塩分摂取量が増えると本当に心血管リスクは増加するか?
複数回の24時間蓄尿検査結果を含むコホート研究のメタアナリシス
2021/12/15
大西 淳子=医学ジャーナリスト
米国Harvard T.H. Chan School of Public HealthのYuan Ma氏らは、より正確な塩分摂取量を推定するために複数回の24時間蓄尿検査を行っていたコホート研究のデータを統合してメタアナリシスを行い、ナトリウム(Na)排泄量の増加やカリウム(K)排泄量の減少と、心血管イベント発症率の間に用量反応関係が観察されたと報告した。結果は2021年11月13日NEJM誌電子版に掲載された。
Naの過剰摂取は高血圧の主な原因であり、心血管疾患の危険因子と見なされている。しかし、これまでの研究は主にスポット尿を用いてNa摂取量を推定していたため誤差が大きく、併存疾患が原因でNa排泄量が増加するなどの逆の因果関係を必ずしも否定できていなかった。
24時間蓄尿検査を行えばスポット尿よりも正確にNa摂取量を推定できるが、個人のNa摂取量はその日によって大きく変動することがあるため、1回の検査では十分とはいえない。また、既に何らかの疾患を抱えている患者や、心血管リスクが高い患者は、塩分摂取を控えている可能性もある。さらに、Kの摂取はNaの排出を促進するため、NaのみでなくKの排泄量も考慮する必要がある。そこで著者らは、健康な成人を対象に、複数回の24時間蓄尿検査に基づくNa摂取量と心血管イベントとの関係を検討することにした。
この研究では、6件のコホート研究(HPES、NHS、NHS II、PREVEND、TOHP I、TOHP IIのFollow-up Study)のデータを統合して利用することにした。HPES、NHS、NHS IIはいずれも米国の医療従事者を対象にした有名なコホート研究だ。参加者のうち、2282人のサブグループが2003~07年に24時間蓄尿検査を2回受けていた。さらに2010~13年にも1217人が24時間蓄尿検査を受けている。PREVENDは8592人が参加し、1997~98年に2日連続で24時間蓄尿検査を受け、2001~03年にも2日連続で検査を行っている。なお、検査時点で既に慢性腎臓病があった1908人は、今回の研究では除外している。TOHP Iでは2182人が参加して1987~90年に5~7回の24時間蓄尿検査を実施しており、TOHP IIでは2382人が1990~95年に24時間蓄尿検査を3~5回実施している。
これらの研究データから、少なくとも2回の24時間蓄尿検査結果による測定値が分かっており、その後の心血管イベント発生を最短でも1年以上追跡できた参加者1万709人を今回の研究の分析対象にした。NaとKの排泄量は24時間蓄尿検査の平均値を用いた。
主要評価項目は、心血管イベント(冠動脈血行再建術、致死的または非致死的心筋梗塞、致死的もしくは非致死的脳卒中の複合項目)に設定した。参加者のNa排泄量、K排泄量、尿中Na/K比とイベント発生リスクの関連を評価した。副次評価項目は、脳卒中、あらゆる原因による死亡、冠動脈血行再建術、心筋梗塞などとした。
1万709人の平均年齢は51.5歳(標準偏差12.6歳)で、54.2%が女性だった。24時間尿中のNa排泄量は、中央値で3270mg、10パーセンタイルは2099mg、90パーセンタイルは4899mgだった。腎臓以外からの損失量を、Naは7%、Kは23%と仮定して推定した1日当たりの摂取量は、Naが3516mg(10パーセンタイルは2257mg、90パーセンタイルは5268mg)、Kは3292mg(10パーセンタイルは2162mg、90パーセンタイルは4700mg)だった。
中央値8.8年(四分位範囲7.6~10.9年)の追跡期間中に571件の心血管イベントが発生していた。1000人・年当たりの発生率は5.9になった。内訳は冠動脈疾患445人(心筋梗塞232人、血行再建術213人)、脳卒中136人などだった。
Na排泄量の増加と心血管リスクの増加には関連が見られた。参加者をNa排泄量に基づいて四分位群に分類すると、24時間尿中Na排泄量の中央値は、最低四分位群2212mg、第2四分位群2942mg、第3四分位群3588mg、最高四分位群4692mgだった。心血管イベントはそれぞれの四分位群に、111件、139件、145件、176件発生していた。最低四分位群を基準にした場合の調整ハザード比は、第2四分位群が1.25(95%信頼区間0.96-1.63)、第3四分位群が1.44(0.93-2.23)、最高四分位群は1.60(1.19-2.14)だった。24時間尿中Na排泄量1000mg増加当たりに換算した心血管イベントのハザード比は1.18(1.08-1.29)になった。
同様に、K排泄量の増加は心血管リスクの減少と関連が見られた。24時間尿中K排泄量の中央値は、最低四分位群1755mg、第2四分位群2336mg、第3四分位群2784mg、最高四分位群3501mgだった。心血管イベントはそれぞれの四分位群に、148件、156件、140件、127件発生していた。最低四分位群を基準にした場合の調整ハザード比は、第2四分位群が1.00(0.78-1.26)、第3四分位群が0.86(0.67-1.11)、最高四分位群は0.69(0.51-0.91)になった。24時間尿中K排泄量1000mg増加当たりに換算したハザード比は0.82(0.72-0.94)だった。
24時間尿中のNaとK比率に基づく層別化では、比率の中央値は最低四分位群1.5、第2四分位群2.0、第3四分位群2.4、最高四分位群3.4だった。心血管イベントはそれぞれ、113件、116件、152件、190件発生しており、最低四分位群を基準にした場合の調整ハザード比は、第2四分位群が1.02(0.78-1.33)、第3四分位群が1.40(0.99-1.99)、最高四分位群は1.62(1.25-2.10)になった。
これらの結果から著者らは、24時間尿に見られるNa摂取量の増加とK摂取量の減少は、心血管リスクの増加との間に用量反応関係があることが示唆されたため、現在のNaを減らしKを増やすような食事指導は支持されると結論している。この研究はAmerican Heart Associationや米国National Institutes of Healthの支援を受けている。
原題は「24-Hour Urinary Sodium and Potassium Excretion and Cardiovascular Risk」
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/nejm/202112/573049.html?n_cid=nbpnmo_fbed&fbclid=IwAR2Iivz1lFxdU76m4DphrSEd3qkL5juzKbaB2byQGtBVdpvIx_0E0wCelP0
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