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チエノート

インタビュー

2023.10.12

【インタビューvol.2】未経験で1人職場。誰もいないところから立ち上げた老健管理栄養士の奮闘

カバー画像:【インタビューvol.2】未経験で1人職場。誰もいないところから立ち上げた老健管理栄養士の奮闘

エイチエのインタビュー企画Vol.2。今回は在宅復帰をサポートする介護老人保健施設(以下老健)の経験をお持ちの管理栄養士さんにお話を伺いました。

新卒で給食委託会社に入社し、全くの未経験からたった1人で飛び込んだ老健の栄養ケア・マネジメントの立ち上げ。周りの助けも知識もない中、何を意識してどのように形にしていったのか、詳しく聞いてきました!

1.「うちに来ない?」から始まった不安いっぱいの未経験1人職場

――今までのご経歴を教えてください。

短大卒で栄養士として委託会社に入って、配属先が病院と老健の併設施設でした。

管理栄養士の資格を取ったタイミングで介護報酬が変わり、老健の方がちょうど栄養ケア・マネジメントを始めたところだったんです。管理栄養士が必要ということで、声をかけていただいて老健に転職しました。

――別の領域と悩んで介護、というよりご縁からなんですね。

そうですね。本当はスポーツ栄養士になりたいなと思っていたんですよ。だから本音をいうと、介護業界に行きたかったわけではなくて。

でも介護の方に入ってみたらすごく楽しかったので、その老健には4年もお世話になっちゃいました。

といっても1人職場ですし、最初はやっぱりすごく不安がありました。今まで身内が介護施設にお世話になったこともなく、全く知らない世界で。

引き継ぎしてくれる先輩は一応いたんですが、施設側と栄養課の関わりが全然ないような状態だったんです。

――ほぼ一から全部自分で...大変でしたね。

そうですね。他職種連携をいわれ始めた時期で、それこそ医師や看護師さんは「栄養士と管理栄養士の違いも、調理師との違いも分からない」という状況でのスタートでした。

2.毎日顔を出しに行くことの大切さと厨房経験の強み

――入職してみて想像とのギャップはありましたか?

仕事の内容というよりも、人間関係の影響がこんなに大きいんだと思いましたね。ベテランの医師や看護師さんとの連携が取れてくると、すごくお互いやりやすくなって、いろんなことがどんどんうまく進むというか、協力し合える形になっていきました。

――他職種の方とのコミュニケーションで意識していたポイントはありますか?

とりあえず、入所者さんがいるフロアにどんどん行くようにしました。入所者さんとのコミュニケーションだけでなく、基本的には他職種の方とのコミュニケーションを取るように意識しました。

申し送りが毎日あるので参加させてもらうようにして、自分から「私はいろいろ知りたいんだ!」ということをわかってもらう、って感じですかね。そうすると他の職種の方に私が管理栄養士だと認識してもらえて「最近食事こうなんだよ」といってもらえるようになってくるんです。

そこからちょっとずつ「食事のことは聞こう」っていう風に思ってくれるようになって、風通しがよくなったのはすごく嬉しかったです。

――委託からの転職は活きました?

厨房の中を知ってるのはすごく強みだったかなと思います。いろいろやっていく中で調理師さんとうまくいかないと、どうしても難しい部分が出てきます。

でも、私が現場を知ってる分話を持っていきやすかったり、協力してもらいやすかったりしたかなって。何も知らない人が言うよりは「現場を知っている」というお互いの安心感というか。

――他職種連携とか入所者さんとお話しするときにも役立ちましたか?

看護師さんから個別対応をお願いされたとき「これぐらいならできるかな?」と、その場で判断できたのはよかったなと思いますね。話がスムーズに進みやすいので、不信感がなくなって信頼感に変わっていきました。

少しずつ信頼を積み重ねていくことで「あ、栄養課もこういうことを頼めるんだ」と思ってもらえるようになっていったと思います。

3.立ち上げは見よう見まね、トライアンドエラーの繰り返し

――未経験で栄養ケア・マネジメントの立ち上げって、最初何からしたんですか?

