疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<高血圧>
高血圧は生活習慣病の代表例であり、栄養療法が有効なアプローチです。管理栄養士が提供する栄養ケアは、適切な食事プランや栄養素の摂取量の調整を通じて、患者の血圧管理を支援します。本記事ではそのポイントを解説します。
はじめに
この血圧は心臓の働きで変動し、最高血圧(収縮期血圧)130mmHg未満、最低血圧(拡張期血圧)80mmHg未満を正常血圧としており、(表1)成人の血圧分類において、高血圧をⅠ、Ⅱ、Ⅲ度と分類して、一般的に高血圧と呼ばれる状態は図1.に示したⅠ度高血圧、Ⅱ度高血圧、Ⅲ度高血圧、収縮期高血圧となります。
この中で収縮期高血圧とは高齢者に多く、心臓が収縮した瞬間だけ高血圧となるものです。
これら高血圧(HT:hypertension)は、サイレント・ディジーズ(静かな病気)とも言われ、血管内の圧力が基準以上になる状態でも、初期は自覚症状のないまま高血圧が発症し、日本人の生活習慣病死亡において、喫煙とともに、最も大きく影響する要因となります。
また、成人の多く(およそ2人に1人)が高血圧であるとも言われていて、高血圧には本態性高血圧と、疾患などを原因とする二次性高血圧があり、日本人の高血圧症の大部分(90%以上)が本態性高血圧です。
出典: 特定非営利活動法人日本高血圧学会 発行/日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編集 高血圧治療ガイドライン2019 P18 より引用
1. 高血圧の治療
治療として至適血圧は、収縮期血圧(最高血圧)120mmHg未満、拡張期血圧(最低血圧)が80mmHg未満であり、至適血圧では動脈硬化など血圧を原因とする病気になりにくいとされています。(注意:収縮期が120mmHg未満でも、拡張期血圧が80mmHg以上では至適血圧としません)
さらに高血圧の治療には家庭血圧の臨床的な位置づけが、診療室血圧よりも優先されており、診断の手順を「診察室血圧と家庭血圧の間に差がある場合、家庭血圧による診断を優先する」とされています。
出典: 特定非営利活動法人日本高血圧学会 発行/日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編集 高血圧治療ガイドライン2014 P35 より引用
しかし血圧が高いだけで自覚もなく「どうして血圧が高いと悪いの?」と思う人が多いのも現状です。高血圧の要因、血圧を下げる対策を周知して、高血圧治療は様々な合併症を防ぐためにも重要と認識する必要があります。
特に初診時の治療は、血圧管理計画(図2)に示した二次性高血圧の除外、合併症を評価して生活習慣の修正を指導します。投薬については、血圧管理計画による生活習慣の修正指導を行った後、低・中・高リスク群それぞれのタイミングで投薬が開始されます。(表4)
出典: 特定非営利活動法人日本高血圧学会 発行/日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編集 高血圧治療ガイドライン2009 ダイジェスト P22 より引用
2. 生活習慣の修正項目
1) 栄養食事療法の基本
・食塩は1日6g未満として、減塩で美味しく食べる調理工夫や、減塩製品の情報を提供
する必要があります。
・野菜・果物は積極的に摂取して(カリウム制限のある腎障害以外)カリウム補充により、ナトリウム(Na)の尿中排泄を促します。
・脂質エネルギー比率は20~25%とし、量だけでなく質の点から飽和脂肪酸、コレステロールの摂取を控えます。
・アルコール摂取も制限して、エタノール換算で男性20~30m1/日以下、女性10~20 m1/日以下の節酒とします。
出典: 特定非営利活動法人日本高血圧学会 発行/日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編集 高血圧治療ガイドライン2014 P40 より引用
2) その他の生活習慣項目
・禁煙を実行しましょう。
・減量は目標体重に達していなくても、4~5㎏の減量で降圧効果が期待できます。またBMIと同時に腹囲を減らす(男性85㎝未満、女性90㎝未満)と、降圧効果があるとされています。
・一般的に外食や加工食品は、食塩が濃くなるので、食品表示を注視しながら食事選択についても指導する必要があります。
3.高血圧の予防と生活習慣項目の修正
ほかにも、逆白衣性高血圧(仮面性高血圧)と呼ばれる高血圧が、正常とされる人で10~15%、高血圧患者のうち、血圧管理が良好とされる方で30%に見られると報告があります。
このように血圧測定は生活条件により変動し、深夜睡眠中は通常日中より血圧が低下していますが、中には睡眠中に上昇する仮面性高血圧(図3)もあり、この仮面性高血圧は正常血圧の方より代謝異常を合併しやすく、通常の高血圧患者さんと同じくらい心血管イベントのリスクが高くなるとされています。
そこで高血圧予防の対策では、早朝にかけて上昇する血圧、仕事中のストレスで上昇する血圧などの時間的な生活条件も考慮しながら、投薬治療の前提として、表7に示した低リスク群なら3ヶ月間、中リスク群なら1ヶ月間の減塩管理と生活習慣の修正が降圧管理に有効となります。
出典: 特定非営利活動法人日本高血圧学会 発行/日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編集 高血圧治療ガイドライン2019 P21 より引用
