はじめに
近年、医療業界において、賃上げは大きな話題となっています。岸田政権の「骨太の方針2024」では、2035年までに最低賃金を1,500円以上にすることを目標として掲げられました。さらに、10月に石破政権が発足し、その流れはさらに加速しています。賃上げは、医療機関の経営にも影響を与える重要な要素となっています。このコラムでは、最低賃金の引き上げの現状や他産業との比較を踏まえ、病院経営における賃上げへの対応や考えるべき人事戦略について解説します。
最低賃金引き上げの現状と政府の方針
2024年度の全国加重平均最低賃金は1,054円となり、前年から50円の引き上げとなりました。2023年度では、最低賃金が1,000円を超えていたのは8都府県のみでしたが、2024年度にはその数は16都道府県に倍増しています。
岸田政権では、「骨太の方針2024」において、2035年までに最低賃金を1,500円超とする方針が示されていましたが、2024年10月に石破政権へと交代しました。新政権の重点施策として、物価の上昇への対応や労働者の生活水準の向上を目的とし、2020年代中に最低賃金を1,500円に引き上げる目標が掲げられています。これは即ち、最低賃金は今後5年間で毎年およそ100円の引き上げが行われるということになります。
岸田政権では、「骨太の方針2024」において、2035年までに最低賃金を1,500円超とする方針が示されていましたが、2024年10月に石破政権へと交代しました。新政権の重点施策として、物価の上昇への対応や労働者の生活水準の向上を目的とし、2020年代中に最低賃金を1,500円に引き上げる目標が掲げられています。これは即ち、最低賃金は今後5年間で毎年およそ100円の引き上げが行われるということになります。
医療業界における賃上げの現状
医療業界においても、賃上げは重要な話題となっています。2024年度の診療報酬改定においては、医療従事者の賃上げが重要な課題とされ、入院基本料の引き上げやベースアップ評価料の新設などが行われています。しかし、2024年の全産業の賃上げ上昇率の実績はおよそ5%であったのに対し、医療機関の賃上げを支える項目の1つであるベースアップ評価料は2.3%から2.5%程度に設定されており、医療業界の賃上げはあまり進んでいないのが現状です。
さらに、このベースアップ評価料の対象から事務職が外されていました。事務職は国家資格を有する医療従事者と比べて、他産業との採用競争が一層激しくなっていることから、相対的に低賃金となっていることも踏まえると、賃金体系の見直しが求められています。現状、医療機関では、入院基本料の引き上げによる一定の収入増はあるものの、限られた原資でより多くの職員に対する賃上げが求められており、人件費が病院経営をひっ迫しています。
さらに、このベースアップ評価料の対象から事務職が外されていました。事務職は国家資格を有する医療従事者と比べて、他産業との採用競争が一層激しくなっていることから、相対的に低賃金となっていることも踏まえると、賃金体系の見直しが求められています。現状、医療機関では、入院基本料の引き上げによる一定の収入増はあるものの、限られた原資でより多くの職員に対する賃上げが求められており、人件費が病院経営をひっ迫しています。
医療機関に求められる今後の対応とは?
以前より、診療報酬改定などにより医業収益は上がりにくくなっているほか、新型コロナウイルス感染症の補助金がなくなり、病院経営はより厳しい状況を迎えています。その中で、人事戦略や賃上げへの対応は、医療機関における重要な課題となります。医療機関に求められる今後の対応としては、以下のようなものが考えられます。
①賃金制度の見直し
まず重要なのは、賃金制度の見直しです。これまで、多くの医療機関では収益や職員のパフォーマンスに関わらず、毎年一律に昇給が行われてきました。今後もこの給与のベース部分を引き上げていくのであれば、給与の伸びについてさらに検討する必要があります。これは各職員に求められる役割や責任、パフォーマンスに応じて、賃金制度を見直すことを意味します。また、この賃金制度の見直しでは、どの職員の賃金を積極的に引き上げ、逆にどの職員は引き上げ幅を抑えるのかといった見極めも重要になります。
②働き方改革と業務効率化
これまで日本において、一般的な1日当たりの所定労働時間は8時間とされてきました。しかし、雇用環境の多様化や医師の働き方改革により、労働時間に対する考え方はより柔軟性が求められるようになっています。そのため、労働時間やシフトの見直しは、医療機関にとっても避けて通れない課題です。例えば、1日8時間の勤務を7時間に短縮し、同様の成果を出すことで、支払う賃金の総額を抑え、生産性と業務効率を高めることが重要です。働き方改革を推進し、労働生産性を高めていくためには、まずは労働時間を適正に把握することが求められます。
また、これまで医療職が行っていた業務を、他の職種へタスクシフトし標準業務の効率化を検討するとともに、必要な人材と設備に積極的な投資を行うことで働き方改革と業務の効率化を推進することができます。
また、これまで医療職が行っていた業務を、他の職種へタスクシフトし標準業務の効率化を検討するとともに、必要な人材と設備に積極的な投資を行うことで働き方改革と業務の効率化を推進することができます。
最後に
最低賃金の計算式は、「月給」を「月平均所定労働時間」で割ったものになります。賃金の引き上げについては、この計算式の分子にあたる「月給」への対応となります。法令順守の観点から考えると、この賃上げへの対応は医療機関における「守り」として重要です。また、この計算式の分母にあたる「労働時間」を短縮することは、生産性の向上につながります。医師の働き方改革やタスクシフト・タスクシェアは重要な課題であり、タスクシフト・タスクシェアを前提とした人材に対するメリハリの効いた投資が、人事戦略における「攻め」として重要です。最低賃金への対応は、単純に賃金を引き上げるだけでは不十分であり、この「攻め」と「守り」をしっかりと両輪で進めていくことが医療機関に求められるでしょう。
======================================
執筆者:馬渡美智(まわたり みさと)
株式会社 日本経営 組織人事コンサルタント
従業員数500名規模の事業所で、総務・人事業務に従事した後、日本経営入社。労務管理体制の調査・整備業務、組織活性化支援、人事制度の導入・運用支援、管理職研修、職員研修等に従事している。自治体の医療人材の流出入に関する調査も実施。社会福祉協議会、各種団体等での講演やセミナーも多数行っている。
社内においては、子育てをしながら経営コンサルタントとして働くモデル人材として活躍。社会保険労務士有資格者。
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
執筆者:馬渡美智(まわたり みさと)
株式会社 日本経営 組織人事コンサルタント
従業員数500名規模の事業所で、総務・人事業務に従事した後、日本経営入社。労務管理体制の調査・整備業務、組織活性化支援、人事制度の導入・運用支援、管理職研修、職員研修等に従事している。自治体の医療人材の流出入に関する調査も実施。社会福祉協議会、各種団体等での講演やセミナーも多数行っている。
社内においては、子育てをしながら経営コンサルタントとして働くモデル人材として活躍。社会保険労務士有資格者。
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。