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疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<認知症>

更新日2026.03.26

超高齢社会において、認知症の方への適切な栄養管理は管理栄養士にとって欠かせないスキルのひとつです。しかし、失認や失行、BPSD(行動・心理症状)による食事拒否など、現場での対応に悩む場面も多いのではないでしょうか。

この記事では、認知症の基礎知識をはじめ、低栄養・過栄養へのアプローチ、PDCAサイクルに沿った栄養ケアマネジメントの具体的なプロセスを解説します。さらに、食事提供の工夫や多職種・家族との連携など、明日から現場で使える実践ポイントまで網羅しました。認知症の方一人ひとりに寄り添った質の高い栄養ケアの実現にぜひお役立てください。

認知症の栄養管理の前提となる基礎知識(定義・症状・治療法)

認知症とは(定義および診断基準)¹⁾

ICD-10(1993年)による認知症の定義は、下記の通りです¹⁾。
「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断など多数の高次脳機能障害からなる症候群」
出典: 疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第10版
NIA-AA(2011年)の認知症の診断基準では、記銘記憶障害、遂行機能低下、視空間認知障害、言語障害の4つを同等に扱い、さらに行動障害を含め、アルツハイマー型認知症以外の認知症疾患にも対応した診断基準となっています(表1)¹⁾。

認知症の原因と主な疾患

認知症の原因となる疾患には、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症の4つがあり、頻度が高いことから「4大認知症」と呼ばれています。4大認知症のうち、過半数を占めているのがアルツハイマー病であり、最も多い疾患となっています。また、高齢になると、「神経原線維変化型認知症」や「嗜銀顆粒性認知症」などの疾患も増加します。

ほかにも、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病など様々な病気が引き金となって認知症が発生します²⁾。

認知症の主な原因として、DMS-5の下位分類では、アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、レビー小体病、血管性疾患、外傷性脳損傷等が挙げられます³⁾。

認知症の検査方法と診断

認知症のスクリーニングと栄養管理の事前確認⁴⁾
認知機能障害が疑われる場合、以下に示すような認知機能検査を行うことが望ましいとされています。いずれもスクリーニング検査であり、検査の目的、検査の所要時間、実施者の職種などの施設の状況に応じて検査を選択することが勧められています。
  • 1) HDS-R(Hasegawa's Dementia Scale-Revised:改訂長谷川式認知症スケール)(所要時間:6-10分)
  • 2) Mini-Cog(2分以内)
  • 3) MoCA(Montreal Cognitive Assessment)(10分)
  • 4) DASC-21(Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items: 地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート)(5-10分)
  • 5) MMSE (Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)(6-10分)
  • 6) ABC-DS(ABC dementia scale:ABC認知症スケール)(10分)⁴⁾
認知症の診断と生活機能の評価⁴⁾
認知症の診断には、以下のいずれかの診断基準に基づいて行われます。
  • ・米国精神医学会による診断マニュアルであるDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5(DSM-5)
  • ・国際疾病分類第10版(ICD-10)
  • ・またはNational Institute on Aging-Alzheimerʼs Association(NIA-AA)
認知機能障害だけをチェックするのではなく、社会生活における障害を確認することが重要です(図1)。診断において生活機能の低下がある場合は認知症を疑い、概ね自立しているケースでは、MCIを考えます。認知機能障害が疑われる場合は、問診を通して、手段的ADLなどの生活機能の障害有無を確認します。
次に、認知機能検査(HDS-R, Mini-Cog, MMSEなどを推奨)を実施します。検査結果がHDS-R20点以下、Mini-Cog 2点以下、DASC-21が31点以上、MMSE 23点以下の場合には認知症が疑われます。また、MCIが疑われるケースは、MoCAは25点以下、MMSE 27点以下の場合です。

しかしながら、認知症やMCIは、これらのスクリーニング検査の結果だけで診断することは困難とされています。診断にあたっては、せん妄やうつ病などの影響を除外したうえで、血液検査や脳CT・MRIなどの画像検査を行い、二次性の脳機能低下がないかを確認することが重要です。特に、甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症など、治療によって改善が期待できる認知症を見逃さないよう、慎重な評価が求められます。

また、HDS-R やMMSEの点数が高くても遂行機能障害を認め、日常生活におけるセルフケアが十分に行えない場合があります。取り繕い行動によって困りごとが見えづらいケースもあるため、本人からの情報に加え、介護者からの聞き取りも欠かせません。必要に応じて、老年病、神経内科、精神科などの認知症を専門とする医師への紹介を検討します。

