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2024.06.24

疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<肥満>

カバー画像:疾患別栄養ケア・マネジメントの特徴とポイント<肥満>

今回の記事では、肥満症の定義、診断、治療法を包括的に解説します。個別化した食事療法、運動療法、行動療法のポイントや、薬物・外科療法の適用条件を詳述しつつ、高齢者や妊婦への特別な配慮も紹介します。

1.肥満の定義、および肥満症の定義と診断

肥満とは脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI=体重[kg]/身長[m]²)≧25を指します。BMI(body mass index)に基づき表2のように判定されます。

肥満症は、「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患」と定義されます。肥満と判定されたもの(BMI≧25)のうち、肥満に起因ないし関連する健康障害を表1の1に示します。

2.メタボリックシンドローム

表3の通り、メタボリックシンドロームの診断基準は、ウエスト周囲長の増大で評価される内臓脂肪(腹腔内脂肪)蓄積を必須項目として、脂質異常、血圧高値、高血糖の3項目のうち2項目以上を満たす場合とされています。
腹囲という分かりやすい基準があるため、生活習慣の改善による成果を自分で評価できます。対象者は腹囲を自分でチェックすることにより、運動・食事等の生活習慣の改善による効果を体感できます。以上のことにより、さらに生活習慣の改善に向かうことが期待できます。

3.高度肥満症

高度肥満は肥満と判定され、二次性肥満を除外された人の中から、BMI≧35の肥満者を指します。

BMI≧35の高度肥満と判定された人のうち、肥満関連健康障害または内臓脂肪蓄積を認める場合を高度肥満症と定義します。

図1に肥満症診断のフローチャートを示します。肥満症の診断において、二次性肥満は原疾患への対応をが必要となるケースが多いため、まず原発性肥満と二次性肥満を判別することが必要です。

4.サルコペニア肥満

サルコペニアは高齢期にみられる骨格筋量の低下および、筋力またはは身体機能(歩行速度など)の低下によって定義されます。

サルコペニア肥満はサルコペニアと肥満または体脂肪の増加を併せ持つ状態を指し、それぞれ四肢骨格筋量の低下(身長の2乗または体重で補正)と BMI ・体脂肪率・ウエスト周囲長のいずれかの増加で操作的に定義されます。

5.肥満症治療

肥満症の治療には、食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法、外科療法があります。

食事療法と運動療法に行動療法を取り入れた生活指導が基本となります。肥満症治療指針を図2に示します。肥満症の場合は 現体重の3%、高度肥満症の場合は5~10%が減量の目標とされています。

肥満症の治療では、減量は治療の目的ではなく手段であり、治療経過にわたり体重等の変化だけでなく、健康障害の改善状況の評価が重要となります。

医学的な減量を行う際には、高齢者におけるフレイルや、やせ妊婦における低体重児の出産など、過度な減量ややせが健康障害につながる恐れがあることにも留意が必要です。

治療において、メンタルヘルス評価や心理的サポートも考慮する必要があります。
肥満症の治療の目的は、満症によって寿命や健康寿命に加え、生活の質(QOL)が損なわれるのを防ぐことです(図3)。

肥満や肥満症をもつ個人のQOLの維持・向上は、個人に対する医学的介入のみでは十分に達成できません。そのため、スティグマの解消など社会的観点からのアプローチも重要です。

1)食事療法

体重を減らして、内臓脂肪量を減少させる肥満症治療の基本療法が食事療法です。食事療法の目的は肥満に伴うさまざまな健康障害を改善することにあります。

脂肪組織1kg中の脂肪細胞の燃焼カロリーは約7,000kcalです。1kg減量するためには約7,000kcalのエネルギーを減らすか消費する必要があります。何kgの脂肪をどのくらいの期間で減量するかを計画し、毎日の食事のエネルギーを減らしていく必要があります。
1-1.栄養アセスメント

① 20歳時の体重、最低体重、最高体重、最近の体重変動など、体重歴を確認します。
②身長、体重、体脂肪率、骨格筋量、体水分量、ウエスト周囲長を測定し、肥満度を評価します。肥満の程度より、呼気ガス分析や基礎代謝量などを測定し、エネルギーバランス、窒素バランス、減量効果を評価します。
③表1の1参照。血液・生化学検査を実施し、合併症の有無を評価します。
④運動習慣の有無や程度、睡眠時間、余暇の過ごし方などの生活を確認します。
⑤食生活状況、間食や飲酒量、食行動などの食習慣を確認します。
⑥職業、家族構成、居住地、経済状況などを確認します。
⑦本人のボディイメージ、心因性摂食行動異常の有無、自己決定能力、自己効力感などの心理的状況の確認が重要です。
1-2.栄養ケアプラン