出典: 特定非営利活動法人日本高血圧学会 発行/日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編集 高血圧治療ガイドライン2019 P53 より引用
②肥満や糖尿病を合併している場合は、疾患のコントロールも重要。
③食塩制限は6g/日未満の食事・調理の工夫が必要。
④体重は減量を心がけてBMI25を超えない。
⑤野菜・果物を積極的に摂取しカリウムを補給する。
⑥飲酒に注意して、アルコール摂取量を減らす。
⑦禁煙は厳守する
特に減塩食事教育は、調味料の使用量を減らすだけでなく、食べる工夫として「複数の料理は、塩分濃度の薄い物から食べて、濃い物を最後に食べると低塩分でも満足度が高くなる」との研究報告もあり、減塩料理を満足する食事とするために参考になると考えます。
これら栄養食事療法を含めた「生活習慣項目」の修正を総合的に実施することで、高血圧治療の効果が高くなるといえます。
執筆者:白石 弘美

元 人間総合科学大学 教授・前学科長
■ 経歴
1967年、東京慈恵会医科大学附属病院栄養部に管理栄養士として勤務。NST設立ディレクターとしてチーム医療の基盤を作る。
同病院の永年勤続を経て、東京家政大学・聖徳大学等の非常勤講師を歴任。
2008年より人間総合科学大学 教授、2012年〜2025年3月まで学科長を務める。
■ 専門・研究テーマ
臨床栄養学(糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症、炎症性腸疾患(IBD)など)
消化管術後の栄養管理、褥瘡予防における栄養指導
災害時におけるIBD患者のための備蓄食品開発(産学共同プロジェクト)
■ 主な著書・実績
『新臨床栄養学-栄養ケアマネジメント-』(医歯薬出版)
『健康21シリーズ 脂質異常症:コレステロール・中性脂肪が気になる人の食事』(女子栄養大学出版部)
日本脂質栄養学会「ランズ栄養功労賞」、日本褥瘡学会「栄養功労賞」など受賞多数。
■ 所属学会・協会
日本臨床栄養協会(常務理事・功労会員)
日本脂質栄養学会(理事・監事)
日本褥瘡学会(功労会員)
編集者:渡部 早紗

管理栄養士・編集者
元 総合病院・給食受託会社勤務。総合病院での直営給食・臨床業務を経て、給食受託会社のエリア指導員として従事。厨房の突発対応やアレルギー管理の緊張感、調理スタッフのマネジメントなど、現場の「リアルな悩み」を熟知している。 自身の転職経験や失敗談をもとに、現在はフリーランスとして活動。同業者に向けて、キャリアの選択肢や、明日から使える現場の知恵を「温かい言葉」で届けることをモットーに執筆・編集を行う。
参考文献・サイト
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厚生労働省 e-ヘルスネット 高血圧(2024/03/07)
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特定非営利活動法人日本高血圧学会 発行/日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編集 高血圧治療ガイドライン2019(2024/03/07)
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特定非営利活動法人日本高血圧学会 発行/日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編集 高血圧治療ガイドライン2014(2024/03/07)
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特定非営利活動法人日本高血圧学会 発行/日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編集 高血圧治療ガイドライン2009 ダイジェスト(2024/03/07)
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一般社団法人 日本臨床内科医会 わかりやすい病気のはなしシリーズ 9. 高血圧(2024/03/07)
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公益財団法人 日本心臓財団 循環器最新情報 高血圧Question10 逆白衣性高血圧(2024/03/07)
- 新臨床栄養学‐栄養ケア・マネジメント(第5版)本田圭子編:ⅴ治療となる栄養ケア 高血圧 P321~329 医歯薬出版 2023年3月発行(2024/03/07)
- 看護・栄養指導のための臨床検査ハンドブック(第6版)奈良信雄 著:高血圧症 P203~205 医歯薬出版 2022年12月発行(2024/03/07)
- コンパクト臨床栄養学 長浜、中西、近藤 編:9.疾患・病態別の栄養ケア・マネジメント 循環器疾患 a.高血圧 P119‐121 朝倉書店 2019年3月 第2刷(2024/03/07)
- 地域の健康祭り会場での塩味順応を応用した塩味変化体験イベントの実施~うす味ファーストのすすめ~ 長幡、高橋、藤井、浅沼、谷口、岡山、奥田 著:日本循環器予防学会誌Vol.58 No.3(2023)(2024/03/07)
