情報 読売新聞 コンビニで栄養相談? あなたの街の「顔の見える管理栄養

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2021/06/18 12:16:31

この夏、訪問栄養食事指導を始めて8年になります。栄養指導の依頼元は、医師、訪問リハビリテーションを行うリハビリ職の方、それに介護家族から直接問い合わせをいただくこともあるなど、出会いのきっかけはさまざまです。依頼の目的別に件数をまとめたところ、「介護食や 嚥下えんげ 食の作り方を指導してほしい」が約半数を占めていました。それぞれの患者さんには飲み込みの障害だけでなく、低栄養状態だったり、認知症があったり、さらに糖尿病や腎臓病などの生活習慣病があったりと、とくに高齢者をめぐる食の問題は一筋縄にはいきません。介護をする家族や施設のスタッフは、試行錯誤しながら食事を提供しています。

 最近は、地域の「介護予防教室」などのアットホームな講演会から、大規模な医学系の学術集会まで、いろいろな場所で訪問栄養指導についてお話しする機会がありますが、その時に必ず聞かれる質問が「管理栄養士ってどこにいるのですか?」です。

気軽に栄養相談ができる場所が地域にない

コンビニで栄養相談? あなたの街の「顔の見える管理栄養士」
街のコンビニ店内で


 今年4月、「がんと食事」に関するオンラインイベントに登壇する機会がありました。「がん」と診断されると、抗がん剤治療や放射線治療、さらに外科手術を受ける方も少なくありません。治療にともない、副作用で味覚異常が起きたり、食欲不振になったりと、思うように食事が取れなくなると、短期間のうちに体重が減少してしまい、治療が継続できなくなるケースもあります。なるべく体重減少を防ぎ、体力を維持するために、効率的に栄養を摂取する必要があります。通院している方は、医療機関の管理栄養士に相談することができますが、オンラインイベントの事前アンケートでは、医療保険を使って栄養相談を受けられることを知らない方が約半数もいらっしゃいました。

 せっかく身近で栄養相談を受けられる制度があっても、それを知らなければ利用することはできません。では、医療機関以外に、気軽に栄養について相談できる場所はあるでしょうか。各地の行政機関には管理栄養士が配置されていますが、多くは保健センターや保健所などに勤務しています。これまで市町村では行政主導で「離乳食指導」など母子保健事業に関わっている管理栄養士が多く、成人や高齢者の食事指導を行っているところはまだ少ない状況です。こどもからお年寄りまで、「食と栄養」について気軽に相談できる「栄養の拠点」が地域にあれば、食生活の悩みを解決するお手伝いができるのではないでしょうか。

栄養相談の拠点「栄養ケア・ステーション」とは

 「管理栄養士がどこにいるかわからない」という問題を解決するために、公益社団法人日本栄養士会では「栄養ケア・ステーション」を日本各地に広げています。

 「栄養ケア・ステーションは、食・栄養の専門職である管理栄養士・栄養士が所属する、地域密着型の拠点です。地域住民の方はもちろん、医療機関、自治体、健康保険組合、民間企業、保険薬局などを対象に管理栄養士・栄養士をご紹介、用途に応じたさまざまなサービスを提供します」(日本栄養士会ホームページより)
 私の所属するクリニックでは、これまでも地域の栄養ケアの拠点として活動してきましたが、今年4月に「日本栄養士会認定栄養ケア・ステーション 訪問栄養サポートセンター仙台」として再出発することになりました。これまでは介護保険や医療保険での栄養指導がメインの業務でしたが、今後は「地域に開かれた栄養の拠点」として、健康教室の講師や福祉施設の栄養アドバイザーなどを通して、地域の方に気軽に相談してもらえるようになりたいと考えています。認定栄養ケア・ステーションは少しずつ増えていますが、全国的にはまだ少なく、関東や関西の都市圏に比べると、東北地方は認定数が少ない状況です。

 地域によっては個性豊かな栄養ケア・ステーションがあります。カフェが併設され、「地域の集いの場」となっているところや、ドラッグストアの中にあって、洗剤やトイレットペーパーを購入するついでに「ワンコイン栄養相談」ができるところなど、地域の方がふらりと立ち寄って、ちょっとした「食の心配事」を相談できるのです。病院で管理栄養士に相談するのはハードルが高くて身構えてしまう方も、そういった環境であれば相談しやすいのではないでしょうか。

コンビニの中の栄養ケア・ステーション

 東京都文京区にある「ローソン千駄木不忍通店」の店内には、認定栄養ケア・ステーション「龍岡栄養けあぴっと」があります。毎週水曜日と金曜日の午前9時から午後5時まで、コンビニ内介護栄養相談窓口のカウンターに管理栄養士が常駐しています。運営は医療法人社団龍岡会が行っており、管理栄養士の吉田美代子さんが施設の立ち上げを担ってきました。現在は感染症拡大防止のため中止していますが、窓口前で毎日2回、体操や栄養イベントを行っていたそうです。コンビニ内という環境に合わせて「いつでも気軽に誰でも参加」がテーマ。冒頭の写真はここで開かれている体操の様子です。

 開設から3年近くがたち、今では地域の「顔の見える管理栄養士さん」になっています。吉田さんは、「当初は、開設したもののどんな相談があるか、まったくわからなかった」と話しますが、介護食について、糖尿病の食事の選び方など、さまざまな人が「日々の食事の困りごとや悩み」を相談したり、おいしい食事や健康の情報交換もしていかれるそうです。

 医療機関は多くの人にとって「非日常」の空間です。「食」は暮らしの中にありますから、病気を予防し、悪化を防ぐのも生活の中にあるといえます。高齢者だけでなく、妊娠中で食生活に不安がある方、離乳食作りや子どもの肥満に悩む親御さんも、コンビニで食事の相談ができたら便利ですね。時には、困っている方を各専門機関につなぐ「ハブ」の役割を担うこともあるでしょう。「地域包括支援センター」が介護の悩みを気軽に相談できる場所として定着していますが、気軽に食事や栄養の相談ができる「栄養ケア・ステーション」はまだまだ足りません。管理栄養士がもっと地域に飛び出していかなければならないと思います。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)

参考資料:
日本栄養士会ホームページ「栄養ケア・ステーション」
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20210615-OYTET50001/?catname=column_shiojun&fbclid=IwAR1wSnbOgNPRHUSkM_sNDCFTXK_A0PDi7AFIwhrC6811pCXztyvsvs02Rek

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