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2023.04.12

2023.04.18

栄養ケア・マネジメントの実際<高齢者施設の事例をみてみよう>

カバー画像:栄養ケア・マネジメントの実際<高齢者施設の事例をみてみよう>

高齢者施設に入所する方々は、健康状態や生活習慣の変化により、栄養管理が必要になる場合があります。

栄養ケア・マネジメントは、食事内容や食事の提供方法、栄養バランスなどを考慮し、入所者の健康維持や疾病予防に役立ちます。しかし、高齢者の口腔や嚥下機能の低下、食欲不振などの課題もあるため、栄養ケア・マネジメントは簡単なものではありません。

本記事では、高齢者施設の栄養ケア・マネジメントの特徴とポイントを見ていきましょう。

1.令和3年の介護報酬改定について

「令和3年の介護報酬改定」において、介護保険施設における栄養ケア・マネジメントの取組を一層強化する観点から、栄養マネジメント加算を廃止し、栄養ケア・マネジメントを基本サービスとして行うことになりました。

栄養マネジメント加算の要件を包括化することを踏まえ、「入所者の栄養状態の維持及び改善を図り、自立した日常生活を営むことができるよう、各入所者の状態に応じた栄養管理を計画的に行わなければならない」ことが規定されました¹⁾。

つまり、介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、介護療養型医療施設)において、栄養ケア・マネジメントは義務となったということです。

栄養ケア・マネジメントを実施していない施設は利用者1名あたり14単位(1単位10円なので1名あたり140円×入所人数50名×30日=210,000)が減算されることになります(3年の経過措置期間あり、令和6年度から減算対象)²⁾。
⑴ 栄養ケア・マネジメントの体制
⑵ 栄養ケア・マネジメントの実務
ア 入所(院)時における栄養スクリーニング
イ 栄養アセスメントの実施
ウ 栄養ケア計画の作成
エ 入所(院)者及び家族への説明
オ 栄養ケアの実施
カ 実施上の問題点の把握
キ モニタリングの実施
ク 再栄養スクリーニングの実施
ケ 栄養ケア計画の変更及び退所(院)時の説明等
コ   帳票の整理

厚生労働省が明示している栄養ケア・マネジメントの実務⁴⁾を示しました。次からは栄養ケア・マネジメントの実際について再度、確認していきましょう。

2.栄養スクリーニング

栄養スクリーニングは入所後遅くとも1週間以内に、関連職種と共同して低栄養状態のリスクを把握します

下記、紙様式4-1の様式⁵⁾例参照。

3.栄養アセスメント

栄養スクリーニングを踏まえ、入所者毎に解決すべき課題を把握します栄養スクリーニングを行い、低リスク、中リスク、高リスクに分類された場合は、その理由のアセスメントを行います。

この栄養アセスメントの結果が、その方の低栄養に対する課題となります。上記の別紙様式4-1の様式例⁵⁾を参照し、入所者の栄養に関する問題を洗い出し、それをもとに栄養ケア計画書を作成します。
(例1)BMIが基準値以下:やせていることが栄養課題
 やせている原因の一つに食事摂取量が少ないことが考えられます。
 食事摂取量が少ない要因として考えられること⁶⁾は以下のとおりです。
嗜好、摂食嚥下機能低下、認知機能低下、精神的要因、体力低下、気力低下、痛み、吐き気などの疾患的要因など

(例2)褥瘡あり:「褥瘡」が栄養課題

4.栄養ケア計画の作成

関連職種と共同して、下記の別紙様式4-2の様式例⁵⁾を参照の上、栄養ケア計画を作成します

1)基本事項、利用者と家族の意向

基本事項とは
・利用者氏名
・利用者の生年月日
・利用者の介護度
・計画作成者(担当管理栄養士)
・入所日
・計画作成日
のことを指します。

基本事項と利用者と家族の意向は、ケアマネジャーが作成するケアプランと同じ書式でも大丈夫です。

2)解決すべき課題と低栄養リスク

低栄養リスクを高、中、低に分類し、解決すべき課題と低栄養リスクは、栄養スクリーニング・アセスメントの結果を記載します。

3)短期目標、長期目標

短期目標:いますぐ解決したいこと
長期目標:3~6ヶ月と設定、その人が望む食生活を実現可能にするもの⁶⁾

「現状維持」や「安全に食事を食べる」でも大丈夫です。

4)ケアの内容

ケアの内容(記載しなくてはならない事項)は以下のとおりです。

1.提供栄養量(栄養補給方法:経口・経管、補給量:必要エネルギー・たんぱく質・水分等)
2.食事形態(嚥下コード、嗜好)
3.療養食の適用
4.食事の提供に関する事項(食事の環境)等 その他、栄養食事相談なども必要に応じて行います。
5.多職種における栄養ケア


サービス担当者会議に出席し、栄養ケア計画原案を報告し、関連職種との話し合いのもと、栄養ケア計画を完成させます。栄養ケア計画の内容を、施設サービス計画にも適切に反映させます。

[ケアの内容例]
栄養補給、嗜好対応、摂食嚥下状態に応じた食形態や食事量の調整、水分摂取量と水分のとり方の工夫、栄養補助食品の選定、痛み・嘔吐・呼吸苦などへの対応、義歯や口腔内の状態管理、食事時の環境をととのえる⁶⁾

