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2023.06.12

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<虚血性心疾患>

カバー画像:疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<虚血性心疾患>

虚血性心疾患は、現代人にとって大きな健康リスクです。しかし、適切な食事療法や生活習慣の改善によって、予防できる可能性があります。

本記事では、虚血性心疾患に有効とされる予防方法や、栄養ケア・マネジメントの観点からアプローチする方法を解説します。

1.虚血性心疾患とは

心臓の筋肉(=心筋)に血液を送る冠状動脈が狭くなったり(狭窄)、塞がったり(閉塞)して、心筋への血液の流れが悪くなり、心筋が酸素不足に陥る状態を虚血性心疾患と呼びます。

多くの場合、動脈硬化が原因ですが、冠状動脈が異常に収縮(攣縮)することによっても起こります。その危険因子は、脂質異常症、高血圧、糖尿病、家族歴、体重、喫煙、精神保健が影響するとされています。

虚血性心疾患には、さまざまな病態があり(表1)のように4種類に分類されますので、日本人の虚血性心疾患の一次予防のために遵守すべき生活習慣を整えて危険因子(リスク)を避ける予防的治療法について考えてみましょう。

虚血性心疾患の診断は、胸痛、呼吸困難、悪心・嘔吐などが一般的な症状があります。これら自覚症状とともに、診断手順として心電図、シンチグラフィー(心筋血流)、冠動脈造影や、血液生化学検査の心筋障害マーカーとしてトロポニンT、CK、CK-MBなどや、炎症反応や栄養指標が測定されます。これらの検査手順や自覚症状から狭心症と心筋梗塞について鑑別(表2)されていきます。

引用元: 奈良信雄著:栄養アセスメントに役立つ 臨床検査値の読み方、考え方ケーススタディ(第3版)、医歯薬出版 2023年1月発行

引用元: 新臨床栄養学‐栄養ケア・マネジメント(第5版)、本田圭子編 医歯薬出版 2023年3月発行

2.虚血性心疾患の予防:動脈硬化と高血圧

虚血性心疾患の代表は狭心症心筋梗塞になります。その予防には血管の狭窄・閉塞による動脈硬化と、血圧コントロールが大切です。

虚血性心疾患の一次予防ガイドラインでは、我が国の虚血性心疾患の危険因子を下記の通り示しています。
1)男性は45歳以上、女性は55歳以上
2)家族歴として両親、祖父母および兄弟・姉妹における突然死や若年発の虚血性心疾患の既往がある
3)喫煙している
4)脂質異常症

  高LDLコレステロール血症(140mg/ dL以上)、高トリグリセライド血症(150mg/dL以上) および低HDLコレステロール血症(40mg/dL未満)である
5)高血圧
 収縮期血圧140mmHgあるいは拡張期血圧90mmHg 以上である
健康診断や生活習慣でこれらの疾患がベースにあると、虚血性心疾患(不整脈、狭心症、心筋梗塞)の罹患リスクが高くなります。

3.虚血性心疾患の予防:糖尿病と肥満、内臓肥満

その他危険因子として挙げられる疾患は糖尿病、肥満とくに内臓肥満、腎臓病です。
(1)耐糖能異常/糖尿病
①早朝空腹時血糖値126mg/ dL以上
②75g糖負荷試験2時間値200mg/dL以上
③随時血糖値200mg/dL以上
④HbA1c(NGSP値) 6.5%以上
いずれかが認められる病型、そして空腹時血糖値110mg/dL以上などの境界型とする

(2)肥満
BMI25以上またはウエスト周囲径が男性で 85cm、女性で90cm以上

(3)メタボリックシンドローム
内臓肥満蓄積(ウエスト周囲径が男性で85cm、女性で90cm以上)で、高トリグリセリド血症150mg/dL以上または低HDLコレステロール血症(40mg/dL未満)、収縮期血圧130mmHg以上または拡張期血圧 85mmHg以上、空腹時高血糖110mg/dL以上のうち 2項目以上を持つもの

(4)慢性腎臓病(CKD)
尿異常(特に蛋白尿の存在)、糸球体濾過量 (glomeruiar filtration rate GFR)60mL/分/l.73m2 未満または両方が3か月以上持続する

(5)精神的、肉体的ストレスを危険因子とする
上記の通り虚血性心疾患一次予防ガイドラインに示されています。ここでの各疾患についての詳しい説明は、項目ごとに掲載する、疾患別の栄養ケア・マネジメントなどを参考にして下さい。