病院でNSTが構築されてたので、少しずつ学んで真似してみるっていう感じです。「こんな感じかな」って試行錯誤しながらでした。

外部研修などは割と行きましたね。そこで出来たつながりから他の施設の話を聞いて取り入れるとか「やれることをやってみる!」って気持ちは大事かな。

――怖いと思っても、一歩を踏み出す勇気は自分で奮い立たせるしかない。

そうそう。あとは失敗したら違う方法で!って割り切る。トライアンドエラーを繰り返していくしかありません。

4.退所後も「〇〇さん元気にしてるよ」を聞くために出来ること

――在宅復帰を目的とする老健だからこその良さってありますか?

やっぱり在宅復帰を目指して快調に向かう姿が見られるのはすごく嬉しいことです。

私がいたところは病院と老健とデイケアもやっていたので、退所されてもデイケアに通われる方もいらしたんです。そのときに「お久しぶりです~!元気にしてますか?」っていうやり取りができるのも楽しかったですね。

――退所後の元気な姿も見られるっていいですね。

あとは、地域の介護施設に勤める栄養士同士で栄養士会みたいなことをしていたんです。老健を退所した後、特養に入所される方がいると「今後、〇〇さんがお世話になるね」とか「〇〇さん、特養で最近こんな感じだよ」って情報交換できたのもよかったな~と思います。

病院に入院した方の場合は、病院の栄養士さんとお話しするときにときどき情報共有していました。

看護師さんが次の施設に情報提供書や看護計画を送るときに、管理栄養士の分も入れてもらうようにしていたんですよ(笑)そうすると相手からも質問がきて、そこでちょっとコミュニケーションが取れたので。

――えー!めちゃくちゃ積極的!(笑)

そうですね。ちょっと出過ぎてるかもしれないんですけど(笑)

5.1人職場の特徴を活かした他職種連携

――1人職場だからこそのよかったところ、悪かったところはありました?

責任が全部自分にくる重圧はあるんですけど、新しいことを始めるときや変えるときはすごくやりやすいです。

管理栄養士が何人もいる組織だと、意見の食い違いが出ることもあると思うんですが、1人なら「やってみようかな」と思ったときにフットワークよくやれるんですよね。

結果的に、施設のいろんなことも深く知れるから、更に仕事がしやすくなりますね。1人職場のそういうところはすごくいいなって。その分失敗もたくさんしてたと思うんですけど(笑)

――すごく充実していたんですね(笑)辛かったなぁ…ということはありました?

今になって思えば、やっぱり責任は重たかったかなって。

――先輩とか相談相手がいないことはしんどくなかったですか?

近くにいてくれたら違ったかもですが、1人なことはわかっていましたからね。地域の施設管理栄養士さんに相談したり、いろんな勉強会に結構参加したりして、自然と自分で相談できる人を外につくりに行ってました。

6.ご家族が望んでいるのは解決より寄り添いと共感

――老健で働いていて心に残っているエピソードってありますか?

やっぱり入所者さんがすごく食べられるようになったときとか、それに対してご家族の方が栄養士に対して感謝をしてくれる瞬間があって、それはすごく嬉しかったです。厨房にいたときはご家族の方と全然会うことももちろんなかったので、施設の管理栄養士になって初めて味わった嬉しさでしたね。

あとは、在宅復帰前後のご家族の方とお話する大切さ、ですね。入所されるとき、介護職や看護師の方がご家族に説明する場があるので一緒に参加させてもらって「お食事はどうですか?食べていますか?」と話を聞くようにしていましたね。

顔を知ってるっていうのもあって、退所のとき「ちょっと栄養士さんに相談が…」って呼んでくれる人も結構いらっしゃいました。

食事って毎日のことだから、実はご家族にとっては在宅復帰後の一番の心配事なんです。栄養士と何気ない話ができる間柄で、ちょっとした相談をするだけでご家族の方は安心されることが多いかなって感じましたね。

――例えば減塩の話とかペースト食のつくり方とか、そういう...?

そういう内容です。離乳食と同じで、別の食事をつくらなきゃいけないって思うと負担が大きいですから。

離乳食は「何歳頃まで」という終着点がありますけど、在宅介護となると終わりが見えないので、心の負担にもなるんですよね。順調に回復していけばいいですけど、そういう先の見えない不安はありますよね。

――ご家族からの相談にはどんな感じで応えてたんですか?

