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2023.09.19

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<糖尿病性腎症>

カバー画像:疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<糖尿病性腎症>

腎臓病を簡便に、できるだけ早期に発見し対処することの必要性が認識され、2007 年に初めて「CKD 診療ガイド」が刊行され、慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease )の概念が確立されました。

CKDは早期に対処すれば、重症化を抑制でき治癒を望むことも可能な疾患です。前述の腎臓病:CKD栄養ケア・マネジメントでは、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣や、加齢と深く関わって発症する慢性腎臓病(CKD)と、ハイリスク群への重症化予防について記載しました。

今回は、腎透析療法の導入の原因として1位を占めるハイリスク疾患である糖尿病性腎症について解説していきます。

1.ハイリスクCKD対象となる患者

GFR(糸球体ろ過量)が90mL/分/1.73㎡以上であっても、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙習慣などのCKDになりやすい危険因子を持ち、かつ高齢者はハイリスク群と言えるでしょう。

このようなハイリスク対象は、初期から重症度の患者として注視していく必要があります。CKDガイドラインでは原疾患を問わない概念ですが、重要な原因疾患となる糖尿病と高血圧(腎硬化症)については、加齢とともに重症化しやすくなります。

特に糖尿病に関連する腎疾患は、従来の糖尿病性腎症という新たな概念にシフトしており、CKDガイドラインでも日本腎臓学会として初めて糖尿病性腎症を取り上げています。
CKD分類から腎機能が著しく低下し、高窒素や体液貯留、電解質異常などを認めて尿毒症を呈する病態を慢性腎不全とよび、CKD重症度分類でステージG4,G5に分類されます。

このG4段階では透析療法も視野にいれた治療方針がとられ、G5では人工透析の治療となります。 

2.糖尿病性腎症とは

糖尿病性腎症は、糖尿病が発症してすぐに生じるわけではなく、高血糖の状態が長く続いた場合に腎臓が傷んでしまうことで発症します。糖尿病の三大合併症(神経障害、網膜症に続く)であり、腎臓の機能が低下することを「腎機能低下」、「腎症」などと呼びますが、特に糖尿病が原因で腎臓の機能が低下した場合を「糖尿病性腎症」とします。

糖尿病性腎症は、発症の早期は無症状であることが多い疾患です。そして、腎機能が低下すると、身体の調節機能が弱まることで、さまざまな症状や合併症がおこります。 腎臓の機能低下がさらに進み、末期腎不全になると、透析療法を行い腎臓の機能を代行させます。
表1のとおり、日本糖尿病学会・日本腎臓学会による糖尿病性腎症合同委員会は「糖尿病性腎症病期分類」の改訂を受け、それぞれの学会サイトで発表されました。

2014年の学会リースでは、慢病期分類に用いる糸球体ろ過量(GFR)の推定糸球体ろ過量(eGFR)への変更や、3期を前期と後期で区分しないなどの変更を行われました。
このように糖尿病罹病期間が長期であるほか、血糖コントロール不安定、ハイリスク群の患者には定期的に尿検査や血液検査が実施されます。

尿検査や血液検査によって、腎臓の機能低下の度合いなどが分かります。

1)尿検査でわかる項目

腎臓は血液をろ過することで、からだに必要なものを再吸収し、不要なものは排泄します。私たちに必要な栄養素であるアルブミンやタンパク質は、正常な腎臓から尿に排泄されることはほぼありません。

しかし腎症によって、アルブミンやタンパク質などの成分が取り込めず尿に出てしまうのです。尿に出てくるアルブミン、タンパク質が多いほど、腎臓の機能が低下していることになります。

2)血液検査でわかる項目

腎機能の低下によって、ろ過できる血液の流量が減ります。ろ過できる血液の流量を糸球体ろ過量(GFR: Glomerular Filtration Rate)と呼びます。血液検査において、GFRの値はクレアチニンの項目でわかります。この血液検査で確認するのがeGFR血液検査項目です。

尿検査や血液検査の結果から糖尿病性腎症の病期が決定されて、治療方針の参考となります。  (表1.糖尿病性腎症の病期分類を参照)

