肢体不自由児の給食・摂食指導に関する基本事項
藤澤 憲
兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科
給食・摂食指導に携わる役割や力量が問われている一方で,教員が自信をもって指導を行えていないこ とが推察される.このような状況では,給食・摂食指導を受けている子どもたちは,教員の手技や発言か ら不安を感じとってしまい,食べることに受け身にならざるを得なくなると考えられる.そこで,本稿で は,特別支援教育の現場に携わる教員が給食・摂食指導を身近に感じて指導の一助となることを願い,筆 者がこれまで特別支援学校(肢体不自由)で体験してきた内容も交えて,給食・摂食指導の基本留意事項 等を概説することを目的とした.食べることに関する発達の遅れや課題がある子どもの実態は様々であ る.安心・安全に食べることにより,多様な感覚に働きかけることができ,生きる楽しみや満足感,情緒 の安定等を育むことが期待できると考えられる.また,食べることは,生活の中の大きな楽しみである一 方,命に関わる危険を伴うこともある.そのため,常日頃から,教員は子どもとの信頼関係を築きながら, 個々の子どもの実態に合わせた給食・摂食指導を心掛けることが大切であると考えられる.
1. はじめに
重度・重複障害のある児童生徒は,「脳の機能障 害から発語・発声などのコミュニケーションにも 困難があり,体調の変調を本人が訴えにくい面が あるため,周囲の人々が本人の体温や血中酸素飽 和度,排泄,食欲などの動向を把握し,日々の体調 に十分注意を払う必要がある」と言える(高橋, 2011)[1] .
給食・摂食指導に関する教員の役割を述べた先 行研究として,藤井ら(2018)[2]は,「摂食時の支援 を受けている児童・生徒は,教員や支援者が変わ るとスプーン遊びや一口量が変わり,個人の特性 に応じた食べ方よりも教員や支援者の食べさせ方 に自分を合わせることを学んでしまう可能性もあ る.また,担当する教員や支援者が変わると食事 ができなくなる児童・生徒の存在もあるため,自 立活動の「健康の保持」の側面からも摂食指導に 携わる学校教員の役割は大きい」ことを指摘して いる.また,文部科学省(2012) [3]は,「障害のある幼児児童生徒の給食その他の摂食を伴う指導に当 たっての安全確保の徹底について(通知)」におい て,食事援助の仕方の工夫や食べやすい姿勢の保 持,安全な指導の徹底を教員が心掛けるように示 唆している.
一方で,藤井ら(2018) [2]は,学校教育において, 教員が障害のある子どもたちの摂食指導に携わっ ているにもかかわらず,摂食指導の手技,知識の 習得をする機会が十分に確保されていないことを 指摘している.また,藤井(2006) [4]は,肢体不自 由特別支援学校教員を対象に,児童生徒の食事上 の問題,指導体制,指導上の悩み等からなる質問 紙調査を実施した.その結果,多くの教員が大学 での養成教育や指導経験が不十分なまま指導にあ たらざるを得ない状況にあり,悩みをもちながら 指導にあたっていたことが報告されている.つま り,給食・摂食指導に携わる役割や力量が問われ ている一方で,教員が自信をもって指導を行えて いないことが推察される.このような状況では給食・摂食指導を受けている子どもたちは,教員 の手技や発言から不安を感じとってしまい,食べ ることに受け身にならざるを得なくなると考えら れる.また,学校現場の教員向けの給食・摂食指導 に関して,食べる機能や摂食機能の発達段階,食 形態,姿勢・介助方法等の基本事項が比較的簡潔 に,かつ一続きにまとめられたような先行研究や 学習テキストはこれまであまり見当たらない.
そこで,本稿では,特別支援教育の現場に携わ る教員が給食・摂食指導を身近に感じて指導の一 助となることを願い,筆者がこれまで特別支援学 校(肢体不自由)の教員として体験してきた内容 も交えて,給食・摂食指導の基本留意事項等を概 説することを目的とした.ここでは,具体的に想 定する教員像として,特別支援学校の肢体不自由 教育を初めて担当する教員を対象とした.また, 想定する子ども像として,重複障害学級(肢体不 自由・知的障害)に在籍し,座位保持装置や車いす を使用する,または歩行器や介助歩行等で学校生 活を送る子どもを対象とした.
【追記:2022/01/28 22:30】
http://journal.otsuma.ac.jp/documents/journal/2019no29/2019_155.pdf
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