少子高齢化の影響により、65歳以上の高齢者がいる世帯は全体の約4割を占めるようになりました。そのうち、単身または高齢夫婦のみの世帯は過半数を超え、その比率は年々増しています。これは、老老介護の世帯が今後も増加するということを意味しています。高齢者の低栄養は、ますます重大な栄養課題になると予想できます。

そこで大きな可能性を秘めているのが、うま味調味料の活用です。高齢者の「おいしく喫食量向上」をサポートする選択肢の一つとして考えている会員もみられました。


「うま味調味料を使用することによっておいしくなり、その結果、食事摂取量が上がるのなら有用である」 (50代女性 管理栄養士)
「上司が一般的なレシピから献立作成に引用する際には、だいたいうま味調味料を足しており喫食量が増えていた」 (20代女性 管理栄養士)

前回の記事でも登場してただいた中村育子先生は、緩やかに栄養課題を解決しようと考えています。

「ご存じのように、厚労省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日あたりの食塩摂取目標量が男性は7.5g未満、女性は6.5g未満と定められています。これは理想はこう、という数字であって、実は学者さんの考える塩分量は相当ハードルが高いんです。もちろんこの数字に近づけるための工夫は必要ですが、過度の急激な減塩は続かないのです。
塩分は控えめにして、うま味で補うようにして、(減塩を必要としている人の)嗜好性も変えていくように考えます。みそ汁のみそや、料理に使う塩を半分程度にして、うま味調味料を少し加える手法はかなり有効だと思います」
無理なく「おいしく減塩」。これが問題解決のポイントですね。

減塩が必要な人に、自ら進んで塩分を減らそうと 思ってもらうための「魔法の言葉」とは

「減塩」は、栄養課題の最も大きなテーマの一つです。ただ、解決するためには、多大な労力がいる、時間がかかるなど、どうしてもネガティブに捉えがちです。でも減塩が「楽しく」できたら最高ですよね。思わずそんな気になってしまう「魔法の言葉」があると、中村先生がこっそり教えてくれました。

「減塩しなければいけないのは高齢者が多いんです。その人たちは、特に病院に通っていたりすると、〇〇してくださいね、△△しないとダメですよ…と言われることばかりなんです。そこで、小さな目標―試しにみそ汁のみそを2/3にしてみましょうか―を一緒に考えて設定して、うまくできたら褒める。“すごい!” “頑張りましたねー!” “じゃ、次はみその量を1/2にしてもできちゃうかも!” とか、とにかく褒めるんです。
高齢者は意外に褒められることが少なくて、ある程度お世辞だとわかっていても、そこは素直に嬉しく感じるようなんです。“すごい!” “頑張った!” と何度も言っているうちに本人もその気になって、自発的に減塩に取り組むようになった方を何人も知っています」
そんな単純なことで!と目からウロコが落ちるようなエピソードですね。
「そのためには、本人が減塩の必要性と目的を理解していることが重要です。目的をハッキリと伝え、丁寧に、かつ表現を変えるなどして、何度も説明します」 そうですね。そういった前振りのような地道で根気のいる作業も忘れてはいけませんよね。

うま味でおいしく栄養課題解決時代へ②
〜子どもの野菜嫌い克服と良好な栄養バランスのために〜

さて、減塩以外にも栄養課題はいろいろです。例えば、子どもの野菜嫌いは昔からある悩みの種ですよね。トマト、にんじん、ピーマン、なす、グリーンピース…。給食でピーマンを残して怒られた、という経験がある人も多いのではないでしょうか。

成長期の極端な偏食が体に良くないことは周知の事実で、バランスの良い食事は免疫力を高めるとされていますが、この免疫力をつけるためには野菜の摂取が欠かせません。ビタミンやミネラルは体の中に貯められないものも多いので、毎日必要な量を食事から摂ることが大事です。

子どものニガテを克服するには、うま味のチカラを借りるのもおすすめ。ピーマンの苦味をやわらげるために、うま味調味料をサッとひと振り。同様に少しプラスするだけで、なすの青臭さがコクになる、など「うま味調味料」は料理の下ごしらえから仕上げまでさまざまなシーンで活躍します。野菜の苦味や魚の生臭みをおさえたり、 味に深みを出しておいしさも増すなど、うれしい効果がいろいろあることをご存じでしょうか。