糖尿病性腎症の病期ごとに使用する薬や、使用を控える薬が異なります。さらに、病期によって食事や運動療法などの内容を変更する場合もあるでしょう。

3.糖尿病性腎症の予防ポイント

糖尿病の長期罹患や血糖コントロール不良などと伴に加齢に伴う腎機能低下や、生活習慣が深くかかわっており治療ですが、多くはかかりつけ医となります。

しかし蛋白尿と血尿を両方認めるCKD や、高度の尿検査異常、急速な腎機能低下などがある場合には、早急に腎臓専門医・専門医療機関に紹介する必要があるでしょう。

そして血糖コントロールとCKD治療に切り替えた生活習慣改善、糖尿病性腎症ステージに応じた食事療法、血圧・血糖・ 脂質などの集学的治療が必要です。

このように、糖尿病に起因する腎障害は、微量アルブミン尿、顕性蛋白尿を経て、腎機能が低下して透析導入に至る糖尿病性腎症に加えて、多彩な腎疾患があることが分かってきました。

そこで「糖尿病性腎症の進展予防」として日本腎臓学会と日本糖尿病学会は、かかりつけ医から腎臓専門医に紹介する際の基準を公表しています。

参考までに、表2「腎臓専門医に紹介する際の基準」を記載します。
この糖尿病性腎症の予防には、管理栄養士の役割として「糖尿病透析予防指導管理料」(350点/回)があります。

算定条件は外来での糖尿病患者であって、医師が透析予防に関する指導の必要性があると認めた患者に対して、医師、看護師又は保健師及び管理栄養士等が共同して必要な指導を行った場合に、月1回に限り算定できます。

対象は外来受診の糖尿病性腎症第2期以上の患者に対して、医師・看護師・管理栄養士による「糖尿病透析予防診療チーム」が、塩分制限やたんぱく質制限などの食事指導、運動指導、その他生活習慣に関する指導等を個別に実施します。

これにより糖尿病性腎症の進展予防が期待できます。

4.栄養食事療法の基本方針

糖尿病性腎症の栄養管理は、慢性腎臓病の一環として捉えて、腎症病期分類に即した食事基準を基本とします。さらに特質すべき方針として
①血糖値をコントロールする
②腎機能低下の進行を抑制する
③水・電解質の摂取調整で生体内部の恒常性を維持する
④栄養状態を維持・改善する
の、4点にがあります。そのための栄養処方として、表3「糖尿病性腎症の食事療法基準:成人」により実施します。

引用元: 一般社団法人 日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023. 文光堂,2022より引用

食事療法の実際として

①総エネルギー量は血糖値、体重など適切に管理しましょう。合併する疾患(糖尿病、肥満など)のガイドラインなどを参照して、病態に応じて調整が必要な場合もあり、性別、年齢、身体活動度などにより異なります。栄養療法での体重は、基本的に標準体重(BMI=22)に対するエネルギー量となります。
[標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22]

② たんぱく摂取量は、指示量まで抑えましょう。そして厳しい制限の場合は必須アミノ酸の欠乏に留意します。
③食塩摂取量は、第1~2期では摂取基準量(男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満)で過剰に注意します。高血圧があれば6.0g/日未満にしましょう。第3.4期以降は6.0g/日未満となります。
④第3.4期はカリウム、リン摂取の管理が必要となります。
[メモ]
日本高血圧学会治療ガイドライン2014では、糖尿病あり、蛋白尿ありの場合は、130/80mmHg以上で臨床的に高血圧と判断する。
そして糖尿病性腎症も厳しい食事療法(病期3、4、5期)では、CKDの場合と同じく腎臓病の「低たんぱくご飯」や「還元麦芽糖:粉あめ」なとの特殊食品を活用した食事内容を指導します。

特に糖尿病歴の長い場合、食事内容の変化に戸惑いが多く、臨床検査データから導いた支援・指導により、エネルギー摂取不足などに留意する必要があります。

以上のように、ここでは糖尿病性腎症の特徴と栄養ケア・マネジメントを解説しました。特に糖尿病性腎臓病は、透析療法患者の1位を占める病態であり「糖尿病透析予防指導管理料」で管理栄養士の役割が期待されています。
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科 学科長
役職:教授
白石 弘美 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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