①エネルギー
3~6ヶ月間に体重を3%以上減少させるには、1日200kcal以上、消費エネルギーよりも摂取エネルギーが少ない指示量を設定する必要があります。一方、各種栄養素が不足しないよう注意が必要です。

1日の目標摂取エネルギーは25kcal×目標体重(kg)以下(高度肥満症の場合には20~25kcal×目標体重[kg]以下)です。

十分な減量が得られない場合は600kcal/日以下の超低エネルギー食(very low calorie diet:VLCD)の選択を検討しましょう。個々の患者様に応じた目標体重を定めることが理想的です(表4)。
エネルギー産生栄養素比率は、炭水化物50~65%、たんぱく質13~20%、脂肪20~30%です。

フォーミュラ食を1日1回だけ交換することでも有効な減量が期待できます。低エネルギー療法LCD(low calorie diet)を簡便に行うために有効です。急速な減量が必要な場合に適応となり、VLCD療法でも活用され、継続期間は1~3週間が一般的です。

※フォーミュラ食(約180kcal/袋)は、糖質と脂質が少なく、1袋あたり20gのたんぱく質、必要なビタミン、ミネラル、微量元素も含む調整された食品です。
超低エネルギー食療法実施上の注意点

VLCD療法は禁忌症例(表5)を除外し副作用に注意が必要です。開始の際は入院管理下が基本となります。

副作用としては、空腹感、嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状や、うつ、ケトン体や尿酸の増加、低血糖、不整脈などがあります。

脂肪燃焼から増加したケトン体排泄によって尿酸排泄が低下し、血中尿酸濃度が上昇するため、排泄を促すために2L/日の水分摂取が推奨されています。
②たんぱく質
標準体重1kgあたり1.0~1.2g/日が必要です。たんぱく質不足は筋肉減少を招き、体たんぱく分解を助長し、貧血、無月経、骨粗鬆症などを惹き起こします。

③脂質
過剰摂取に注意が必要ですが、脂溶性ビタミン(A・D・E)の吸収を考慮して、動物性、植物性、魚介類からの摂取割合を適正に維持します。脂肪酸組成にも注意を払う必要があります。

④ビタミン・ミネラル
エネルギー制限によるビタミン・ミネラルの摂取不足が懸念されています。カルシウム、鉄、銅、マンガン、マグネシウムなどが重要であり、緑黄色野菜からの摂取が推奨されています。
1-3.栄養ケアの実施

① 3食規則正しく、夕食は少なめにしましょう。
② ゆっくりよく噛んで食べるようにしましょう。
③継続できる内容を考えましょう(リバウンドしないよう極端な制限はしないように)

 (1)食品について
 1-1. 野菜・海藻・きのこ・こんにゃくなどを積極的に摂取しましょう。
 1-2.食物繊維を含む精製度の低い穀類を活用しましょう(十分な食物繊維の摂取は減量に有用)。
 1-3.低脂質の肉類・乳および乳製品、魚、大豆製品を積極的に摂取しましょう。
 1-4.単純糖質、脂質の多い食品は控えましょう。
 1-5.間食・アルコール飲料は控えましょう。
 1-6.人工甘味料は積極的に摂取しないようにしましょう。
 1-7.食塩含有量の多い食品は控えましょう。

 (2)献立について
 2-1.3食の配分を均等にし、夕食のエネルギーなどが偏らないように注意しましょう。
 2-2.食材や料理を計量する習慣を身につけましょう。
 2-3.食材の種類を増やし、品数を増やすことにより満足感が得られるようにしましょう。
1-4.栄養指導のポイント

①肥満症治療の基本は食事療法と運動療法であり、継続することの重要性を説明します。
②食生活状況等を評価し、行動変容ステージ、減量阻害行動などの問題点を明確にし、具体的なアドバイスを行います。
③摂取エネルギーを決定し、減量の目標を具体的に示します。
④患者自身の気づきを促すための食行動記録を実践できるようサポートします。
⑤朝食欠食やどか食い、まとめ食い、夜遅い食事や睡眠不足など生活習慣の乱れが肥満につながることを説明します。
⑥個人教育と集団教育を併用し、個人の特性に応じて、継続できる栄養教育の場の提供を行います。
⑦患者自身がストレスマネジメントを行えるよう精神的ケアにより支援します。
⑧ソーシャルサポート(家族や友人からの励ましや賞賛)を促します。
⑨食事療法継続のために、次回受診時までの目標を設定し、受診時に評価を行います。
1-5.栄養食事療法の効果・判定

