岡山大学、群馬大学、筑波大学による共同研究で明らかに
国立大学法人の岡山大学、群馬大学、筑波大学は10日、共同研究成果プレスリリースとして、モデル生物による過剰なたんぱく質摂食を防ぐ仕組みの一端を解明したことを発表した。
栄養素のバランスを感知し、食欲や摂食嗜好性を生み出す仕組みに、腸内分泌ホルモンが関与している可能性があることを明らかにしている。この研究成果は2024年12月30日付で、英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。
研究を実施したのは、群馬大学生体調節研究所の吉成祐人助教、西村隆史教授、筑波大学生存ダイナミクス研究センターの丹羽隆介教授、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の吉井大志教授らによるグループ。
今回、この研究グループはモデル生物であるキイロショウジョウバエを用い、その腸内分泌細胞から分泌される特定のホルモンが、たんぱく質に対する食欲を抑制することを確認した。
人間における摂食障害や偏食などに腸内分泌ホルモンが関与している可能性も示唆され、今後、これをターゲットとした治療法などの開発も期待されるとしている。
栄養素のバランスを感知し、食欲や摂食嗜好性を生み出す仕組みに、腸内分泌ホルモンが関与している可能性があることを明らかにしている。この研究成果は2024年12月30日付で、英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。
研究を実施したのは、群馬大学生体調節研究所の吉成祐人助教、西村隆史教授、筑波大学生存ダイナミクス研究センターの丹羽隆介教授、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の吉井大志教授らによるグループ。
今回、この研究グループはモデル生物であるキイロショウジョウバエを用い、その腸内分泌細胞から分泌される特定のホルモンが、たんぱく質に対する食欲を抑制することを確認した。
人間における摂食障害や偏食などに腸内分泌ホルモンが関与している可能性も示唆され、今後、これをターゲットとした治療法などの開発も期待されるとしている。
複雑な生物の栄養バランス調節の仕組み
私たち人間を含む生物は、みな摂取した栄養素を体内で感知し、足りない栄養素を補うように次の食物を嗜好性により選択することで栄養バランスを保っている。
これには栄養素のバランスを感知する仕組みと、その情報を特定の食べ物に対する食欲や選択意思として変換する摂食嗜好性関係の仕組みの双方が必要と考えられるが、その詳細に関しては不明な点が多い。
三大栄養素のひとつであるたんぱく質についても、こうした摂食行動制御のシステムが働き、適切な摂取量を摂ろうとする仕組みがあるとみられるものの、この調節の仕組みもよく分かっていなかった。
キイロショウジョウバエは遺伝学のモデル生物で、人を含む哺乳動物と同様、体内の栄養状態に応じた食物選択を行うことが知られている。また、ショウジョウバエも人も、摂取カロリーのうち15%程度をたんぱく質から得ており、過剰なたんぱく質摂取は心臓病や腎疾患の発症と関与することも分かっている。
腸は食物の消化・吸収を行うが、それだけでなく体内の重要な内分泌器官でもあり、腸内分泌細胞からは複数のホルモンが放出されている。昨今では哺乳動物やショウジョウバエを用いた研究で、腸内分泌細胞が食餌中の栄養に応じて発火し、腸ホルモンを放出することで摂食に応じた代謝バランスを調整することも明らかになってきた。
こうした観点から、研究グループでは腸内分泌細胞に着目し、摂食嗜好性の調節機能を調べることにしたという。
これには栄養素のバランスを感知する仕組みと、その情報を特定の食べ物に対する食欲や選択意思として変換する摂食嗜好性関係の仕組みの双方が必要と考えられるが、その詳細に関しては不明な点が多い。
