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2022.07.29

お口の中の事について教えて!城先生! ~高齢者の口腔と栄養~

カバー画像:お口の中の事について教えて!城先生! ~高齢者の口腔と栄養~

こんにちは!エイチエ運営部です。

歯科と栄養の重要性は問われているものの、現場レベルでの連携や研修、セミナーはまだまだ少ないですよね。

今回、歯科衛生士の城明妙先生とご縁があり、管理栄養士・栄養士さんたちの素朴な疑問にお答えしていただきました!

「確かに気になる~!」という質問が数多くありますので、ぜひ回答を今後の業務の参考にしてください。それでは、見ていきましょう!

城 明妙(しろ あけみ)先生プロフィール

歯科医院勤務の後、子育て期間中から保健センター・保健所等で母親学級、歯みがき教室、歯科保健相談などを行い、その後、高齢者・要介護者への訪問口腔ケアに従事。

現在はデンタルサポート株式会社が運営する歯科衛生士応援サイト「Dキャリアプラス」の代表を務め、講師としても活躍中。

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城 明妙(しろ あけみ) 先生

【質問1】歯が1本くらいなくても何でも食べられますか?

結論から言うと、何とか食べることは可能です。しかし問題も出てきます。

歯は動くため、放置することで噛み合わせが変わり、逆に噛みにくさや発音のしにくさが出ることがあります。

“前歯が1本だけ無い”状況は、噛み切りにくい​ので少し意識して口に運ぶ必要があります。食べにくさだけでなく、言葉を話すときも息が漏れて発音しづらくなりますし、見た目もカッコ悪いですね。

一方、“奥歯が1本だけ無い”状況では、無い方の奥歯ですりつぶすことが難しくなります。

例えば、焼き肉、繊維質のものを右側だけに偏って噛んですりつぶしてみてください。反対側に運びたくなりますし、筋肉も疲れてきて、噛めなくなることが分かると思います。

口は、『食べ物がどこまですりつぶせたか?』を、左右に運びながら噛むことで測定します。そして、舌と上あご、歯の感覚を総合して「もう飲み込んでいいかな?」と判断しているのです。

ですから、歯が1本なくても絶対に食べられなくなる、というわけではないですが、結構不自由な感覚が襲ってきます。

しっかり噛めないという感覚が根付くので、自然と食べやすい軟らかなものを選んで偏る傾向が出てきてしまいます。

【質問2】入れ歯の調整をしたのですが、うまく噛めないというのです…どのようなことが考えられますか?

理由はいくつか考えられますが、「口が潤っていないこと」が多いです。

まず前提として、入れ歯は口の中の環境(粘膜の弾力・唾液)と、口腔周囲の筋肉舌の筋肉の動きが協力し合って食べたり、飲んだり、話したりしているんですね。

ですから、入れ歯の調子が悪い方が、名医の歯科医師に入れ歯の調整をしてもらったとしても、口の中が唾液で潤っておらず、粘膜がカサカサであったなら、入れ歯の吸着や安定は望めません。

そして、入れ歯による傷、違和感が多くなり、痛くて入れ歯を入れていられなくなります。

他にも、『噛む=舌や唇、頬の筋肉が協力し合う運動』が起きますので、口周りの筋力が弱っていると上手くすりつぶせないということもあります。

つまり、入れ歯はお口全体の筋力や唾液、粘膜で支えられているからこそ、その力を発揮できているのです。お口の体操、唾液でお口を潤す等してみると、うまく噛めるようになることもありますよ。

Dキャリアプラスの動画学習サービス『口腔リハビリテーション』の項目に、口腔周囲筋ストレッチや唾液腺マッサージについて説明があります。

会員専用ページではありますが、登録無料で管理栄養士さんもご登録いただけますので、ぜひ参考にしてくださいね。

【質問3】全部自分の歯なのに、よく噛まず丸呑みしている方がいます。何が原因でしょう?