①栄養食事療法の効果は、3~6ヶ月後に確認します。
②体重減少率が3~5%以上あった場合には、血圧、HDL-C、トリグリセライド、空腹時血糖値などの改善がみられます。
※体重減少がみられないときでも、行動変容など何らかの変化を認めることが大切です。

2)運動療法

運動に伴うアクシデントとして重要な心血管イベントの発生を回避するために、メディカルチェッが必要です。

運動器疾患に関しては、自覚症状、整形外科受診の有無を確認し、必要に応じて整形外科医と相談しながら進めていきましょう。

運動療法のガイドラインでは、散歩、ジョギング、ラジオ体操、自転車、水泳などの全身の筋肉を用いる有酸素運動を中心に(レジスタンス運動の併用も望ましい
・軽~中強度の運動を
・1日30分以上(短時間の積み重ねでもよい)
・毎日あるいは週150分以上
が示されています。

運動強度は、運動しながら会話ができる程度(最大酸素摂取量(VO2max)の50%前後)が目安です。表6に運動療法プログラムの原則を示します。

3)行動療法

肥満症治療では、過食や運動不足の改善に加えて、生活リズムの修正も重要です。

行動療法は、生活リズムの修正と内臓脂肪燃焼をターゲットとして減量を目指し、治療法を強化し、継続させることを目的としています。図4に行動療法の概要を示します。

引用元: イフサイエンス出版 発行/一般社団法人 日本肥満学会 編集 肥満症診療ガイドライン2016 より参照引用、運営部にて作成

日本肥満学会では、治療条件に合わせた7つの留意点(セルフモニタリング、ストレス管理、先行刺激のコントロール、問題点の抽出と解決、修復行動の報酬による強化、認知の再構築、社会的サポート)を示しています。具体的な治療技法を1つ示します。

―食行動質問表
食行動質問表の意義は、食行動の判別ではなく、食習慣における感覚の「ずれ」や食行動の悪い「くせ」について質の程度と強さを認識させることにあります。

モバイルツールを活用したセルフモニタリングは6ヶ月の短期的減量に有用性が報告されています。

4)薬物療法

食事、運動療法を3~6ヶ月間実施したにもかかわらず、3%以上の体重減少が得られない場合や、急速な減量が必要な場合に薬物療法の併用を検討します。

適応基準は、
①BMI≧25kg/m2で、内臓脂肪面積≧100cm2かつ図1の1で示す健康障害を2つ以上合併する肥満症
②BMI≧35kg/m2で図1-2に示す1の健康障害を1つ以上合併する肥満症

となります。

尿病のある患者にのみ使用できるのは、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド、リラグルチド、その他のGLP-1RA、チルゼパチド)や体重減少効果を示すほかの糖尿病治療薬(SGLT2他)となります。

糖尿病がなくても使用できるマジンドールは、BMI≧35kg/m2または肥満度70%以上の高度肥満症に対して、連続の投薬期間は3ヶ月以内に限定して処方されます。
2023年2月に肥満症予防薬として承認されたオリルスタッドは、腸管でトリグリセライドを分解するリパーゼを阻害する薬です。カプセル状で1日3回、食事中または食後に服用します。要指導医薬品に分類され、購入には薬剤師との相談が必要となります。

2023年3月に肥満症の治療薬として承認されたセマグルチドは、週に1回、注射で投与する薬です。中枢神経に作用する食欲抑制効果と、胃酸分解を阻害する物質により減量効果が期待できます。

一方、美容医療における痩身薬の注意喚起も挙がっています。厚生労働省および消費者庁が共同で、2型糖尿病治療薬のGLP-1 受容体作動薬及び GIP/GLP-1 受容体作動薬の適正使用について消費者向けに注意喚起を行っています。

4)外科療法

手術適応となる肥満症患者は、原則として年齢が18~65歳の原発性肥満で、6ヶ月以上の内科治療で有意な体重減少と肥満関連の健康障害の改善が得られない高度肥満症で、表9のいずれかの条件を満たすものと定められています。
外科療法では、周術期管理や術後長期にわたる診療体制が重要で、医師、看護師、管理栄養士、公認心理士、理学療法士、その他医療スタッフによるチーム医療が欠かせません。

表10に腹腔鏡下肥満外科治療の術式と特徴を示します。
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▼執筆者
所属:人間総合科学大学 人間科学部 健康栄養学科
役職:助教
大出 理香 先生

▼編集者
渡部 早紗(管理栄養士)
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▼人間総合科学大学
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