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2025.05.29

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<肝硬変>

カバー画像:疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<肝硬変>

肝硬変は、肝臓の慢性的な障害によって進行し、肝機能が低下する疾患です。進行に伴い、栄養代謝異常や肝性脳症、腹水などの合併症が生じるため、適切な栄養管理が必要となります。

栄養管理は肝硬変の進行を遅らせ、生活の質(QOL)を維持するうえで重要な治療の一環です。本稿では、肝硬変診療ガイドライン1)に基づいて肝硬変の栄養管理について、ポイントを解説します。

1.肝硬変と栄養管理の基本

1)肝硬変とは

肝硬変は、肝臓の慢性疾患で、肝細胞の破壊と線維化が進行する不可逆的な病態です。肝機能が低下し、腹水、黄疸、肝性脳症などの合併症を引き起こすことがあり、早期の診断と適切な治療が予後の改善に重要であることから、重症度によって分類され治療法を決定します。

肝硬変の重症度は「Child-Pugh分類」の5項目の合計点数により、3段階に分類されます(表1)。
Class A…軽度で肝機能がある程度保たれている代償性肝硬変。
Class B…中等度の肝硬変、軽度な合併症があり非代償性肝硬変。
Class C…重度の肝硬変であり、腹水や黄疸、静脈瘤、肝性脳症などさまざまな合併症がある非代償性肝硬変。

2)肝硬変の栄養管理の重要性

肝硬変では、エネルギー代謝が変化し、筋肉量が減少しやすくなります。特に、長時間(6時間以上)の空腹が続くと筋肉を分解してエネルギーを補うため、低栄養のリスクが高まります。適切な栄養摂取により、病状の進行を抑え、合併症を防ぐことができます。栄養治療については肝硬変の診療ガイドラインに示されているフローチャートを参考にしましょう(図1)。

ポイントは低栄養やサルコペニアを見落とさないよう早期に栄養評価を行い、栄養療法は分割食・LES(後述)を基本とし、定期的な再評価を行うことです。

3)主な合併症と予防のポイント

・肝性脳症:タンパク質の代謝異常によりアンモニアが蓄積し、意識障害を引き起こすため、総たんぱく質量の確保とともに、BCAA(分岐鎖アミノ酸)の摂取を組み合わせることが重要となる³⁾。
・腹水・浮腫:ナトリウムの制限と適切な水分管理が必要である。
・低血糖・インスリン抵抗性:夜間など空腹6時間以上開けないよう、分割して食事を摂ることで血糖の安定化を図る。

2.肝硬変の栄養管理の内容¹⁾²⁾

1)エネルギー

適切なエネルギー量を確保することで、肝機能の維持、体重減少や筋肉量減少(サルコペニア)の予防、合併症の管理につながります。

・ 必要エネルギー量は25~35kcal/kg/日(標準体重で算出)。
 ただし、耐糖能異常のある場合は…25kcal/kg/日(標準体重で算出)。

2)たんぱく質

サルコペニアや筋肉量の低下を防ぐために、栄養価の高いたんぱく質の積極的な摂取を意識し、BCAAの補充を意識する必要があります⁴⁾(表2)。

しかし、過剰なたんぱく質摂取は肝臓に負担をかけるリスクがあるため、必要量を超えないよう注意します。
・たんぱく質必要量1.0~1.5g/kg/日(BCAA製剤を含む)
 ただし、肝性脳症がある場合:0.5~0.7g/kg/日とする。
 さらに肝性脳症の予防には食物繊維やプロバイオティクス(ヨーグルトなど)の有効性が示されている⁵⁾ことから、植物性たんぱく質中心とし、食物繊維を摂るように心がける(表3)。

3)塩分・水分

・腹水・浮腫がある場合:塩分は5~7g/日とする。
・利尿剤を服用している場合は:カリウムを含む食品(表3)を積極的に摂取する。
・水分摂取については医師の指導のもと調整する。

4)他栄養素は肝疾患と同様に過不足がないよう注意

詳しくは下記記事にて説明していますので、ご確認ください。

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント <脂肪性肝疾患(SLD)とNAFLD、NASHの名称変更について>

3.肝硬変の食事プラン

食事の基本的な考え方については、以下の通りです。

・少量頻回の1日4〜6回の分割食を心がけ、長時間の空腹を避ける。
・就寝前補食療法(LES)の導入。
・消化の良い食品を選ぶ(脂肪の多いもの、刺激物は控える、加熱のされていない生ものは控える)。
・アルコールは厳禁。
メモ解説:分割食

肝臓病患者ではエネルギー代謝が不安定なため、1日3回の食事では長時間の絶食状態が生じ、筋肉分解が進むリスクがあります。
そのため少量を頻回に摂取することで、負担を減らし、エネルギー供給を安定でせます。

食事回数
 例: 1日4~6回に分ける(朝食、昼食、夕食、補食1~3回)。
補食の例
 例:フルーツ、ナッツ、ヨーグルト、小さなおにぎりやスープなど。
メモ解説:就寝前補食療法(Late Evening Snack:LES)

