管理栄養士・栄養士のコミュニティ エイチエ

チエノート

学び

2023.08.18

給食委託会社の導入、入れ替え時の注意点とは? ~介護施設編~

カバー画像:給食委託会社の導入、入れ替え時の注意点とは? ~介護施設編~

こんにちは!管理栄養士のえぬこです。

厨房を外部委託する施設が増えている中で、給食委託会社との関係性に悩んでいる管理栄養士さんも多いのではないでしょうか。

・配膳間違いが多く、インシデントが発生しても改善がみられない
・献立内容が栄養価を満たしておらず、栄養管理に支障が出ている
というような、利用者様へ影響が出る問題から

・委託給食会社の栄養士が非協力的で困っている
・余った食材を持ち帰る人がいる
といった、人間関係や会社の管理体制に関わるものまで、様々な悩みがありますよね。

そこで、今回の記事では、給食委託会社の導入・入れ替え時に、施設側管理栄養士がチェックしておきたいポイントをお話しします。主に介護老人保健施設や特別養護老人ホーム向けの内容が中心です。

1.その切り替え、本当に必要?業者切り替えは慎重に!

給食委託会社との関係で問題が発生したときは「業者の切り替え」よりも、まずは「関係性の再構築」に努めましょう。

給食業者の切り替えは、
・施設側に膨大な作業コストがかかる
・頻繁な切り替えはよくない噂が立つことがある
・切り替えても「関係性が良くなる」とは限らない
という点から、あまりおすすめできません。

何か問題が起きた時は
上司、施設長、事務長などに業者の問題点を伝える。
②問題点を現在の給食委託会社に伝え、改善を要求する。
③改善がみられない場合に、他社に見積もりを依頼する。
という流れで対応しましょう。
施設側の管理栄養士が力を発揮すべきタイミングは、②よりも、①の段階が重要です。給食委託会社の不満や問題点を精査し、監督の立場である管理栄養士だけではなく、施設全体の意見として対応しましょう。

私たち管理栄養士の上司や給食委託会社の管理部門は専門職でないことが多いので、専門性が絡む問題に対して知識が乏しい場合もあります。栄養部門の知識がなくても理解できるよう、根拠に基づいて問題点を協議できるようにしましょう。

報告例としては
・配膳間違いが多い
 →インシデント発生件数を管理し、対策されていない事故や喫食者への影響を書面にする。

・衛生基準を守っていない
 →HACCPや大量調理衛生管理マニュアルに違反している証拠を写真に残す。

・栄養価が不足している
 →食事摂取基準や食事規約と比較し、不足部分を数値化する。

・刻みやミキサー食の発注が正しくされていない
 →数か月単位で献立・発注書と食数の合わない部分を計算する。
などです。

一般的に、給食委託会社側は施設側から指摘が入ったタイミングで、管理部門責任者や営業部の担当者、本社所属の経験豊富な管理栄養士などが対応してくれます。

この段階で改善が見られたら、業者切り替えをする必要性は低いでしょう。

2.業者切り替えが決まったら、引継ぎ関連は慎重に!

給食委託会社に問題点を伝えても改善されず、次の業者が見つかったら、業者の切り替えを行います。給食業者切り替え時の引継ぎは、前後の業者双方に十分配慮してください。

給食委託会社はどこも新規契約や撤退を経験しています。そのため、雰囲気でなんとなく分かっている場合でも、絶対に口に出してはいけないことです。

委託業者の切り替えにより、職を失う人や待遇が下がる人もいるかもしれません。継続雇用が保証されても、その期間は関係者全員がナーバスになりがちです。

また、給食業界は会社同士の付き合いや慣習もあります。何事も単独で判断せず、仲介業務は必ず施設責任者と相談しながら進めてくださいね。

急な委託業者変更と引き継ぎについて(愚痴を含む)

3.給食委託会社との業務委託契約には管理栄養士の意見を反映してもらおう!

