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2024.03.19

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<高血圧>

カバー画像:疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<高血圧>

高血圧は生活習慣病の代表例であり、栄養療法が有効なアプローチです。管理栄養士が提供する栄養ケアは、適切な食事プランや栄養素の摂取量の調整を通じて、患者の血圧管理を支援します。本記事ではそのポイントを解説します。

はじめに

血圧は大動脈と分岐動脈の圧力で、全身に血液を送り出す力を指します。

この血圧は心臓の働きで変動し、最高血圧(収縮期血圧)130mmHg未満、最低血圧(拡張期血圧)80mmHg未満を正常血圧としており、(表1)成人の血圧分類において、高血圧をⅠ、Ⅱ、Ⅲ度と分類して、一般的に高血圧と呼ばれる状態は図1.に示したⅠ度高血圧、Ⅱ度高血圧、Ⅲ度高血圧、収縮期高血圧となります。

この中で収縮期高血圧とは高齢者に多く、心臓が収縮した瞬間だけ高血圧となるものです。

これら高血圧(HT:hypertension)は、サイレント・ディジーズ(静かな病気)とも言われ、血管内の圧力が基準以上になる状態でも、初期は自覚症状のないまま高血圧が発症し、日本人の生活習慣病死亡において、喫煙とともに、最も大きく影響する要因となります。

また、成人の多く(およそ2人に1人)が高血圧であるとも言われていて、高血圧には本態性高血圧と、疾患などを原因とする二次性高血圧があり、日本人の高血圧症の大部分(90%以上)が本態性高血圧です。

1. 高血圧の治療

1)血圧が高いということは常に血管に高い圧力が加わっている状態であるため、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高くなります。

治療として至適血圧は、収縮期血圧(最高血圧)120mmHg未満、拡張期血圧(最低血圧)が80mmHg未満であり、至適血圧では動脈硬化など血圧を原因とする病気になりにくいとされています。(注意:収縮期が120mmHg未満でも、拡張期血圧が80mmHg以上では至適血圧としません)

さらに高血圧の治療には家庭血圧の臨床的な位置づけが、診療室血圧よりも優先されており、診断の手順を「診察室血圧と家庭血圧の間に差がある場合、家庭血圧による診断を優先する」とされています。 
2)高血圧は心筋梗塞、脳卒中だけでなく、動脈瘤破裂など多くの臓器、特に毛細血管の多い脳、網膜(眼)、腎臓に合併して悪影響が出現します。

しかし血圧が高いだけで自覚もなく「どうして血圧が高いと悪いの?」と思う人が多いのも現状です。高血圧の要因、血圧を下げる対策を周知して、高血圧治療は様々な合併症を防ぐためにも重要と認識する必要があります。
3)治療の選択として第一段階は、生活習慣の見直し修正表4)となります。

特に初診時の治療は、血圧管理計画(図2)に示した二次性高血圧の除外、合併症を評価して生活習慣の修正を指導します。投薬については、血圧管理計画による生活習慣の修正指導を行った後、低・中・高リスク群それぞれのタイミングで投薬が開始されます。(表4

2. 生活習慣の修正項目

生活習慣の修正項目が高血圧学会治療ガイドラインで示されています。(表5)その中でも食事療法は投薬治療が開始される前に実施すべき基本的な治療手段となります。

1) 栄養食事療法の基本

肥満であれば体重管理の目標に添った(肥満学会のBMIを参照)エネルギー量の調整、活動によるエネルギー消費増加が指示されます。
食塩は1日6g未満として、減塩で美味しく食べる調理工夫や、減塩製品の情報を提供
する必要があります。
・野菜・果物は積極的に摂取して(カリウム制限のある腎障害以外)カリウム補充により、ナトリウム(Na)の尿中排泄を促します。
・脂質エネルギー比率は20~25%とし、量だけでなく質の点から飽和脂肪酸、コレステロールの摂取を控えます。
・アルコール摂取も制限して、エタノール換算で男性20~30m1/日以下、女性10~20 m1/日以下の節酒とします。

2) その他の生活習慣項目

・食事療法の効果は2~3ヵ月後の成果を確認とし、継続した栄養食事管理で評価します。
・禁煙を実行しましょう。
・減量は目標体重に達していなくても、4~5㎏の減量で降圧効果が期待できます。またBMIと同時に腹囲を減らす(男性85㎝未満、女性90㎝未満)と、降圧効果があるとされています。
・一般的に外食や加工食品は、食塩が濃くなるので、食品表示を注視しながら食事選択についても指導する必要があります。

3.高血圧の予防と生活習慣項目の修正

血圧は時間帯によって変化しており、早朝血圧、ストレス高血圧、夜間高血圧と言われる高血圧などがあります。

ほかにも、逆白衣性高血圧(仮面性高血圧)と呼ばれる高血圧が、正常とされる人で10~15%、高血圧患者のうち、血圧管理が良好とされる方で30%に見られると報告があります。

このように血圧測定は生活条件により変動し、深夜睡眠中は通常日中より血圧が低下していますが、中には睡眠中に上昇する仮面性高血圧(図3もあり、この仮面性高血圧は正常血圧の方より代謝異常を合併しやすく、通常の高血圧患者さんと同じくらい心血管イベントのリスクが高くなるとされています。

そこで高血圧予防の対策では、早朝にかけて上昇する血圧、仕事中のストレスで上昇する血圧などの時間的な生活条件も考慮しながら、投薬治療の前提として、表7に示した低リスク群なら3ヶ月間、中リスク群なら1ヶ月間の減塩管理と生活習慣の修正が降圧管理に有効となります。
生活習慣の修正項目(表5)の指導ポイントは以下の通りです。
①睡眠不足に注意して精神的緊張を緩める。
②肥満や糖尿病を合併している場合は、疾患のコントロールも重要。
③食塩制限は6g/日未満の食事・調理の工夫が必要。
④体重は減量を心がけてBMI25を超えない。
⑤野菜・果物を積極的に摂取しカリウムを補給する。
⑥飲酒に注意して、アルコール摂取量を減らす。
⑦禁煙は厳守する
高血圧を放置すると脳・心臓・腎臓・などの臓器障害を発生すること、高血圧以外の心血管危険因子(脂質異常、糖尿病、喫煙)の有無が予後に影響があることを認識し、生活習慣・食事療法に取り組むよう指導しましょう。

特に減塩食事教育は、調味料の使用量を減らすだけでなく、食べる工夫として「複数の料理は、塩分濃度の薄い物から食べて、濃い物を最後に食べると低塩分でも満足度が高くなる」との研究報告もあり、減塩料理を満足する食事とするために参考になると考えます。

これら栄養食事療法を含めた「生活習慣項目」の修正を総合的に実施することで、高血圧治療の効果が高くなるといえます。
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科 学科長
役職:教授
白石 弘美 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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