会員の皆さんが実際にご家庭でうま味調味料を使われているケースは、他にもいろいろありました。

「家庭で簡単にうま味が引き出せるのは便利です」 (30代女性 管理栄養士)
「おにぎりの味付けに使います」 (30代女性 管理栄養士)
「ちらし寿司を作るとき酢飯に加えると、酢がとんがったのがまろやかになる気がします。肉に下味をつける時に使うと、味が良くしみる気がします」 (50代女性 管理栄養士)

また、低栄養の時にもうま味を活用した1品が役立ちます。実は、良い栄養バランスを実現するためには、うま味を効かせた汁物を取り入れることが近道にもなります。1日一回、冷蔵庫に残っている食材を使って具沢山の汁物を作ってみると、野菜や肉などを簡単に取り入れることができ、栄養バランスが良くなるばかりか、冷蔵庫も片付いて一石二鳥!なんていうことも。具沢山の汁物は1人前の汁の量を減らすことができるので、減塩にもなるのです。

「朝食のコンソメスープは玉ねぎや野菜を多めにし、うま味調味料を控えめに使用する事で、自然な風味になると感じています」 (40代男性 管理栄養士)

うま味はさまざまな栄養課題に貢献できると実感されている方も多いようです。


ここで、臨床現場でうま味が活用されている事例をご紹介します。 徳島大学大学院の堤理恵先生の報告によれば、徳島大学病院ではうま味調味料を活用してうま味成分を強化した食事を患者さんに提供したところ、患者さんの喫食量アップに繋がったそうです。食べて栄養を摂取するために、うま味成分が活用されているのです。(※)

うま味でおいしく栄養課題解決時代へ③
~うま味・うま味調味料を上手にご活用ください~

「塩分の過剰摂取」「野菜の摂取不足」「タンパク質の摂取不足」など…。栄養士・管理栄養士の皆さんや世の中の人々が関心を持たれている、これらの栄養トピックや栄養課題にとって重要なことは、過剰栄養と低栄養の両方を解決するための「栄養バランス」です。栄養バランスの良い食を促進することによって、「こころとからだの健康」の実現につながります。そのための一助として、うま味調味料があります。減塩にはうま味を効かせておいしさをプラスする。野菜嫌いのお子さんには、ニガテ克服にうま味が一役買います。ぜひ上手に活用して、皆さんの栄養課題解決にお役立てください。

4回のシリーズ、いかがでしたか?うま味調味料については、味の素㈱のうま味やアミノ酸の知見を活かした情報発信を行うサイト「あじこらぼ」や、「日本うま味調味料協会」のホームページでも詳しく説明していますので、有用性や安全性、レシピなど、もっとお知りになりたい方はぜひご覧になってみてください。

…最後と見せかけて、実はまだオマケがあります。この連載用に、新たに開発した「おいしく減塩」を体験できる特別レシピをご紹介させてください。


(※)出典:あじこらぼ掲載「セミナーレポート」(2019.06.11)第22回日本病態栄養学会年次学術集会における味の素㈱ランチョンセミナー「臨床におけるうま味の活用」(徳島大学大学院)

UMAMINI COLUMN No.3

道添明子(あーぴん)の
「薄味だからこそおいしい、秋の彩り減塩献立」

道添明子(あーぴん)料理家・栄養士

道添明子(みちぞえあきこ)
あーぴん
料理家・栄養士

『減塩食』はヘルシーで健康には良いけれど味が薄くおいしくないイメージを払拭すべく、メインの主菜や汁物はきちんと味を付け、副菜は塩分を含む食材の味付けのみでいただけるメリハリの効いたメニューで、無理なく食事が楽しいと思える『減塩だからおいしい献立』に仕上げました。

素材本来の味を感じやすい味付けですが、うま味調味料の力で素材のもつうま味が最大限引き出されています。香り・酸味のある食材や旬の食材を活用したこともポイントです。

現在、年齢や性別にもよりますが、私たちは1日で10g程度の食塩相当量を摂取しているのが現状です。そこで、健康指導予備軍の方向けに、食塩相当量を1食3g以下を目指して考案しました。

結果として、一汁三菜の献立で、食塩相当量は2.44gとなりました。

『うま味でおいしく減塩』【秋の彩り減塩献立】

『うま味でおいしく減塩』【秋の彩り減塩献立】

主菜秋鮭の蒸し焼き4種のきのこ彩りあんかけ

秋鮭の蒸し焼き4種のきのこ彩りあんかけ

鮭の下味は塩のかわりに
味の素®を使用し減塩

《材料》2人分
鮭・・・2切れ(1切れ70g)
味の素®・・・10振り(1g)
しめじ・椎茸・えのき・舞茸・・・各40g
にんじん・・・10g
◎水・・・200ml
◎味の素®・・・4振り
◎醤油・・・大さじ1
◎みりん・・・大さじ1
片栗粉・・・小さじ1(水小さじ2で溶く)
すだち・・・2個