驚くことに、給食委託会社との契約に管理栄養士が関われない施設もあるそうです。管理栄養士が一般職員で、業者との契約は管理部門が担う体制の施設ではよくあることのようです。

しかし、給食委託会社は、他の業者(清掃やリネン、理美容など)と異なり、専門職の業務・利用者様の健康管理に大きく関わる業者です。管理栄養士・看護師・介護士など専門職の意見を取り入れずに契約すると、後々トラブルや不都合が生じるケースも少なくありません。

契約締結前に「食事基準(食事せん規約)」「業務分担」の打ち合わせには必ず参加さ​せてもらいましょう。

4.委託導入、入れ替え時に確認しておきたいポイント

管理栄養士は、業務を遂行する上で必要なことを中心に栄養部門責任者の目線で業者選定に関わりましょう。

どの項目でも押さえておきたいポイントは次の2点です。
・トラブル防止のため、契約書に掲載されない細かい約束事は覚書や議事録で書面にしておく。

・契約締結前は最もクライアントの希望を通しやすい場面なので「これは無理かな?」と自己判断せず、営業にはできる限りたくさん要望を伝えておく。
次に、具体的にチェックしておきたいポイントをお話しします。契約金額については事務管理部門主導で話が進むことが多いので、今回は取り上げません。

5.運営管理・人材教育についての注意点

まずは、運営管理や人材教育についての注意点をお伝えします。

1)栄養士の配置の有無

見積書の人員配置では、給食運営に必要な人員配置がされているか、栄養士が明記されているか確認しておきましょう。給食委託会社側の責任者が栄養士であれば、業務上の意思疎通がスムーズになりやすいです。

私の経験上、給食委託会社は、小規模な施設では契約書に職種ごとの配置人数を明記することを避けようとされることが多いようです。しかし、議事録ベースでもいいので栄養士の配置を確約した記録はとっておきましょう。

2)栄養士の教育体制や本社のサポート体制の確認

現場配置の栄養士に対するサポート体制について確認しておきましょう。現場栄養士だけでなく、管理部門の栄養士担当者を明確にしてくれる会社が理想的です。

理由は、現場の栄養士が未経験やブランクのある方だった場合は、管理者のフォローが不可欠となるためです。
施設管理栄養士は、給食委託会社側のスタッフに直接指導や研修を行うことができません。食事摂取基準の改定や、嚥下食の学会基準、治療食の各種ガイドラインに基づいた食事療法についての打ち合わせをするときに、基礎レベルの説明から始める状態になると、業務に支障がでるかもしれません。

また、給食委託会社に新卒で入社した栄養士さんや、ブランクがある状態で復職された栄養士さんの立場で考えたときはどうでしょうか。サポート体制がしっかりしていたら、安心して働けますよね。給食委託会社の人員が定着することは、施設側にとっても重要です。

3)治療食や嚥下食・個別対応・医師からの指示に細かく対応できるか

治療食や嚥下食、個別対応にどこまで対応するか確認し、書面にしておきましょう。契約締結後は、新たな対応を増やしたくても、引き受けてもらえないことがあります。

例えば、非常に細かいことですが
・付加食のふりかけや梅びしお・佃煮などは給食委託会社が提供する
・好き嫌いでも禁止3品までは代替対応をする
・常食でも葉物・根菜はソフト食で提供する
などもリスト化しておくとベストです。

特に介護保険では、個別対応について配慮するよう、下記の通り国が求めています。
管理栄養士は、食事の提供に当たっては、給食業務の実際の責任者 としての役割を担う者(管理栄養士、栄養士、調理師等)に対して、 栄養ケア計画に基づいて個別対応した食事の提供ができるように説明及び指導する。なお、給食業務を委託している場合においては、委託業者の管理栄養士等との連携を図る。
これまでは「給食だから対応できません」が当たり前だった部分もあるかもしれません。しかし、対応しなければならない制度になりつつあることを、契約締結前に理解してもらう必要があります。

もちろん、給食委託会社側だけの努力でできることではありません。細かい対応をするためにどうすれば良いのか、コストや人員配置、作業同線や食札の表記などの打ち合わせが必要です。

4)契約書の業務分担表だけでは線引きできない業務を具体化しておく

食事変更の流れや食札作成方法、食事変更の締め切り時間など契約書に書ききれない内容は必ず文書しておきましょう。契約締結後に認識の食い違いがあると、業務に支障が出てしまいます。

食数管理を具体例に挙げて説明しますね。
「食数管理」は一般的に委託する側(施設側)に〇がつく契約書が多いかと思います。

この食数管理とは「食数を示す簡易な作業」を指しているのか、「厨房内のボード管理のような毎食書き換えが必要になる業務」を指しているのかによって、施設側の業務負担は大きく異なりますよね。