三大栄養素のひとつであるたんぱく質についても、こうした摂食行動制御のシステムが働き、適切な摂取量を摂ろうとする仕組みがあるとみられるものの、この調節の仕組みもよく分かっていなかった。
キイロショウジョウバエは遺伝学のモデル生物で、人を含む哺乳動物と同様、体内の栄養状態に応じた食物選択を行うことが知られている。また、ショウジョウバエも人も、摂取カロリーのうち15%程度をたんぱく質から得ており、過剰なたんぱく質摂取は心臓病や腎疾患の発症と関与することも分かっている。
腸は食物の消化・吸収を行うが、それだけでなく体内の重要な内分泌器官でもあり、腸内分泌細胞からは複数のホルモンが放出されている。昨今では哺乳動物やショウジョウバエを用いた研究で、腸内分泌細胞が食餌中の栄養に応じて発火し、腸ホルモンを放出することで摂食に応じた代謝バランスを調整することも明らかになってきた。
こうした観点から、研究グループでは腸内分泌細胞に着目し、摂食嗜好性の調節機能を調べることにしたという。
制御機能の破綻でたんぱく質の過剰摂取が発生
研究グループは、まずショウジョウバエの腸内分泌ホルモンのうち、摂食行動に関連するものを特定すべく、9種類の腸内分泌ホルモン機能を順に阻害し、摂食行動を観察、CCHa1と呼ばれるホルモンの機能阻害で摂食量が増えることを突き止めた。
ショウジョウバエは主に炭水化物とたんぱく質の多い酵母を混ぜた餌で飼育されており、どちらへの食欲が増大しているかを調べると、CCHa1の機能阻害を行ったハエでは、たんぱく質を過剰に摂取する傾向があると分かった。
ホルモン分泌は腸内分泌細胞の活性化状態により制御されているため、CCHa1を産生する腸内分泌細胞の活性化状態を確認したところ、高たんぱく質食や非必須アミノ酸であるアラニンとグリシンで活性化されることが判明した。
非必須アミノ酸に対する食欲を調べると、CCHa1の機能阻害ハエでは、非必須アミノ酸を多く摂食するようになっており、CCHa1が餌中のたんぱく質量を読み取り、アミノ酸摂取量を調節する機能を果たしていると確認された。
ショウジョウバエは主に炭水化物とたんぱく質の多い酵母を混ぜた餌で飼育されており、どちらへの食欲が増大しているかを調べると、CCHa1の機能阻害を行ったハエでは、たんぱく質を過剰に摂取する傾向があると分かった。
ホルモン分泌は腸内分泌細胞の活性化状態により制御されているため、CCHa1を産生する腸内分泌細胞の活性化状態を確認したところ、高たんぱく質食や非必須アミノ酸であるアラニンとグリシンで活性化されることが判明した。
非必須アミノ酸に対する食欲を調べると、CCHa1の機能阻害ハエでは、非必須アミノ酸を多く摂食するようになっており、CCHa1が餌中のたんぱく質量を読み取り、アミノ酸摂取量を調節する機能を果たしていると確認された。
血中へ分泌されたCCHa1は、CCHa1受容体に作用することで情報伝達を行う。そこでこの受容体を調べると、腸へと伸びる神経細胞で発現しているCCHa1受容体が、たんぱく質に対する摂食行動を制御していると分かった。
この神経細胞はショウジョウバエの食道と中腸の境目に位置する神経節に細胞体があり、sNPFという神経伝達物質を生み出している。そこで、このsNPF産生神経と回路を形成している神経細胞を探索すると、sNPFと隣接するところに細胞体をもつ甘味受容神経と連絡していた。
そのため、この甘味受容神経でsNPF受容体の機能阻害や活性阻害を行ったところ、CCHa1の機能阻害と同様にたんぱく質の過剰摂取が確認された。
腸内分泌ホルモンCCHa1から生じたたんぱく質摂取の情報伝達が腸へと伸びる神経を介し、甘味受容神経へと働きかけて行動が喚起されるとみられる。