認知症の種類と特徴⁵⁾⁶⁾⁷⁾

病症名 原因 主な症状
アルツハイマー型認知症 脳の中にアミロイドβと呼ばれるたんぱく質が異常に蓄積します。神経細胞が死んでしまい、その結果、もの忘れなどの症状が生じます。
  • ・認知機能障害(もの忘れなど)
  • ・もの盗られ妄想
  • ・徘徊
  • ・とりつくろいなど
脳血管性認知症 脳卒中(脳梗塞や脳出血、くも膜下出血)によって認知機能の低下が起こった状態。脳低灌流や脳循環不全など、慢性的な血流障害により認知機能低下が引き起こされ、認知症に至ります。
  • ・認知機能障害
  • ・手足のしびれ・麻痺
  • ・感情のコントロールがうまくいかないなど
レビー小体型認知症 脳内に異常たんぱく質が蓄積して神経の変性が起こる疾患の一つです。
  • ・認知機能障害(注意力・視覚など)
  • ・認知の変動
  • ・幻視・妄想
  • ・抑うつ
  • ・パーキンソン症状
前頭側頭型認知症 前頭葉や側頭葉を中心に萎縮が起こる病態です。異常たんぱく質が蓄積しますが、発症機序は、現在のところ明らかになっていません。
  • ・自発性や関心の低下
  • ・言語障害
  • ・行動の変化など

認知症の症状と栄養ケアへの影響(中核症状・BPSD)

認知症の症状には、大きく分けて2つあります。ひとつ目は、記憶障害を中心とした認知症の方に必ず見られる中核症状です。もうひとつは、そこに本人の性格や環境の変化などが加わって起こる周辺症状(行動・心理症状:BPSD)があります⁶⁾。
認知症の中核症状と栄養ケア上の留意点⁶⁾
中核症状とは、脳の神経細胞が障害されることによって生じる症状を指し、代表的なものが記憶障害です。特に、直前に起こった出来事を忘れてしまう症状が顕著です。一方で、発症初期には古い過去の記憶は比較的保たれることが多いですが、症状の進行に伴い、これらの記憶も徐々に失われていく場合が少なくありません。

また、筋道を立てて考えることが難しくなる判断力の低下や、時間や場所・名前などが分からなくなる見当識障害も、中核症状の一つとしてみられます。
認知症の周辺症状(行動・心理症状:BPSD)と栄養管理⁶⁾
周辺症状(行動・心理症状:BPSD)は、脳の障害を背景として現れる精神症状や行動の変化を指します。具体的には、妄想、抑うつや不安などの精神症状に加え、徘徊、興奮、攻撃、暴力などの行動異常がみられます。

周辺症状(行動・心理症状:BPSD)は、脳の障害を背景に、本人の性格、生活環境、人間関係などが複雑に影響し合って起きるものです。そのため、症状の現れ方には個人差が大きく、接する相手や時間帯、状況によっても大きく変化します。

認知症の治療

認知症の治療は、原因となっている疾患に応じた治療を行うことが基本です。脳血管性認知症の治療では、高血圧や脂質異常症の適切なコントロールを中心とする薬物療法に加え、リハビリテーションなどの対応が必要です。現在のところ、認知症を根治する薬はなく、病気の進行を遅らせる薬しかありません⁸⁾。アルツハイマー型認知症に対しては、レカネマブやドナネマブといった抗アミロイド抗体薬が用いられており、アミロイドβを神経細胞外に排出させる作用を有しています⁷⁾。非薬物療法として、音楽療法、絵画療法、作業療法、回想法、現実見当識訓練が活用されています⁸⁾。

認知症の栄養管理・栄養ケアマネジメントの基本

認知症による食行動の障害と栄養ケア⁹⁾

認知症が進行すると、中核症状の影響で食事を摂るという一連の行為が困難になります。
  • 認識の障害(失認): 目の前にあるものが食べ物であると認識できなくなります¹⁰⁾。
  • 道具の使用困難(失行): 箸やスプーンの使い方がわからなくなります¹⁰⁾。
  • 実行機能の障害: 食事の順序がわからなくなり、並行した作業(汁物を飲みながらおかずを食べる等)ができなくなります。
  • 異食:食物以外の異物を食べ物であると認識し、口に入れて食べようとする行為をいいます。
  • 盗食:自身に配膳された食事以外に、他者の食事をとって食べてしまうような行為をいいます。