5)加算の内容

指定のフォーマット最後にチェック欄を確認します。療養食加算や栄養マネジメント強化加算など、栄養・食事に関する加算を算定する場合は、計画書に入れておくようにしましょう。

事例)BMIが基準値以下:やせていることが栄養課題

アセスメントでの課題分析、問題抽出を把握したうえで、目標設定につなげていきます⁶⁾。

具体的な目標には、入所者または家族の希望や意向を反映します。本事例はやせていることが栄養課題であり、要因として食事摂取量が少ないということが明らかな場合の目標をいくつか例示します。

・食事摂取量の増加または、少量で高栄養な栄養補助食品の摂取
・無理なく安全な食事摂取
・栄養状態の維持、改善
・ADL維持、改善
・安楽に過ごせる

栄養ケア計画書を書き起こすと、下記のようになります。参考にしてください。
今回はケア内容の文言を注視して書いています。対象者さんに応じて、ケアの具体的内容に提供栄養量食事形態を記載しましょう。

必須項目なので、忘れないようにしてくださいね。

5.入所者及び家族への説明

ケアマネジャー等は、サービスの提供に際して、施設サービス計画に併せて栄養ケア計画を入所者又は家族に分かりやすく説明し、同意を得ます。

6.栄養ケアの実施

栄養ケア提供の主な経過を記録します。記録の内容は、栄養補給(食事の摂取量等)の状況や内容の変更、栄養食事相談の実施内容、課題解決に向けた関連職種のケアの状況等について記録します。

食事の提供に当たっては、給食業務の実際の責任者としての役割を担う者(管理栄養士、栄養士、調理師等)に対して、栄養ケア計画に基づいて個別対応した食事の提供ができるように説明及び指導します。なお、給食業務を委託している場合においては、委託業者の管理栄養士等との連携を図ります。

7.実施上の問題点の把握

栄養ケア計画の変更が必要となる場合は適宜見直しを行います。

8.モニタリングの実施

入所者ごとの栄養状態に応じて、定期的に、入所者の生活機能の状況を検討し、栄養状態のモニタリングを行います。
モニタリング時には、栄養スクリーニング時に把握した入所者ごとの低栄養状態のリスクのレベルに応じ、それぞれのモニタリング間隔を設定し、入所者ごとの栄養ケア計画に記載が必要になります。

原則モニタリングは1ヵ月で行い、看取りや入所時の期間1ヵ月が目安です。ただし、低リスク者はおおむね3ヶ月毎、高リスク者及び栄養補給法の移行(経管栄養法から経口栄養法への変更等)の必要性がある者の場合には、おおむね2週間毎等適宜行います。

ただし、低リスク者も含め、体重は1ヶ月毎に測定します。

長期目標の達成度、体重等の栄養状態の改善状況、栄養補給量等をモニタリングし、総合的な評価判定を行うとともに、サービスの質の改善事項を含めた、栄養ケア計画の変更の必要性を判断します。モニタリングの記録は、別紙様式4-1の様式例を参照の上、作成します。

9.再栄養スクリーニングの実施

低栄養状態のリスクにかかわらず、栄養スクリーニングを3ヶ月毎に実施します。

10.栄養ケア計画の変更及び退所時の説明等

栄養ケア計画の変更が必要な場合には、サービス担当者会議等において計画の変更を行います。

また、入所者の退所時には、総合的な評価を行い、その結果を入所者又は家族に分かりやすく説明するとともに、必要に応じて居宅介護支援専門員や関係機関との連携を図ります。

11.帳票の整理

個別の高齢者の栄養状態に着目した栄養管理が行われるため、検食簿、喫食調査結果、入所者の入退所簿及び食料品消費日計等の食事関係書類(食事箋及び献立表を除く)、入所者年齢構成表及び給与栄養目標量に関する帳票は、作成する必要がないこととされています。

高齢者施設の栄養ケア・マネジメントをまとめると以下のようになります。
①栄養スクリーニング:入所時、3ヶ月ごと
②栄養アセスメント:計画書作成の前、入所時、3ヶ月ごと、その他必要な場合
③実施、チェック:栄養ケア計画書に基づいた食サービスの提供、食事量の確認、食サービス内容の確認、体重測定など(ミールラウンドが欠かせません)
④モニタリング:低栄養リスクによる評価で異なる(高リスク;2週間、中リスク;概ね1ヶ月)
⑤栄養ケア計画書の作成:入所時、3ヶ月ごと
栄養ケア計画書の見直し変更:計画書の変更が必要となる状況が確認されたとき
いかがでしたか。

いつもみなさんが実施されている業務が介護保険制度の中で評価されるべき対象であり、介護保険サービスの礎となることに誇りを持って、今後も業務に従事されることを信じてやみません。少しでもお役に立てたなら幸いです。

本記事内にて使用した様式はこちら​、もしくは下記からダウンロードできますので、ご活用くださいね。

栄養ケアマネジメント書式一式.xlsx (67 KB)
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科
役職:助教
大出 理香 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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▼人間総合科学大学
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