この神経細胞はショウジョウバエの食道と中腸の境目に位置する神経節に細胞体があり、sNPFという神経伝達物質を生み出している。そこで、このsNPF産生神経と回路を形成している神経細胞を探索すると、sNPFと隣接するところに細胞体をもつ甘味受容神経と連絡していた。
そのため、この甘味受容神経でsNPF受容体の機能阻害や活性阻害を行ったところ、CCHa1の機能阻害と同様にたんぱく質の過剰摂取が確認された。
腸内分泌ホルモンCCHa1から生じたたんぱく質摂取の情報伝達が腸へと伸びる神経を介し、甘味受容神経へと働きかけて行動が喚起されるとみられる。
続けてCCHa1からの摂食制御の仕組みが破綻した時に生じる影響を調べるべく、CCHa1の機能阻害ショウジョウバエを高たんぱく質食で飼育し続ける実験も行った。すると、寿命が短くなることが確認されたという。
この原因を探るため網羅的に代謝物測定を行ったところ、アミノ酸を由来とするアンモニアの解毒・排泄に重要な尿素サイクルの中間代謝物が増え、アンモニア蓄積が起こっていることが分かった。アンモニアは細胞に対する毒性をもつため、生物の体内では一定量に抑える仕組みが働いている。
しかし、CCHa1やsNPFの機能阻害を行うと、ショウジョウバエはアミノ酸を多量に含む高たんぱく質食を食べ続けてしまい、体内アンモニア量が増大、寿命が短くなることが分かった。
今回の研究により、ショウジョウバエの体内にはたんぱく質摂取を一定に保つシステムがあり、それは腸内分泌ホルモンから始まっていること、腸へと伸びる神経を介し、味覚神経へとつながることで生体の栄養バランスを保っていることが示された。
この仕組みが破綻すると、たんぱく質の過剰摂取に抑制がきかなくなり、有害物質が蓄積されることも明らかとなった。
疾患の発現とも深く関与するたんぱく質摂取は、人においても適切に調節されるべきもので、それによって栄養バランスを整えること、保つことが重要である。
ショウジョウバエ同様、人においてもいくつかの腸内分泌細胞がたんぱく質摂食に応答することが知られているため、今回の研究成果で明らかとなったように、腸内分泌ホルモンがたんぱく質への食欲制御を行っている可能性もある。
研究グループでは、これら知見を活かし、人における栄養バランスの破綻に対処、健康を維持する治療アプローチなどへつなげていきたいとした。
(画像はプレスリリースより)
この原因を探るため網羅的に代謝物測定を行ったところ、アミノ酸を由来とするアンモニアの解毒・排泄に重要な尿素サイクルの中間代謝物が増え、アンモニア蓄積が起こっていることが分かった。アンモニアは細胞に対する毒性をもつため、生物の体内では一定量に抑える仕組みが働いている。
しかし、CCHa1やsNPFの機能阻害を行うと、ショウジョウバエはアミノ酸を多量に含む高たんぱく質食を食べ続けてしまい、体内アンモニア量が増大、寿命が短くなることが分かった。
今回の研究により、ショウジョウバエの体内にはたんぱく質摂取を一定に保つシステムがあり、それは腸内分泌ホルモンから始まっていること、腸へと伸びる神経を介し、味覚神経へとつながることで生体の栄養バランスを保っていることが示された。
この仕組みが破綻すると、たんぱく質の過剰摂取に抑制がきかなくなり、有害物質が蓄積されることも明らかとなった。
疾患の発現とも深く関与するたんぱく質摂取は、人においても適切に調節されるべきもので、それによって栄養バランスを整えること、保つことが重要である。
ショウジョウバエ同様、人においてもいくつかの腸内分泌細胞がたんぱく質摂食に応答することが知られているため、今回の研究成果で明らかとなったように、腸内分泌ホルモンがたんぱく質への食欲制御を行っている可能性もある。
研究グループでは、これら知見を活かし、人における栄養バランスの破綻に対処、健康を維持する治療アプローチなどへつなげていきたいとした。
(画像はプレスリリースより)