栄養士・管理栄養士の皆さんにとって、今年はこれまで以上に、兎にも角にも「減塩」に取り組まざるを得ないのが実情ですよね。日本人の1日の食塩摂取目標量は、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では成人で男性7.5g未満、女性6.5g未満。高齢者はさらに「6g未満を目指そう」と指導されるケースも多くあり、年々減塩が重く肩にのしかかります。しかも、患者さんの健康にとって絶対的に必要な減塩も、本人にしてみたら・・・とても喜んで取り入れてくれるものではありません。塩分が全くない食事は、それこそ味気ないもので「おいしさ」を感じることができないのですから。過度の減塩は、食べる喜びすらなくなってしまうことにもつながり、逆に低栄養を招いてしまうことだって可能性ゼロとは言えないのです。コロナ禍の「自粛警察」が問題になったように、声高に減塩を主張して他人に強制するかのような「減塩警察」も少し考えものですね。

「近年では、本人の食欲低下にならないよう減塩方向へ導く栄養指導が大事だとされています」と語るのは、医療法人社団福寿会 慈英会病院で在宅栄養に取り組まれている中村育子先生です。日本在宅栄養管理学会副理事長も務められている中村先生は、在宅医療での管理栄養士の活動が注目される前から積極的に訪問指導を行っており、豊富な知識とスキルをお持ちで、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介されたこともあるスペシャリストです。

「段階的に減塩に取り組み、食事の内容は(減塩が必要な)本人に選択していただくようにする、これが私たちの役割なのだろうと思います」と中村先生。では、具体的には、どのように減塩を指導されているのでしょうか。

まず、やるべきことは「よく聞く」こと

医療法人社団福寿会 慈英会病院在宅部 栄養課 課長 中村 育子 先生(なかむら いくこ)
中村 育子 先生(なかむら いくこ) 医療法人社団福寿会 慈英会病院在宅部 栄養課 課長
「訪問指導の場合は、まず聞き取りをします。どのような食生活を送っているのか、という基本の質問から始め、料理を作る人は誰か、食材を買う店はどこか、など。趣味や育った環境を聞いたりすると、案外その中に何かヒントになるものが見つかったりすることもありますよ」 と中村先生。減塩を必要とする人(多くの場合は患者)が、食に対してどのような考え方を持っているのか、さまざまな観点から捉える必要があると考えています。
「在宅の場合は、やはり食事がいちばんの楽しみです。それが嫌になったり苦痛になったりしたら、何のために食事療法しているのか、ということになってしまいます。そのあたりは丁寧に把握しておきたいですね」 昔ながらの和食を想像してみましょう。朝昼晩いずれもみそ汁、梅干しや漬物、煮魚などが食卓に並び、塩分量に関していえば多いと言わざるを得ません。
「高齢の方が若い人よりも濃い味を好む傾向にありますが、何十年もこの食生活を続けていたら、舌が濃い味を欲するようになっているのです。患者さんの味覚を想像してあげることも大事ですよ」 と中村先生。

エイチエ会員の実践している減塩&中村先生の減塩3箇条

エイチエ会員のアンケートによると、すでに実践している減塩の工夫には、さまざまなものがありました。

「減塩調味料を活用する」 (20代女性 管理栄養士)
「香りをたてると醤油が少なくてもおいしく感じるため、レモンやわさび、梅を使ったりしています」 (20代女性 管理栄養士)
「うまみ調味料を使用する」 (30代女性 管理栄養士)
「出汁をきかせる、とろみをつける。好きなもの1点は普段通りの味付けにするが、その他は薄味にしてメリハリをつける」 (30代女性 管理栄養士)

しょうが 、みょうが、にんにくなどの香味野菜を使うこと、わさび、からしで味に変化をつける、出汁をしっかり取る、うま味でまろやかさを出すことなどが、一般的に行われていることのようです。 これには、中村先生も賛成です。