現場レベルで具体化した文書を作成し、このような小さなすれ違いを事前に防いで、目線が合った状態で業務に取り組めるようにしましょう。

6.衛生管理・実地指導(監査)対応についての注意点

次に、衛生管理と実地指導対応についての注意点をお伝えします。

1)衛生管理

衛生管理については、以下のポイントを確認しておきましょう。
・衛生管理体制におけるマニュアルと管理帳票
・HACCP(大量調理衛生管理マニュアル)に準拠した衛生管理を行っているか
・衛生管理についての従業員に対する教育・研修体制
・過去に起こしてしまった事故・行政処分とその場合の対応
大手の給食委託会社であれば、大量調理衛生管理マニュアルを遵守できるように会社のマニュアルを作成しているでしょう。しかし、中小規模の会社は、現場でオリジナルの書類を作っているケースも多々あります。

給食を業者へ委託しても、施設には監督する義務がありますので、大量調理衛生管理マニュアルに基づいた体制と記録ができているか必ず確認しておきましょう。

2)実地指導対応

次に、実地指導の対応です。
・衛生マニュアル・衛生や栄養関連帳票が自治体の実地指導で使えるかの確認
・実地指導時に、管理職が立ち会うか
・過去に他事業所において実地指導で指摘された内容や対応について
この辺りも確認しておきましょう。

帳票関連は、基礎を抑えていても、自治体が求める内容と合致していないことがあります。私の経験では、市区町村で保健所を持っている自治体は都道府県より実地指導が厳しい印象です。
例えば、食料構成表で「果実」と「果実加工品」が別(生果物とフルーツ缶が別)の自治体もあれば、まとめて「果実・果実加工品」と取り扱っても良い自治体もあります。この違いは現場で働く栄養士さんにとって、非常に大きいですよね。

また、過去に実地指導で指摘された内容と、それに対してどう対応したのかの事例についても確認しておくと良いでしょう。

実地指導では、指摘されることが問題なのではなく、指摘された内容についてどう改善したのかが重要な点です。正しい運営をするための指導ですから、指摘された後の対応についての事例を聞いておきましょう。

当然、事業所名までは伏せるべきですが、事例を紹介できる給食委託会社は真摯に業務に取り組む業者と評価できますし、現場の管理職が回答できる会社は、管理職が責任をもって現場を管理できている業者であると言えると思います。

7.管理費と給食材料費以外の費用についての注意点

給食運営では、管理費・給食材料費以外にも費用が発生することがありますよね。
例えば
・栄養補助食品(付加と献立内使用でも負担が異なるか)
・とろみ剤・ゲル化剤
・お茶
・天紙やお弁当カップ
・災害時備蓄食・災害時備蓄食水
・食品庫を整理するための棚などの細かい備品
・厨房内掲示物の印刷やラミネート
などです。どちらが負担するか明確にしておきましょう。

昨今の新規契約では、施設側が負担する契約が大多数です。しかし、現業者との契約をしばらく見直していないなら、業者負担になっているかもしれません。

また、印刷した紙をラミネートして作った禁止用の札や食数表などは、施設負担にしておくことをおすすめします。給食委託会社が手作りする現場もありますが、その場合は撤退時に全て処分されることが想定されます。

施設側で出力、印刷しラミネート加工しておく約束にしておけば、業者を切り替える際でも廃棄されませんから、個人的には業務・費用負担以上に価値があることだと考えています。

食材費や経費の負担の変更について

保存食の費用負担は施設?委託?のどちらですか?

保存食の費用負担は施設?委託?のどちらですか?

8.さいごに

私の経験をもとに、給食委託会社の選定や切り替え時の注意点についてお伝えしました。今回の内容は、管理栄養士目線で考えたときの情報が出回りにくい内容だと思います。ぜひ、参考にしていただけると嬉しいです。

エイチエのQ&Aにも、業者切り替えについてのトピックスがたくさん掲載されています。

委託業者の切り替えを行った事がある方に質問です

委託給食会社の入れ替えにおいて気をつけることについて

給食委託会社との関係性に正解はありません。「委託 切り替え」や「委託 トラブル」などで検索して、情報収集もしてみてくださいね。

この記事をシェアする

えぬこ

プロフィールと作成記事はアイコンをクリック!