肝疾患患者における低栄養や筋肉減少(サルコペニア)を防ぐために、就寝前に適量の栄養を摂取する⁶⁾療法です。

夜間の飢餓状態を防ぐことで、筋分解を抑え、肝機能や全身の代謝改善を目指します。
LESは200kcal程度を目安とし、炭水化物主体で消化に優しく、就寝前に負担とならない食品が望ましいです。

炭水化物
 例:おにぎり、バナナ、クラッカーなど。
たんぱく質
 例:牛乳、チーズ、豆腐、ゆで卵など。

4.病態別の栄養管理のポイント

1)代償期肝硬変の栄養管理

栄養素バランスの良い食事を継続し、適度な運動と組み合わせることにより筋肉量を維持する。

2)非代償期肝硬変の栄養管理

・浮腫や腹水がある場合は、塩分を制限した食事にする。
・消化しやすい食品を選ぶ(脂肪が少なく、食物繊維の少ないもの)。

3)肝性脳症の管理

・低たんぱく食に調整しつつ、処方されるBCAAを摂取する。
・便秘予防のため、水分や食物繊維を多く含む食品を摂取する。

5.生活習慣の改善とサポート

1)運動と栄養のバランス⁷⁾

・ 筋肉の減少を防ぐために、ウォーキングやストレッチなど、体に負担の少ない運動を毎日の生活に取り入れる工夫が大切である。
・ 運動後は筋肉の合成を高めるタイミングであるため、たんぱく質を含む食事をしっかりと摂取することが重要である。

2)家族や介護者のサポート

・家族が食事管理を支援することで、患者の身体的・精神的負担の軽減が期待される。
・食事制限によるストレスを和らげるためには、嗜好や楽しさを取り入れた食事支援の工夫が必要となる。

6.さいごに

肝硬変の栄養管理は、病状の進行を防ぎ、QOLを向上させるために欠かせません。エネルギーをしっかり摂取し、分割食やLESを心がけましょう。たんぱく質は適量を摂り、BCAAを意識します。

また、塩分・水分を適切に管理し、合併症を防ぎましょう。消化の良い食品を選び、アルコールは厳禁です。適切な食事と生活習慣を実践し、肝硬変の進展を予防しましょう。

執筆者・編集者

執筆者

東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部 斉藤弘樹

人間総合科学大学大学院で、「米パンなどのGI値の評価について」をテーマで修了(健康栄養科学修士)。

その後、栄養専門学校の助手として、臨床栄養学実習や介護食実習などの臨床栄養の実習を中心とした教育の場で従事。

その後、実務経験を深めるため、東京慈恵会医科大学附属病院栄養部に管理栄養士として入職。現在は、集団給食における献立作成や決算業務をはじめとした給食管理業務、褥瘡や生活習慣病患者の栄養指導など病棟の患者支援に従事している。

■所属学会・協会
 日本栄養治療学会日本臨床栄養協会日本給食経営管理学会

■研究・専門テーマ
 Glycemic Index(GI)、糖尿病症例検討、給食経営管理

■業績集
・ 給食経営管理実習におけるマーケティング調査~喫食者の給食価格に対する意識~(給食経営管理学会学術総会,2011)
Glycemic Index(GI)に替わる新規in vitro評価法Glucose Releasing Rate(GR)のアミロース含量の異なる米での評価(日本GI研究会,2013)
・Glycemic Index(GI)に替わる新規in vitro評価法Glucose Releasing Rate(GR)のアミロース含量の異なる米パンでの評価(人間総合科学大学研究紀要,2014)
・若年健常者におけるアミロース含量の異なる米パンでの血糖値・Glycemic Index(GI)および味覚の評価(日本臨床栄養学会総会・日本臨床栄養協会総会,2015)
・特定健診保健指導におけるセルフメディケーションの活動取り組み 第2報(日本臨床栄養学会総会・日本臨床栄養協会総会,2015)
・糖尿病食事療法における食後血糖値の管理-Glycemic Index(GI)による食後血糖値の上昇抑制効果の検証-(私立学校研究助成事業,2016)
管理栄養士養成実験実習におけるアクティブ・ラーニングの活用-科学的リテラシーと社会人基礎力の観点から(科学教育研究,2017)
・在宅の要介護高齢者における栄養管理2症例からの考察(日本臨床栄養学会総会・日本臨床栄養協会総会,2024)
・港区立がん在宅緩和ケア支援センターや港区民向け健康教室での栄養セミナー講演
株式会社みらい  臨床栄養学実習[第2版] (2025/05/23)

編集者

渡部 早紗(管理栄養士・ライター)

管理栄養士として総合病院で3年間勤務。調理補助から献立作成、栄養管理、栄養指導などを行う。その後、給食会社にて、担当地域の給食センターの巡回指導やマニュアル作成を実施。現在は、フリーランスの管理栄養士として主にライターに従事している。

参考文献・サイト

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