「香味野菜は、私も栄養指導する時によく使います。とても良い減塩の一歩ですよね。1食の塩分量に捉われ過ぎず、1日の食事全体で塩分バランスを取ってみようという感覚を患者さんに身に付けていただくことで、続けられるおいしい減塩がスタートします」 中村先生から、さらに一歩踏み込んだポイントとして次の3つを提案していただきました。
医療法人社団福寿会 慈英会病院在宅部 栄養課 課長 中村 育子 先生(なかむら いくこ)
中村 育子 先生(なかむら いくこ) 医療法人社団福寿会 慈英会病院在宅部 栄養課 課長
1)三食のうち1食は和食ではないものに とにかく和食は塩分の摂取量が多いものです。まずそれを患者さん(塩分の摂取制限が必要な人)に認識していただき、例えば三食きちんと取られている方には、朝はパンにコーヒーや牛乳、フルーツなどにする。また、三食とも和食を好まれる方には、いつもの調味料や加工食品を減塩タイプのものにして試すことを薦めてみるのも一手です。減塩商品は昔とは違い、今は非常においしくなっているので、ご自身の好みの減塩商品を積極的に味方にすることを提案します。

2)みそ汁は1日に一杯分 やはりみそ汁は塩分量が多いものです。でも飲みたい!という場合は、朝昼晩3杯を少しずつ減らしていきましょう。例えば、朝はパン食にすれば飲みませんよね。そして、昼と夜は量を2/3にすることから始め、慣れてきたところで1/2量にするのです。1日トータルの摂取量を、結果的に半分にしていきます。

3)漬物は毎日ではなく 箸休めに、ついつい食べてしまう漬物は2日に一度くらいに。どうしても毎日食べたいという場合は、みそ汁と同様に量を半分にすることをトライしましょう。

 

最も必要なことは自由度を与えること、そして「おいしく減塩」

「実は、先に挙げた“3つの提案”には、大事な前提があるんです」 と中村先生。一体何なのでしょうか。
「それは“ムリをしない”ことなんです」 人は、おいしくないと食べないんですね。なぜ減塩が必要なのかということや、具対的なやり方を本人が納得して自分から進んでやるようにならないと、できるようにならない。その人のライフスタイルに合わせて、少しずつ食習慣を変えていくように栄養指導していくことが大切です。主治医の先生やヘルパーさんとも連携するようにしてはいかがでしょうか。

加工食品の「塩分」は、使いようです

● 食塩摂取源となっている食品のランキング(20 歳以上)
順位 食品名 1日あたりの食塩摂取量(g)※1 1日あたりの食品摂取量(g)※2 摂食者(人)
1 カップめん 5.5 92.7 368
2 インスタントラーメン 5.4 86.2 413
3 梅干し 1.8 8.9 2,835
4 高菜の漬け物 1.2 21.1 347
5 きゅうりの漬け物 1.2 32.2 1,580
6 辛子めんたいこ 1.1 20 567
7 塩さば 1.1 63.7 787
8 白菜の漬け物 1 44.9 1,306
9 まあじの開き干し 1 63.7 555
10 塩ざけ 0.9 56 2,605
11 大根の漬け物 0.9 30.3 304
12 パン 0.9 70.8 10,558
13 たらこ 0.9 19.7 519
14 塩昆布 0.8 4.6 359
15 かぶの漬け物 0.8 29.6 546
16 福神漬 0.8 15.4 607
17 キムチ 0.7 33.1 753
18 焼き豚 0.7 30.4 757
19 刻み昆布 0.7 19.6 335
20 さつま揚げ 0.7 38.2 2,538
※1 当該食品からの食塩摂取量の平均値。
※2 当該食品を摂取している者における摂取量の平均値。
出典:国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所データより(2017年)
※平成24 年国民健康・栄養調査のデータを元に解析。対象は20 歳以上の男女26,726 名

塩分が多く含まれている代表的な食品として挙げられることが多いのが「加工食品」。カップ麺やインスタントラーメンの塩分摂取量が多いことはイメージ通りかと思いますが、かまぼこ、ちくわなどの練り物やハム、ソーセージなどは、一般の方々にとっては、塩分が含まれていないイメージなので、注意が必要です。

「かまぼこやちくわは、調味料なしで食べてくださいと言います。もともと塩気があるのに、わざわざしょうゆをつけなくてもいいですよね」 と中村先生。さらに、
「加工食品のメリットは、何と言っても手軽さです。それに加えてボリューム感を出すことができ、主菜になることです。肉や魚がある時には加工食品を摂らなくても良いので、そのあたりは注意が必要です」 と仰っています。

いかがでしたか? 次回は連載の3回目です。お見逃しなく! 次回の配信日は10月28日(水曜日)です。