疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<虚血性心疾患>
虚血性心疾患は、現代人にとって大きな健康リスクです。しかし、適切な食事療法や生活習慣の改善によって、予防できる可能性があります。
本記事では、虚血性心疾患に有効とされる予防方法や、栄養ケア・マネジメントの観点からアプローチする方法を解説します。
1.虚血性心疾患とは
多くの場合、動脈硬化が原因ですが、冠状動脈が異常に収縮(攣縮)することによっても起こります。その危険因子は、脂質異常症、高血圧、糖尿病、家族歴、体重、喫煙、精神保健が影響するとされています。
虚血性心疾患には、さまざまな病態があり(表1)のように4種類に分類されますので、日本人の虚血性心疾患の一次予防のために遵守すべき生活習慣を整えて危険因子(リスク)を避ける予防的治療法について考えてみましょう。
虚血性心疾患の診断は、胸痛、呼吸困難、悪心・嘔吐などが一般的な症状があります。これら自覚症状とともに、診断手順として心電図、シンチグラフィー(心筋血流)、冠動脈造影や、血液生化学検査の心筋障害マーカーとしてトロポニンT、CK、CK-MBなどや、炎症反応や栄養指標が測定されます。これらの検査手順や自覚症状から狭心症と心筋梗塞について鑑別(表2)されていきます。
出典: 奈良信雄著:栄養アセスメントに役立つ 臨床検査値の読み方、考え方ケーススタディ(第3版)、医歯薬出版 2023年1月発行
出典: 新臨床栄養学‐栄養ケア・マネジメント(第5版)、本田圭子編 医歯薬出版 2023年3月発行
2.虚血性心疾患の予防:動脈硬化と高血圧
虚血性心疾患の一次予防ガイドラインでは、我が国の虚血性心疾患の危険因子を下記の通り示しています。
2)家族歴として両親、祖父母および兄弟・姉妹における突然死や若年発の虚血性心疾患の既往がある
3)喫煙している
4)脂質異常症
高LDLコレステロール血症(140mg/ dL以上)、高トリグリセライド血症(150mg/dL以上) および低HDLコレステロール血症(40mg/dL未満)である
5)高血圧
収縮期血圧140mmHgあるいは拡張期血圧90mmHg 以上である
3.虚血性心疾患の予防:糖尿病と肥満、内臓肥満
①早朝空腹時血糖値126mg/ dL以上
②75g糖負荷試験2時間値200mg/dL以上
③随時血糖値200mg/dL以上
④HbA1c(NGSP値) 6.5%以上
いずれかが認められる病型、そして空腹時血糖値110mg/dL以上などの境界型とする
BMI25以上またはウエスト周囲径が男性で 85cm、女性で90cm以上
内臓肥満蓄積(ウエスト周囲径が男性で85cm、女性で90cm以上)で、高トリグリセリド血症150mg/dL以上または低HDLコレステロール血症(40mg/dL未満)、収縮期血圧130mmHg以上または拡張期血圧 85mmHg以上、空腹時高血糖110mg/dL以上のうち 2項目以上を持つもの
尿異常(特に蛋白尿の存在)、糸球体濾過量 (glomeruiar filtration rate GFR)60mL/分/l.73m2 未満または両方が3か月以上持続する
これらの(1)~(4)の生活習慣病が虚血性心疾患の危険リスクです。長年の生活習慣での注意が必要であると認識することが大切です。
4.虚血性心疾患の予防:その他、治療の基本(ストレス)
このストレスが虚血性心疾患の発症に関する要因であると、ガイドラインでも指摘しているので、仕事の作業量を工夫し長時間労働を避け、休日・休息を確保することを生活指導としてアドバイスします。
また、高齢者で特に予後不良である急性心筋梗塞などの、発症予防を目指す必要があります。特に高齢者では、多くの疾患を合併していて各臓器の予備能の低下と、加齢による生理・代謝機能も低下しています。
治療として薬物の副作用も出現しやすく、さらに高齢者の脂質異常症・高血圧・糖尿病などの冠危険因子の是正も、低栄養(フレイル)進展やQOLを含む、患者の全体像を把握しながら対応することが重要となります。
出典: コンパクト臨床栄養学 長浜、中西、近藤編 朝倉書店 2019年3月 第2刷
5.包括的心臓リハビリテーション
1)運動療法
この長期にわたる包括的で個別的なプログラムは、医師、看護師、理学療法士、管理栄養士、薬剤師などによるチーム医療の取り組みとなります。この、急性期の心臓リハビリテーションでは、退院後の患者さん1日の平均歩行数7,000歩以上で効果があると報告されています。
2)栄養指導
①魚摂取量が最も少ない(約20g/日)群に比べ、それ以上の最も多い群(1日約180g)では40%低い
②n-3系不飽和脂肪酸(EPA,DHA)の最も摂取量 が少ない群(約0.3g/日)に比べ、最も多い群(約2.1g/日)の冠動脈疾患の発症リスクも約40%低い
③果物の摂取量が多い群ほど循環器疾患(冠動脈疾患 +脳卒中)の発症リスクが低くなり、果物の摂取量が最大群では,最少群に比べ、そのリスクが19%低く、女性においてカリウム(果物)の摂取量が最大群では、最少群に比べ冠動脈疾患の死亡リスクが約60%低かった。
としています。その要点から表4.に栄養基準をまとめました。心臓リハビリテーションの参考にしてください。
出典: コンパクト臨床栄養学 長浜、中西、近藤編 朝倉書店 2019年3月 第2刷
6.虚血性心疾患の栄養ケアのポイント
2. 高コレステロールでは動物性脂肪を制限し、高中性脂肪の場合は甘いもの、穀類の多量摂取を控える
3. アルコール類は禁止する
4. 禁煙とする
5. 減塩する。男性7.5g/日、女性6.5g/日(2020食事摂取基準)