歯が全部あってもしっかり噛んですりつぶすことができず丸飲みしてしまう方は、とても多いです。それは、先にもお伝えした「舌や頬の筋肉と唾液の力」が関係してきます。

食べ物を飲み込む前、私たちは必ず、食べ物を左右に運びながら奥歯ですりつぶす『咀嚼運動』を行います。離乳食から幼児食を経て培われていくこの咀嚼運動は、日常の中で当たり前すぎて意識されることがほぼないですが、実は舌や頬の筋肉と唾液の力が必要です。

加齢による筋力・唾液量の低下や、疾患の後遺症による筋力低下や運動の麻痺が起きた時には咀嚼運動が上手くできず、丸呑みという現象が良く見られ、窒息につながることが多くなります。

歯があるから大丈夫ではなく、口に入れたものを飲み込むまでの様子を観察する必要があります。また、舌の運動機能を推し量るための、発音による評価方法もありますよ。

【質問4】最近よくむせるので、刻み食になった方がいます。しかし、むせが治まりません。食物形態をもっと落とすべきでしょうか。

食物形態を落とせば落とすほど、筋力を使わなくなり、摂食嚥下機能がどんどん低下しやすくなる傾向があります。そして、食べる楽しみが奪われていくことが多くなります。

ですから、「むせるから刻めばいい」という考え方は危険です。まず何にむせていて、いつむせているのかを確認してみて下さい。

液体でむせるのか固形物でむせるのかでも違います。そして、食事の前半・中盤・後半、どのタイミングでむせているか等の観察が必要です。

多くの高齢者は、嚥下の反射と筋肉の動きのバランスが崩れるので、液体でむせることが多くなってきます。

他にも
・体力低下
・全身の筋力低下や会話の減少
・唾液の減少

などにより、食事の後半になると、疲労から飲み込んだものが食道や気管の入り口に残りやすくなることで、むせる方も見られます。

その場合には「交互嚥下」という食事のとり方で改善できることも多いです。

咀嚼がうまくできない場合は、口の外で歯が本来してくれていることを補っていくために、柔らかくしたり、小さめにしたりする、という考え方が必要です。

【質問5】歯が全部あるのに繊維質のものを残される方がいます。なぜでしょうか?

すりつぶすことが難しくなっていることが考えられます。すりつぶすとき、横にずらすような動きが必要です。噛み合う歯がなければこれも難しいですね。

自分の歯で噛めないでいる方は、噛み合う歯の痛みがあることや、舌の運動能力の低下も考えられますので、一度歯科受診を勧めても良いかもしれません。

入れ歯の方に多いのは、長い間使っている入れ歯の噛み合わせ部分が非常にすり減ってしまっていることで、繊維質やお肉などがすりつぶせなくなっていることです。

入れ歯になれば「歯医者さんは卒業」だと思っている方が多いですが、入れ歯はプラスチック材でできていますので、すり減ったり、顎や筋肉の力や動きが常に変化するため、安定が悪くなるものなのです。

半年に1回は歯医者さんに確認してもらうようにお勧めしてください。

【質問6】糖尿病の方で、歯科受診を嫌がる方がいるのですが、どうしたらいいですか?

糖尿病の方は、ほとんどの方が歯周病に罹っているといっても過言ではありません。歯周病にかかっている自覚はなく、知らないうちにひどくなっています。

まず、歯周病と糖尿病の関係性を少しお話しますね。

歯周病が悪化する過程で、歯ぐきの内側では「歯周病菌」という『肉食の細菌』が毒素を出して歯ぐきの内側を潰瘍にしていきます。

そのため、体は細菌と戦っている状態が続いており、「炎症性のサイトカイン」というものが、ずっと出て続けてしまいます。

膵臓からいくら十分なインスリンの分泌があり血糖値をコントロールしようとしても、「炎症性のサイトカイン」は、インスリン抵抗性を持っており、インスリンの働きを妨害し続けています。

これでは、いくらご本人様が必死に食事のコントロール、運動などしても一向に血糖値が安定しませんよね。

そんな時は、「歯周病の治療をしたら、一気に血糖値が安定した」というデータをお見せしてはいかがしょうか。根拠あるデータやメカニズムをお伝えすると、歯科にかかってくださる方も増えると思います。

日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会が著者の『続・日本人はこうして歯を失っていく』にて、歯周病が全身の健康に悪影響に及ぼすメカニズムと、もちろん糖尿病についても解説しています。

本記事の最下部『参考文献・サイト』にURLも載せておりますので、参考資料として目を通してみてくださいね。

さいごに

いかがでしたか?

近年、各方面で更に耳にするようになった歯科と栄養について、高齢者に特化した内容で城先生にお答えいただきました。

管理栄養士・栄養士の皆さんが作った食事を、健康なお口で美味しく楽しく食べてもらうためのワンポイント知識として、今後のお仕事にお役立てくださいね。

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▼執筆者
所属:デンタルサポート株式会社
役職:講師
城 明妙 先生

▼編集者
エイチエ編集部
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