わかっていても、つい…。隣の食事が気になったり、スーパーの陳列棚の前でじっくり新商品のラベルチェックなど、もはや職業病なのかもしれない栄養士のあんなこと、こんなことを、皆さんのアンケートから紹介します。

自分が栄養士だなぁと実感するのは…

「毎日の献立を、タンパク質量や野菜の摂取量を計算しながら作る。 ファーストフード店でポテトを頼む人が選んだメニューを見て、炭水化物が多くなりすぎていないかチェックしてしまう」 (30代女性 管理栄養士)
「家の食事を作るときに衛生面を気にしてしまう。 新しいものや、何かを比べるときなどに食品表示(特に添加物や原産地、カロリーなど)を確認する」 (30代女性 管理栄養士)

・・・無意識のうちに、そんなことができるなんて、実はとてもすごいことですよね!

栄養士になって良かったと思うときは…

「友人に栄養に関するアドバイスをして感謝をされたとき、病気の祖父の食事を作ったとき」 (40代女性  栄養士)
「結婚してかなりの年月がたっているが、夫の健康診断の結果が毎年オールAであること。結婚前は不摂生な食生活だった夫の意識が変わり、外で食事する際や買い物をする際にもより安全で健康になるよう意識できるようになったこと」 (50代女性 管理栄養士)

・・・なるほど。それは素敵なことですね。ごちそうさま!

いま、気になっていることは何ですか?

関心のあるトピックは「子どもの食育」が55%でトップでした。2005年に食育基本法が成立して一躍メジャーになった「食育」というキーワードがすっかり定着し、今では食の専門家たちの間でもメインテーマとなっていることがうかがえます。特に子育て世代でもある30代では67%の方が「関心がある」と回答、次世代を担う子どもたちに託す思いが感じられる結果となりました。

その他に「うま味・うま味調味料の活用等」を挙げた人は全体では25%でしたが、20代では37%が「関心がある」と回答、若い世代の関心度が高いことがわかりました。

これから取り組んでいきたいことは?

やはり多くの栄養士・管理栄養士が直面しているのが「減塩」でした。「塩分の過剰摂取」に取り組んでいきたい人が64%と最も多くの割合を占めました。「高齢者のロコモ・フレイル」「野菜の摂取不足」「高齢者の喫食量減少」を挙げた人は全体の50〜60%と、栄養指導や食事業などの現場で働く皆さんの課題意識が高いことがうかがえます。


関心あるトピック


関心ある栄養課題


健康長寿社会を実減するためには「減塩」がマストです

2019年12月、厚生労働省の「『日本人の食事摂取基準』策定検討会」がまとめた報告書は、日本が直面している高齢化社会の現実を見せつけられるような内容でした。今回の焦点になったのは「活力ある健康長寿社会」。特に高齢化による栄養課題に向き合うためには、若いうちからの栄養面での対策について、思い切った提言がされています。皆さんはすでに現場で向き合われていることと思いますが、なかでもナトリウム(食塩相当量)については従来の基準より厳しい設定で、成人の目標量をこれまでより、1日あたり0.5gを引き下げ、男性が1日7.5g未満、女性が1日6.5g未満(日本人の食事摂取基準(2020年版))となりました。

実態を調べた「平成30年国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、1日の食塩摂取量(食塩相当量換算)は平均で男性11.0g、女性9.3gとなっており、目標量より男性で3.5g、女性で2.8gも多く摂取していることが明らかになりました。加えて、ここ数年の食塩摂取量は下げ止まりになっているという事実も考えると、これ以上の減塩はまさに目の前に立ちはだかる大きな「壁」。現場の栄養士・管理栄養士の皆さんにとって、小さじ1の重さは相当なものでしょう。

ちなみにWHO(世界保健機関)は、世界中の人々の食塩摂取目標を1日5gと設定しており(!)、日本の公的な基準でも近い将来、6g未満を目指していく方向であることは見逃せません。

「減塩=おいしくない」というメニューはNGという現実

塩分の摂りすぎは健康を損なうなどの原因になりやすいというエビデンスがある一方で、「塩気が少ないと、おいしく感じない」という人が多いのも事実です。地域や世代によっても異なりますが、高齢者施設などでは、減塩メニューだと食べ残しが多く出てしまうなどの経験があるみなさんも多いのでは。悩みは尽きません。

「高齢者は塩気を感じづらくなっているため、塩気の多いものを好まれます。味付けをしっかり、1日の塩分量を考えながら、麺類などの特別食を定期的にいれていくのは難しい」 (20代女性 管理栄養士)
「味が薄いので料理に醤油をかけたいと言われることも。そのときには減塩しょうゆをかけているが、減塩しょうゆだと物足りないと量を多めにかけようとする人もいて悩みの種になっている」 (30代女性 管理栄養士)
「まだまだ塩分が低い=味が薄い=おいしくないにつながってしまうので、減塩でおいしい工夫のレパートリーが少ないことが悩み」 (30代女性 管理栄養士)
「塩分を制限してしまうと食事がまずい、と言われて食事量が減ってしまう。補助食品を使わず食事を召し上がっていただくために、ご本人の味付けを重視すると塩分過多になってしまう。 どっちをとるか、リスクか楽しみかがいつも迷う」 (40代女性 管理栄養士)

「減塩」と「おいしい」を両立すべく、
さまざまなアイデアが実践されています

そんな中でも、レシピ作成や調理、栄養指導を実際に行うときに、どのような工夫をしているのでしょうか。

「カレー風味にすることで、減塩レシピは味や見た目などで食事を楽しみながらおいしく食べてもらえると思う。香りによる食欲増進効果もあり、食欲をそそり満足感も得ることができると感じた」 (20代女性 管理栄養士)
「減塩調味料の活用、うま味または酸味や香辛料を使った味付け、海苔など風味が良いものをトッピングする、かけるよりもつけて食べる、味にメリハリをつけるために一食の中で一品だけに塩分を集中させる」 (20代女性 管理栄養士)
「レモンやわさび、梅を使う。香りをたてると醤油が少なくてもおいしく感じるので」 (20代女性 所属 管理栄養士)
「出汁を上手に使う。ちゃんと出汁をとることで汁もの、煮物全てにおいて調味料の使用量を抑えることができ、減塩につながる。出汁をとることは、うま味を上手に使うことなので、うま味調味料の利用も同じことだと思う」 (30代女性 管理栄養士)

香りを上手に利用する、味にメリハリをつけるなど、おいしいと感じさせるテクニックがいろいろあるのですね。皆さんが試行錯誤を経て実践しているさまざまなやり方は、とても興味深いものでした。これからのテーマは「減塩しても、いかにおいしく感じてもらうか」であることは明らかです。「おいしく減塩」をキーワードに、食の未来を考えていきましょう。

いかがでしたでしょうか?今後、「おいしく減塩」の極意や、あの先生のインタビュー、「おいしく減塩」実践レシピも紹介していきますので、お見逃しなく! 次回の配信日は10月21日(水曜日)です。