認知症の栄養管理のポイントと介入方法

認知症の各ステージや現れている症状に応じた栄養介入が求められます。
認知症の栄養管理における低栄養への対応⁸⁾
認知症患者は、徘徊などの多動による消費エネルギーの増大、または空腹感の喪失や食事の拒否により、低栄養に陥りやすい傾向があります。低栄養に対して、栄養状態の評価を行い、嚥下機能評価と食事形態の検討、食事不振の原因となる服薬の確認、栄養補助食品や経管栄養の検討などの対応を行います。

対策として、高エネルギー・高タンパクな補食(栄養補助食品)の活用、少量頻回食の検討が必要です。また、本人が好む味付けや、なじみのある献立を取り入れることで摂取量の向上を図ります¹¹⁾。
認知症の栄養管理における過栄養への対応¹²⁾
認知症患者は、過栄養になるリスクも併せ持ちます。過食傾向を示す原因は、満腹感の認識が困難になるためです。活動量低下により消費エネルギーが減少する一方、食事摂取量は維持され、エネルギー過剰となることがあります。

向精神薬の一部は、食欲増進や体重増加の副作用があります。また、生活リズムの乱れにより、夜食の間食が増加することもあります。

認知症における栄養ケアマネジメントのプロセス(PDCA)

認知症の栄養ケアマネジメント:栄養アセスメント

  • 体重歴と栄養状態の確認: 直近1〜6カ月間の体重変動、半年間で5%以上の意図しない体重減少の有無を確認します。BMIに加え、簡易栄養状態評価表(mini nutritional assessment:MNA®)でスクリーニングを行い、GLIM基準に基づき低栄養の診断を行います。可能であれば、下腿周囲長や上腕周囲長、上腕三頭筋皮下脂肪厚の測定も行い、より多角的な情報収集をめざします¹²⁾。
    血液検査データでは、総コレステロール値、ヘモグロビン値などを経時的に評価します。脱水や感染症の影響を考慮した解釈を行う必要があります¹²⁾。
  • 認知機能とBPSDの把握: HDS-RやMMSEのスコアを確認するとともに、拒食、異食、徘徊による多動、過食、失認(食べ物と認識できない)などのBPSDの有無を評価します¹³⁾。
  • 摂食嚥下機能の評価: 口腔内の状態(義歯の不適合、乾燥)、嚥下機能(むせ、湿性嗄声)、食形態が適切かを確認し、誤嚥性肺炎のリスクを評価します¹¹⁾。
  • 生活状況と活動量: 徘徊の有無、日中の活動量、睡眠状況を確認し、必要エネルギー量の増減を検討します。
  • 食習慣と食行動: 嗜好品、食事のスピード、自食の可否、食器具の使用状況、食事時間の集中力などを確認します¹⁴⁾。
  • 社会的背景の確認: 居住環境(独居、施設、同居)、主たる介助者の状況、経済状況、調理の可否を確認します。
  • 本人の意向とQOL: 終末期等の場合、本人や家族の「最期まで口から食べたい」という意向や、食事に対するこだわり(ボディイメージではなく、思い出の味など)の確認が重要です¹⁵⁾。

認知症の栄養ケアマネジメント:栄養ケアプラン

  • エネルギー: 現状の体重維持を基本とします。標準的な活動量では 25〜30kcal/kg(目標体重)を目安としますが、徘徊や不穏が激しい場合はエネルギー消費量が増大するため、個別に上方修正が必要です。反対に寝たきり状態では20〜25kcal/kg以下を検討します¹⁴⁾。
  • たんぱく質: フレイル・サルコペニア予防のため、標準体重1kgあたり 1.0〜1.2g/日 を確保します。腎機能に問題がない限り、良質なたんぱく質の摂取を優先します¹⁶⁾。
  • 微量栄養素(ビタミン・ミネラル): 摂取量低下によるビタミンB12¹⁷⁾、葉酸¹⁸⁾、ビタミンD¹⁹⁾の不足に注意します。これらは認知機能の維持や骨折予防に寄与します。
  • 水分管理: 喉の渇きを感じにくい、または訴えられないため、1日1,000〜1,500ml を目安に、食事や間食、水分補給の時間を設定し、脱水を予防します¹⁴⁾。

認知症の栄養ケアマネジメント:栄養ケアの実施

  • 規則正しい食リズム: 毎日決まった時間に食事を提供し、生活リズムを整えます²⁰⁾。
  • 食事に集中できる環境作り: テレビなどの音刺激を避け、テーブルの上を整理して、目の前の食事に集中できるようにします²⁰⁾。
  • 食形態の最適化: 嚥下機能の低下に合わせ、とろみ付けやソフト食を導入しますが、見た目(色彩)や香りを維持し、食欲を減退させない工夫をします。