厨房で提供していた食事の一部のレシピ集をつくって渡したこともありますが、何より「不安なことについて話せる」ということ自体が安心に繋がるのかなと思います。

何か特別なことをしたというよりも、しっかり耳を傾けてお話しただけということが多いかな。何が不安なんだろう?っていうのを引き出して聞いてあげるっていうのが大事な気がします。

7.頑張るけど張り切らない姿勢で自然と溶け込む大切さ

――Tさんから見て、こういう人が老健に向いてるなと思う人物像があれば教えてください。

私もすごく人見知りなんですけど、そこは気質としてあってもいいから「聞きに行く」「話に行く」って力がある人ですかね。

「栄養のことはわかるけれど、看護のことはわからなくて」と自分から伝えると、意外とベテランの方がいろいろ教えてくれようとするんですよ。そうするといろんな新しいことも意外とやってくれるんです。

「困ってるんだからやってあげな」とうまく周りに伝えてくれるので、すごく味方になってくれる気がします。

――人見知りの方は勇気がいると思うんですけど、どうやって一歩踏み出せたんですか?

そこはもう、やらなきゃいけない気がしてやってました(笑)工夫して払拭したというより、気持ちの面でカバーしていったんですよね。

すごく周りに恵まれてたんだと思います。みんな良い人ばっかりというか。最初は「なんで栄養科が頻繁に来るの?」みたいな人もいたんです。でも顔を見せに行くようになる中で、だんだんお互いに慣れてきて、そんな空気感はなくなっていって。

最初からすごく喋らなくても、まずはいろんなところに顔を出すというだけでも違うのかなって思います。

私が入職したときは栄養ケア・マネジメントが始まったばっかりだったので「厨房の栄養士の仕事も増やされるんじゃないか」という反対の声もあったんですよね。

でももう逆に「そういわないでくださいよ、私もやんなきゃいけないんですよねぇ」みたいなところから入っていきました(笑)

8.医療は病気との戦い、介護はその方の人生を見ること

――医療と介護で比較したときに、介護系管理栄養士だからこその良さってありますか?

医療は病気と戦っていく感じ。介護はその人の人生を見ていく感じがしていて。病気ではなく「その人個人」を見ているから、入所者さんとのコミュニケーションはすごく楽しかったですね。

その人が生きてきた軌跡をいろいろ知れて、まるで1人1人の長編ドキュメンタリーを見ているような感覚です。それが醍醐味な感じもします。

――自分よりはるかに多くのことを経験されてきた人生の大先輩にあたる方々ですもんね。

「ご飯はおいしくない!!」や「食べ飽きちゃう」とかそういう声もありましたけどね(笑)でも、そういう方こそちゃんと寄り添ってお話をしていくと最後はすごく仲良くしてくれるんですよ。孫のように接してもらえたりして。「しっかり向き合ってよかったなぁ」と思えるんですよね。

――どの関係性の方ともしっかりお話するっていうのが大事なんですね。

喋ったり伝えたりしてみたら、意外と大丈夫だったことは結構あります。新卒のとき、栄養士と厨房とのコミュニケーションで培った伝え方が活きているのかもしれないです。

新人なのに栄養士だから指示をしなきゃいけない立場ってすごく難しくって。人間関係の構築力は委託で学んだスキルかな。

――心に刻んでいる心構えはありますか?

仕事のときは、とにかく上から目線みたいにならないようには意識してました。資格を持っているから知識はあるよ!という感じではいかないようにしようって。「対等でいること」「教えてくださいという気持ちを忘れずに」ですかね。

――最後に、介護領域にチャレンジしてみようかな?と思っている方々に一言お願いします!

私も全く未知の状態から始めましたが、やってみたらすごく楽しかったです!

なので怖がらずにまずやってみたらいいと思いますよ。外部でも内部でも他職種でも、自分が動けば聞ける人はつくれるから大丈夫です。まずは一歩踏み出してみてくださいね!
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▼インタビュアー
エイチエ編集部

▼編集者
なつめ ももこ(管理栄養士)
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