これらの(1)~(4)の生活習慣病が虚血性心疾患の危険リスクです。長年の生活習慣での注意が必要であると認識することが大切です。

4.虚血性心疾患の予防:その他、治療の基本(ストレス)

その他の危険因子や注視すべき点として、精神保健(ストレス)があると言われます。

このストレスが虚血性心疾患の発症に関する要因であると、ガイドラインでも指摘しているので、仕事の作業量を工夫し長時間労働を避け、休日・休息を確保することを生活指導としてアドバイスします。

また、高齢者で特に予後不良である急性心筋梗塞などの、発症予防を目指す必要があります。特に高齢者では、多くの疾患を合併していて各臓器の予備能の低下と、加齢による生理・代謝機能も低下しています。

治療として薬物の副作用も出現しやすく、さらに高齢者の脂質異常症・高血圧・糖尿病などの冠危険因子の是正も、低栄養(フレイル)進展やQOLを含む、患者の全体像を把握しながら対応することが重要となります。

引用元: コンパクト臨床栄養学 長浜、中西、近藤編 朝倉書店 2019年3月 第2刷

5.包括的心臓リハビリテーション

予防的治療法として、心筋梗塞や不安定狭心症など急性期治療の後、薬物療法や食事療法、禁煙、栄養指導、運動療法を組み入れた心臓リハビリテーションが行われます。

1)運動療法

運動療法は運動負荷試験を行い、その患者さんに合った運動プログラムのもとに運動療法を行うことを心臓リハビリテーションと呼びます。そして現在は運動療法だけでなく栄養指導や薬物療法など多くの因子の管理を包括的に行うことを「包括的心臓リハビリテーション」と呼んでいます。

この長期にわたる包括的で個別的なプログラムは、医師、看護師、理学療法士、管理栄養士、薬剤師などによるチーム医療の取り組みとなります。この、急性期の心臓リハビリテーションでは、退院後の患者さん1日の平均歩行数7,000歩以上で効果があると報告されています。

2)栄養指導

栄養指導では、心筋梗塞二次予防に関するガイドライン (2011年改訂版)による発症リスクとして

①魚摂取量が最も少ない(約20g/日)群に比べ、それ以上の最も多い群(1日約180g)では40%低い
②n-3系不飽和脂肪酸(EPA,DHA)の最も摂取量 が少ない群(約0.3g/日)に比べ、最も多い群(約2.1g/日)の冠動脈疾患の発症リスクも約40%低い
③果物の摂取量が多い群ほど循環器疾患(冠動脈疾患 +脳卒中)の発症リスクが低くなり、果物の摂取量が最大群では,最少群に比べ、そのリスクが19%低く、女性においてカリウム(果物)の摂取量が最大群では、最少群に比べ冠動脈疾患の死亡リスクが約60%低かった。

としています。その要点から表4.に栄養基準をまとめました。心臓リハビリテーションの参考にしてください。

引用元: コンパクト臨床栄養学 長浜、中西、近藤編 朝倉書店 2019年3月 第2刷

6.虚血性心疾患の栄養ケアのポイント

1)肥満を解消する
2)高コレステロールでは動物性脂肪を制限し、高中性脂肪の場合は甘いもの、穀類の多量摂取を控える
3)アルコール類は禁止する
4)禁煙とする
5)減塩する。男性7.5g/日、女性6.5g/日(2020食事摂取基準)
6)果物・野菜・海藻類(カリウム)を十分摂取する
7)運動として1日7000步以上の散歩
8)仕事を過重にしない。睡眠は十分にとる
などの生活習慣の改善をします。そして急性期治療後の心臓リハビリが罹患後の再発・進展予防として、時期ごとの区分で施行するように推奨されています。
  
また近年、睡眠時無呼吸症で用いられている陽圧呼吸療法は、心筋梗塞後の心不全あるいは睡眠時無呼吸の合併の場合、患者の予後を大きく左右するとされています。

この陽圧呼吸療法が睡眠時無呼吸を治療するのみでなく、心機能・自律神経機能・運動耐容能等を改善させて予後に良好な影響を及ぼすため、必要時には基本的な治療オプションとして考えられるべきであると、心筋梗塞二次予防ガイドラインで示されており、これからの虚血性心疾患予防として注目されています。
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科 学科長
役職:教授
白石 弘美 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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