《作り方》
1. 鮭に味の素®で下味をつける。(10分おいて水気を拭いておく。)
2. しめじ、舞茸は石づきを取り小房に分け、椎茸は石づきを取りそぎ切り、えのきは石づきを取り、3cmの長さに切る。
3. フライパンにクッキングペーパーを敷いて鮭の表になる面から入れて焼き、返して蓋をして両面を焼く。
4. 鮭をペーパーごと取り出し、器に盛り、フライパンに◎と2.とにんじんを入れて2〜3分加熱して仕上げに片栗粉でとろみをつける。
5. 鮭の上から餡をかけてすだちを添える。

副菜きゅうりとしらすとかいわれの酢の物

きゅうりとしらすとかいわれの酢の物

しらすの塩分とかいわれの辛味・菊の香りでいただく減塩酢の物

《材料》2人分
きゅうり・・・1本(100g)
味の素®・・・3振り
しらす干し・・・20g
かいわれ菜・・・20g
食用菊・・・10g(酢大さじ1)
◎酢・・・大さじ1
◎砂糖・・・小さじ1

《作り方》
1. きゅうりは薄い輪切りにして味の素®をふり、10分おいて洗わずに水気を絞る。
2. かいわれ菜は根を取り、4cm長さに切る。
3. 食用菊は花びらを取り、熱湯をかけて酢をかけておく。
4. きゅうり、しらす干し、かいわれ菜、食用菊を◎で合わせて、器に盛る。

副菜さつま芋の蜂蜜レモン煮

さつま芋の蜂蜜レモン煮

塩を加えずレモンの酸味のみで味を引き締める減塩煮物

《材料》2人分
さつま芋・・・80g
レモン・・・1/2個
水・・・100ml
レモン汁・蜂蜜・砂糖・・・各大さじ1

《作り方》
1. さつま芋は1cmの輪切りにして水にさらしてアクを抜く。
2. レモンは2枚薄切りにして、残りは絞る。
3. 耐熱容器に①と②と調味料を入れて電子レンジ(600W)で3分加熱する。

汁物なすと油揚げのみそ汁

なすと油揚げのみそ汁

みその量は少なめでも、うま味と薬味の風味でおいしいみそ汁

《材料》2人分
なす・・・1本(80g)
油揚げ・・・1/2枚(50g)
水・・・300ml
◎みそ・・・小さじ2
◎味の素®・・・4振り
青ねぎ・・・1本(小口切り)
七味唐辛子

《作り方》
1. なすは縦半分に切り、斜めに1cm幅に切り、油揚げは短冊に切る。
2. 鍋に水となす、油揚げを入れて中火にかけ、なすが柔らかくなったら◎で調味する。
3. 器に盛り、青ねぎ、七味唐辛子を添える。

■ご飯
白米米飯・・・150g

道添明子(みちぞえあきこ)・あーぴん 料理家・栄養士

食品企業の商品開発部勤務を経て、フジ・サンケイグループにて社長直轄の料理レシピ開発の改革チームメンバーの一人として参画。その後、結婚・出産を機にフリーランスの料理家として、企業や行政のレシピ開発、料理教室等の活動を始動。

現在は活動の場を広げ、東京都栄養士会 地域活動事業部に所属し、栄養ケアステーションの料理教室や栄養・食育セミナーなどの講師も行う。
instagram https://www.instagram.com/apin210/

とうとう本当にお別れの時間が…。最後に一言だけ言わせてください。

うま味でおいしく健康な毎日を。

本企画では、皆さんのご意見を伺いながら、「おいしく減塩」やうま味とうま味調味料について、簡単ではございましたが、まるっとお話しさせていただきました。ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

うま味調味料は、栄養士・管理栄養士の皆さんに活用いただくことで、本当の価値が発揮されるものだと思っています。ぜひ皆さんの栄養課題解決にお役立ていただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

また実際に「うま味でおいしく減塩」を試された方は「ご意見・ご感想」や「マイレシピ」をお寄せください↓ ↓ ↓お待ちしています。

それではまた、お目にかかりましょう!