いときでも主要生産者の2%程度で、DHA量比でも約13%にとどまったため、「DHAパラドックス」を解決するような数値は見出せなかった。
そこで、新たなデータを用い、主要DHA生産者のアプラノキトリウム類、珪藻類、渦鞭毛藻類がカイアシ類に捕食されている割合から、細胞数比、炭素量比を求めた上で、各生物群がもつDHA量比を計算したところ、56%、34%、10%となり、アプラノキトリウム類がカイアシ類に最も多くのDHAを供給していることが明らかになった。
そこで、新たなデータを用い、主要DHA生産者のアプラノキトリウム類、珪藻類、渦鞭毛藻類がカイアシ類に捕食されている割合から、細胞数比、炭素量比を求めた上で、各生物群がもつDHA量比を計算したところ、56%、34%、10%となり、アプラノキトリウム類がカイアシ類に最も多くのDHAを供給していることが明らかになった。
そして、研究で明らかとなったアプラノキトリウム類の56%分のDHAが加わることにより、カイアシ類の消化管内の組成がDHA:EPAで1:2.4となり、DHAパラドックスの解消に大きく近づいた。新たに認識されたEPAからDHAへの変換と効率良い転送を行う、一次生産者の植物プランクトンからアプラノキトリウム類、カイアシ類へと進むながれを、研究グループでは「アプラノキトリウム経路」と名づけている。
アプラノキトリウム類の細胞密度(現存量)について、年間を通じ比較的広い海域で調査した報告は今回のものが初めてになるが、海水などから抽出された環境DNAをメタバーコーディング解析し、含まれていた生物の多様性を明らかにしたデータは蓄積されつつある。
絶対量でないことに注意は必要だが、世界中のとくに漁獲量の大きい海域においてアプラノキトリウム類を含むラビリンチュラ類の割合は高く、今回示唆されたDHA供給経路が親潮域だけの現象ではなく、より大きな影響力をもって広く認められるものである可能性があると考えられた。
これらの結果を受け、研究グループでは、アプラノキトリウム類が魚類の必須脂肪酸DHAの最大の供給者であり、認識されていなかった「アプラノキトリウム経路」が見出されたとして、これは海洋生態系の謎における解明の糸口が得られたとした。
ラビリンチュラ類には、アプラノキトリウム類よりも現存量が大きい未分離で未同定の系統群が存在する可能性も知られており、また汽水域などにも豊富に存在するため、多様な生物との相互関係を含め、全体像を理解することが今後重要になるともした。
またDHAは、ふ化直後の仔魚の致死率や成長に大きな影響を及ぼすため、アプラノキトリウム類のモニタリングが、漁獲量予測や、それによる保全のための基礎情報提供につながる可能性もある。
そしてラビリンチュラ類を用いたDHAの工業的生産や、養殖魚類の餌料添加への応用はすでに実用化されているが、アプラノキトリウム類と珪藻類を混合培養することにより、EPAとDHAの割合を制御し、アプラノキトリウム類のもつ凝集塊を作る性質を合わせて、養殖対象の魚類に必要な大きさの餌粒子を作り出すこともできると考えられている。
(画像はプレスリリースより)
これらの結果を受け、研究グループでは、アプラノキトリウム類が魚類の必須脂肪酸DHAの最大の供給者であり、認識されていなかった「アプラノキトリウム経路」が見出されたとして、これは海洋生態系の謎における解明の糸口が得られたとした。
ラビリンチュラ類には、アプラノキトリウム類よりも現存量が大きい未分離で未同定の系統群が存在する可能性も知られており、また汽水域などにも豊富に存在するため、多様な生物との相互関係を含め、全体像を理解することが今後重要になるともした。
またDHAは、ふ化直後の仔魚の致死率や成長に大きな影響を及ぼすため、アプラノキトリウム類のモニタリングが、漁獲量予測や、それによる保全のための基礎情報提供につながる可能性もある。
そしてラビリンチュラ類を用いたDHAの工業的生産や、養殖魚類の餌料添加への応用はすでに実用化されているが、アプラノキトリウム類と珪藻類を混合培養することにより、EPAとDHAの割合を制御し、アプラノキトリウム類のもつ凝集塊を作る性質を合わせて、養殖対象の魚類に必要な大きさの餌粒子を作り出すこともできると考えられている。
(画像はプレスリリースより)
参考文献・サイト
この記事をシェアする