6. 果物・野菜・海藻類(カリウム)を十分摂取する
7. 運動として1日7000步以上の散歩
8. 仕事を過重にしない。睡眠は十分にとる
また近年、睡眠時無呼吸症で用いられている陽圧呼吸療法は、心筋梗塞後の心不全あるいは睡眠時無呼吸の合併の場合、患者の予後を大きく左右するとされています。
この陽圧呼吸療法が睡眠時無呼吸を治療するのみでなく、心機能・自律神経機能・運動耐容能等を改善させて予後に良好な影響を及ぼすため、必要時には基本的な治療オプションとして考えられるべきであると、心筋梗塞二次予防ガイドラインで示されており、これからの虚血性心疾患予防として注目されています。
出典: 近畿酸素株式会社 在宅医療事業部 - 経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)
執筆者:白石 弘美

元 人間総合科学大学 教授・前学科長
■ 経歴
1967年、東京慈恵会医科大学附属病院栄養部に管理栄養士として勤務。NST設立ディレクターとしてチーム医療の基盤を作る。
同病院の永年勤続を経て、東京家政大学・聖徳大学等の非常勤講師を歴任。
2008年より人間総合科学大学 教授、2012年〜2025年3月まで学科長を務める。
■ 専門・研究テーマ
臨床栄養学(糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症、炎症性腸疾患(IBD)など)
消化管術後の栄養管理、褥瘡予防における栄養指導
災害時におけるIBD患者のための備蓄食品開発(産学共同プロジェクト)
■ 主な著書・実績
『新臨床栄養学-栄養ケアマネジメント-』(医歯薬出版)
『健康21シリーズ 脂質異常症:コレステロール・中性脂肪が気になる人の食事』(女子栄養大学出版部)
日本脂質栄養学会「ランズ栄養功労賞」、日本褥瘡学会「栄養功労賞」など受賞多数。
■ 所属学会・協会
日本臨床栄養協会(常務理事・功労会員)
日本脂質栄養学会(理事・監事)
日本褥瘡学会(功労会員)
編集者:渡部 早紗

管理栄養士・編集者
元 総合病院・給食受託会社勤務。総合病院での直営給食・臨床業務を経て、給食受託会社のエリア指導員として従事。厨房の突発対応やアレルギー管理の緊張感、調理スタッフのマネジメントなど、現場の「リアルな悩み」を熟知している。 自身の転職経験や失敗談をもとに、現在はフリーランスとして活動。同業者に向けて、キャリアの選択肢や、明日から使える現場の知恵を「温かい言葉」で届けることをモットーに執筆・編集を行う。
参考文献・サイト
- 虚血性心疾患の一次予防ガイドライン:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)2015/2/5更新版(2023/4/12))
- 奈良信雄著:栄養アセスメントに役立つ 臨床検査値の読み方、考え方ケーススタディ(第3版)、医歯薬出版 2023年1月発行
- 心筋梗塞二次予防に関するガイドライン (2011年改訂版) Guidelines for Secondary Prevention of Myocardial Infarction (JCS 2011) 2013/9/13更新版
- コンパクト臨床栄養学 長浜、中西、近藤編:9.疾患・病態別の栄養ケア・マネジメント、C狭心症・心筋梗塞 p.123‐124 朝倉書店 2019年3月 第2刷
- 新臨床栄養学‐栄養ケア・マネジメント(第5版)、本田圭子編:ⅴ 治療となる栄養ケア 19.虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞) p.333~338、 医歯薬出版 2023年3月発行
- 看護・栄養指導のためのハンドブック(第6版)、奈良信雄 著:疾患と検査、狭心症p.199-200、心筋梗塞p.201-202、医歯薬出版2022年10月発行
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厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020 年版) 「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書
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日本老年医学会雑誌第58巻第3号 高齢者の心不全治療 2021 4.高齢者心不全の心臓リハビリテー ション
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公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット 血性心疾患の一次予防・二次予防
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一般社団法人 全国腎臓病協議会 診断基準について | 腎臓病について
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厚生労働省 健康日本21アクション支援システム 肥満と健康
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厚生労働省 健康日本21アクション支援システム 糖尿病
- 近畿酸素株式会社 経鼻的持続陽圧呼吸療法
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一般社団法人 日本呼吸器学会 Q32 CPAP(シーパップ)とはどのような治療法ですか?