認知症の方へ質の高い栄養ケアを提供するためのポイント

対象者に合わせた食品と食形態の選択

  • 高エネルギー・高タンパク食品の活用: 摂取量が少ない場合は、少量で栄養価の高い補助食品を積極的に活用します⁸⁾。
  • 手づかみ食べ(フィンガーフード)の導入: 箸やスプーンの使用が困難な場合、おにぎりやサンドイッチなど、自力で食べられる形状を選択します²¹⁾。
  • 食物繊維の確保: 便秘はBPSDを悪化させる要因となるため、野菜や海藻、果物などから食物繊維を十分に摂取します²²⁾。

献立と食事提供の工夫

  • 視覚的配慮: 食器と料理の色にコントラストをつけ、料理を認識しやすくします(例:白い粥には色のついた茶碗など)²⁰ ⁾。
  • 一品出しの検討: 多くの皿が並ぶと混乱する場合は、一品ずつ提供して、食べることに迷わないようにします²⁰ ⁾。
  • 口腔ケアの徹底: 食前・食後の口腔ケアにより、味覚を正常に保ち、誤嚥性肺炎を予防します²³ ⁾。

家族・多職種と連携する栄養指導のポイント

  • 介助者(家族・スタッフ)への支援: 指導の対象を本人だけでなく介助者にも行い、無理強いしない食事介助の方法や、食べない時の代替案(補食の活用)を共有します。
  • 「食べない原因」のアセスメント: 拒食がある場合、単なる「わがまま」ではなく、口腔内の痛み、便秘、環境の不快感など、背景にある原因を共に考えます。
  • 自立の尊重: 全介助にするのではなく、少しでも自力で食べられるよう、自助具の紹介や環境調整のアドバイスを行います。
  • 多職種との情報共有: ケアマネジャーや医師、歯科医師、訪問看護師等と連携し、生活全体の中での栄養改善を目指します。
  • 情緒的サポート: 家族が「食べさせられない」ことに罪悪感を抱かないよう、現在の状況を肯定し、心理的なケアを含めた支援を行います。

執筆者:大出理香

執筆者:大出理香

人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科 講師
保有資格:管理栄養士 / 健康運動指導士 / 健康栄養科学修士 / 経営修士

総合病院や老人保健施設の立ち上げに参画し、高齢者の栄養管理など臨床現場での豊富な実務経験を持つ。福祉施設、保健センター、医療ベンチャー企業での重症化予防事業などを経て、2016年より現職。臨床現場から学術研究まで幅広い知見を有し、「笑顔を引き出す健康支援」をモットーに食事・運動・睡眠を含めたテーラーメイドな生活支援を実践している。

■ 専門分野
栄養教育、健康教育、健康経営

■ 主な指導実績
・総合病院、糖尿病専門クリニック、腎臓内科クリニック等での栄養指導(1,000人以上)
・特定保健指導の減量・睡眠支援(300人以上)
・運動指導(200人以上)

■ 所属学会
日本心身健康科学会、日本栄養改善学会、日本公衆衛生学会、日本給食経営管理学会、日本栄養士会、日本臨床栄養協会、日本健康教育学会

編集者:渡部早紗

編集者:渡部早紗

フリーランス管理栄養士 / セールスコピーライター
保有資格:管理栄養士 / 栄養士 / 栄養教諭一種免許

国公立大学卒業後、総合病院にて3年間、栄養管理から個別指導、突発的なアレルギー対応など多岐にわたる臨床業務に従事。その後、学校給食委託会社での指導員を経て、現在はフリーランスのライター・編集者として活動中。臨床現場と給食管理の双方を知る強みを活かし、専門的な内容を「かみ砕いて、行動に移せる」記事へと昇華させる編集を得意とする。自身の転職経験をもとに、読者の悩みに寄り添った温かい情報発信を行っている。

■ 経歴・得意ジャンル
・総合病院での栄養管理、個別栄養指導、献立作成
・学校給食委託会社での給食センター巡回指導、マニュアル作成
・薬機法(旧 薬事法)・景品表示法を意識した健康食品・サプリメントのLP制作
・ダイエットや食材のカロリー・栄養素に関する正しい知見に基づく記事執筆・編集

■ 編集ポリシー
“健康的な食生活”の理想と現実を埋めるために、栄養学のトレンドを常にインプットし、正しい情報を分かりやすくお届けします。転職やキャリアに悩む方のお役に立てるよう、等身大の経験と温かい言葉での発信を大切にしています。

参考文献・サイト

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